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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第3章 帝国編
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永遠の始まりと狂った日常4

 私は一人で悩んでも仕方がないと気付き、思い切ってジルに相談してみる事にした。

 同じ一日をすでに何度も繰り返している、この世界の終わり、それらをすべてを話した。どうせ次の明日には覚えていないけれど、相談した記憶は私には残る。

 いつもながら理解力の早いジルはすぐに状況を理解してくれた。そしてしばらく考えた後話を続ける。


「まず物語を破綻させないように、今までの物語をあたかも伏線のように生かしてラストに繋げる必要があるでしょう」


 なるほどと思うもののなかなか難しい問題だった。これは最初から物語を読み返してよく考えてみるべきかも知れない。


「それから半日で書ける文章量には限りがあるでしょう。大災害を食い止めるような大仕掛けの物語を書くのは難しいのではないでしょうか?」

「じゃあ方法はないの?」


「いえ、方法は一つだけあります。一つしかないというべきでしょうか?」


 ジルの確信めいた言葉に期待が高まる。私は緊張してジルの言葉を待った。


「この世界の閉じられた世界にいる限り、ループの輪から抜け出せないでしょう。だからその外へと抜け出すのです。明殿が元の世界に帰る。そういう話なら半日でなんとかできるのではないでしょうか?」


 ジルの言葉に私はしばらく呆然としていた。確かに残された可能性はそれしかないかもしれない。でも帰る覚悟も何も出来ていないのに、今こんな状況で強制的に帰らなきゃ行け無いだなんて……。


「帰る方法だって半日でどうにかならないよ」

「だから先ほども言ったように、小説内の出来事をあたかも伏線であったかのように利用して、帰還というエンディングに繋げる。そういう書き方です」


 無茶な事を言ってくれる。そんな簡単に良い方法なんて思いつかないよ。でもジルはそれができると思っているんだ。なら私もできる限りやるしかない。

 だけどおそらく最後の今日は執筆に時間をとられて禄に説明なんて出来ない。みんなに別れを告げる時間さえないだろう。


「みんなに別れも言えずに帰るなんて……そんなの嫌だ」


 ジルは困った顔して苦笑した。今の私はだだっ子みたいな子供だ。やらなければならない事から逃げている。


「明どうしたんだ? 顔色悪いぞ」


 気づくといつの間にかアルがそばにいた。アルの顔を見た瞬間夕暮れに寂しげに消えていくアルの姿を思い出し、涙でにじんでいく。


「なんだ! いきなり泣き出して」


 アルから目をそらすと、事情を知っているジルが助けてくれた。


「今相談を受けている所なんです。殿下は席を外してくれませんか?」


 アルは一瞬怒ったような空気だったが、無言で立ち去った。怒ったり、私を心配してくれたり、今はいるのに夕方にこの世界から存在が消えてしまう……。


「アルフレッド殿下が消えてしまう、そんな未来でいいんですか?」


 私は思いきり首を横に振った。そんなの絶対にダメだ。アルはこの世界に、聖マルグリット王国になくてはならない人だし、なにより私にとっても大切な人だ。

 だからたとえ私がつらくても、アルが消える未来は変えなきゃいけない。

 元の世界に帰る、それしか方法がないなら、このループ地獄を終わらせなくちゃいけない。


「ジル……ありがとう。そうだねこんなふざけた終わり方させない。ねえどうやって私が帰る方法を物語に盛り込めるかしら?」


 ジルは私の決意を見て満足そうに頷いた。


「そうですね。まず明殿がこの世界にきたのは、キルギス教祖による異世界創造神召喚魔法だった。とすると反対に帰る時も魔法で帰るというのが自然な流れかと」

「でも教祖は死んじゃったし、聖マルグリット王国はここからでは遠いし、どうすればいいのか……」


 そこまで考えてふと閃くことがあった。まだアイディアでもう少し練り込む必要があるが、これなら半日で帰還フラグたてられるかもしれない。


「ありがとう。ここから先は私が考えるよ。たぶん覚えてないだろうけど先に言っておくね。さようなら。ジルに会えて嬉しかったよ」


 ジルは少し寂しげで、でも温かい笑顔を浮かべていた。


「みんなにそうやって別れを告げに行くつもりですか?」

「うん。みんなの記憶に残らない、ただの自己満足だけど、それでも私はこの世界で出会った色んな人に感謝したい。ちゃんとさよならを言いたいんだよ」


「寂しいですね、この記憶を無くしてしまうなんて。でもきっと私はいつか物語を書きますよ。明殿やみんなと過ごした日々を物語という形に残しましょう」


 記憶だけじゃなく物語として人々の記憶に残り、語り継がれていく。それはとても嬉しい事だった。私がこの世界にいたという証が形として残るのだ。


「それが完成するのを祈ってるよ。でもあんまり人のプライベートまでずけずけ書かないでよね」

「さあ、それはどうでしょうね」


 ジルがにやりと笑う。作家としてのジル・ラリックは一流だ。きっと素晴らしい物語になるだろう。それを読めないのが残念だ。


「じゃあねジル」

「さようなら明殿」


 私達はまるで明日また会うかのように、気軽に別れの言葉を口にした。それだけでいい。それでも伝わるのだ。他の人達にも会いに行こう。例え忘れられる記憶だとしても。

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