王女の話
ある時からお父様はおかしくなった。
あんなに仲の良かったお母様にさまのそばにも訪れない。
ましてや私のことなど視線にも入れやしなくなった…
どこかに出かけていたお父様が帰ってきた時、いつものお父様とは違った。
疲れ切ったお顔に何かを探すように周囲に視線を向けていた。
これはおかしいと思った方々がお父様を休ませようとするけど、お父様はその手を払った。
その中にはお母様もいらっしゃって泣きそうな顔をされていた。
そしてそのままお父様はどこかに駆けて行かれたのです。
必死の追いすがる私たちのことなんか振り返ることもなく…
それは庭園の噴水であったり、書庫や明るい日差しのさす窓際だったりとお父様は必死に何かを探しているのです。
皆が止めるのも聞かず噴水の中に入り、泣いていたのです。
涙は流さず心が泣いていたのです。
あの完璧なお父様が…
その悲壮感は見るものすべての心を打ちました。
例えるのならば大切な宝物を失くした子供のようにお父様は泣いていたのです。
お父様はお仕事はしっかりとなさいました。
けどやはり私の知っているお父様ではないのです。
仕事の合間に執務室を抜け出してふらふら歩くお父様。
お父様はいったい何を失くしたのでしょうか?
それは私たち母娘さえも凌駕するものだったのでしょうか?
「お父様にとってエスメラルダは特別だったのでしょうか?」
母の前ではそれを言うことがはばかられて、やっと口に出せたのは彼女が死んで十年もたったころだった。




