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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第1章 聖マルグリット編
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創造神召還の裏側4

 あれから数日。

 私の部屋にやってきた帝国の王子と二人で向かいあった。

 相変わらずの無愛想だ。怒ってるのか、これが地なのかよくわからない。

 しばらく沈黙が続いたが、王子が何か言うまで私から動く気はなかった。

 しばらくして王子は重い口を開いた。


「あなたが仰った各国の機密情報はどうやら正しいようです」

 曖昧な言い方が気に入らないのか、歯切れが悪い。

「確認しようとしたが、どの国も正直に頷かない。であろうな」

「そのとおりです。ただ挙動不審になったり、話の後情報の入手経路を探ろうとしたり、どの反応も真実を言い当てられたと思われるものでした」

「ならば、妾を創造神と信じるか?」


 王子は首を横に振ろうとして、ためらった。


「正直あなたがよくわかりません。これだけの情報を知りうるなどただの一般人ではない事は確かだ」

 王子の瞳が迷うように揺れる。悩ましげな表情がセクシーだなと不謹慎な考えが浮かんでしまった。

「あなたは何故我が国の食事をご存知か?箸も器用に扱い、食べ方に迷う事もないと聞いてます。まさか……我が国の出身で?」

「こちらが聞きたいぐらいだ。何故そなたの国は存在し、妾の世界の食事を出すのか」

 私の言葉が理解できないというように、王子は怪訝な表情をした。


 彼の質問に答えるには、私の事情を正確に説明しなければいけない。それは一種の賭けだった。

 でも彼は私の話に乗って各国に確認した。そしてその内容を正直に話してくれた。

 もう腹の探り合いはやめよう。神の振りをしつづけるのも。

 誰も信用できない生活はひどく疲れるもので、そろそろ私の精神は限界だった。



「他言無用で腹を割って話さぬか?」

 王子はしばらく躊躇ったが、やはり王子も疲れているのかもしれない。重く頷いた。


「あー。疲れた。神っぽい振る舞いってしんどいわー」

 いきなりあけすけに話し始める私に王子は目を見開いて驚いた。

 私は今まで抑え目に作っていた表情を緩める。

「これが私の地よ。でも創造神ってのは嘘でもないのよ」

 ますますわからないと困惑する王子。まあ私もこの馬鹿みたいな夢が信じられないし、他人に理解してもらうのは難しいだろうな。

「私はね。この世界とは違う地球という所の日本に住んでる普通の女の子よ。趣味は物語を書く事で、この世界は私が書いた物語そっくりなのよね……」

「……まさか、この世界が、あなたの書いた物語とでも言うのですか?」

「私も信じられないんだけどね。でも私が言ってた事当たってたんでしょ?まあ私が書いた世界なら作者が知ってて当然よね」

「それで……創造神……」

 王子は前屈みになって文字通り頭を抱えてうなった。


 本気で悩む王子に驚いた。

 すぐにほら吹きか狂人と疑っても可笑しくないのに……。

 ああ……いい人だ。

 なんか人の良さに疲れた心が癒やされる。


「信じられる?」

「この世界が作り物だなどと言われて、そこに生きる人間がそう簡単に納得できるとお思いか?」

「普通は信じないわよね。真実だったとしても、否定する。」

「あなたが神ではなくただの人であれば、『大災害』を解決することはできないのか……」

 王子は苦渋の表情を浮かべた。もしかしたら王子は少しでも創造神と信じてくれていたのかもしれない。王子の期待に答えられない自分の無力が情けなくなった。

 これは夢、私とは関係のない世界。テレビニュースが伝える戦争と同じ現実味のない遠い世界の話と思っていたけれど、目の前で悲しむ人を見ると悲しみに引きずられる。


「いつまでこの世界にいられるかわからないけど、ここにいる限りは手伝うわ。ひとつだけ手がかりになりそうなことがあるし」

 王子の目に光がさした。段々とこの一見無愛想な王子の表情がわかるようになってきた。表情はあまり変わらないが、その分目が非常に正直だ。

「だから私と協力してくれない?」

 王子は目に憂いを乗せてためらいがちに口を開いた。

「あなたの言う事のすべてを信用できなくてもかまわないだろうか?あなたの言う言葉を裏で確認とったりもする。それでもよければできるかぎり協力しよう」


 無条件に人間を信用するのは難しい。しかも私の話は常識外れで、彼は一国を背負う責任のある人間だ。それでも私を信じようと努力してくれる。今はそれだけで十分だ。


「あなたが異世界の人間というならば……名前を教えていただけないか?」

 久しぶりに人間扱いされて嬉しくなった。信頼できるかもしれない人間を得て、何故だか涙腺が緩んだ。

「藤島明。藤島が家族名で明が個人名」

「ふじしま・あかり……」

 ああ……もう我慢の限界だ。私の名前を呼ぶ声に、自然と涙がこぼれた。

 王子は困ったような顔していた。無愛想ながら、どこか優しい目が心配そうに私を見つめる

 恐る恐る手を伸ばし、私の頭を優しく撫でた。


「どうしたのだ?」

「人としてまともに扱われるのも、名前を呼ばれるのも久しぶりだったから」

「つらい目にあったな」

 私は思いっきり頷いた。

 そう私はこの長すぎる悪夢がつらかった。

 常に疑われ見張られる日常。誰も私を理解せず、いつただの人間とばれてむごい目に合うかと怯える日々。それでも今まで必死で平気な振りをしてきたのだ。自分の身を守るために。


「私なんでここにいるの?誰も私の事なんて必要としてないのに……日本に戻りたい……」

 優しく頭を撫でる手を止めて、王子は悲しい顔をした。

「そなたもカタリナ殿に振り回された犠牲者なのだな……」

 しみじみとつぶやく王子の言葉が、彼もまた同じ犠牲者なのだと実感した。


「私達あの狂人教主の犠牲者仲間って事ね」

 王子が盛大に吹き出して、必死に笑いをこらえていた。

「……カタリナ殿を……狂人教主などと……ククゥ」

 しばらく笑った後、王子は不器用ながら柔らかい笑顔を浮かべた。

「そんな事言えるなんて、やっぱりあなたは異世界人かもしれない」

「その『あなた』って止めてくれない。明でいいわ」

「では明よ。私も名前で呼んで欲しい。私達は犠牲者仲間なのだから」

「私を仲間と認めてくれるの?」

「正直、心から信じるのは難しい。だが私は明を信じたい。だから仲間だ」

「今はそれで十分よ」

 私は涙を拭って笑った。

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