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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第3章 帝国編
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花の都で迷える少女1

 蒸気機関車が汽笛を鳴らしつつゆっくりと駅に止まった。汽車から降りながら駅の様子を眺め不思議な気分がした。

 てっきり宇治みたいに純和風な街並みを予想していたのに、駅も駅から見える街並みもレンガ造りを中心にしているようだ。柱とか梁とか所々木が使われている感じもするから、和洋折衷という感じだろうか。

 レンガは赤レンガが多く、なんとなく文明開化の大正ロマンを彷彿とさせる。駅を出て街に降り立つと不思議な光景が広がっていた。

 石畳の道に連なる街灯、2階建てのレンガ造りの街並みが続く様は実に近代的だ。しかし街中にいくつも水路が走り、道と道を繋ぐように中央が高くなる太鼓橋が水路の上にかかっている。

 太鼓橋になっているのはその下の水路を船がくぐり抜けるからだ。水路を貨物を運ぶ小舟が行き交い、人々は道を歩いたり人力車に乗ったりして移動している。

 確か江戸時代の江戸も水路と陸路が町中に張り巡らされ、水路が荷物運搬用、陸路が人の移動用に使用されていたのだった。


 つまり江戸時代的な街作りと大正ロマン風のテイストが混じっているのだ。しかも道も水路も整然と東西南北に延びている。たぶん真上から見下ろせば碁盤の目のようになっているだろう。それは京の都を彷彿とさせる。

 実利を考えられたその街作りは、誰かが意図的にこの都をつくり出したのだろうが、その人物は間違いなく日本の歴史に熟知しているに違いない。


 汽車が京に着いたのが、夕暮れ時だったので、街灯の火がぼんやりとともる。その明かりに照らされた街並みをジルとアルは圧倒されながら見ていた。


「夜だというのに……こんなに明るいとは……」


 確かにこの世界の今までの街では、夜になると家の中から漏れる明かりと月の光だけの、薄暗い世界だった。だが京には街灯があり、昼間ほどではないがある程度の明るさを維持している。

 二人はどんな仕組みになっているのかと、興味深げに街灯を眺めていたが、エドに急かされるように馬車に乗り込んだ。

 この街で馬車に乗れるのは、どうやら限られた人間だけのようだ。馬車を見ただけで、歩行者がかしこまった表情で腰をかがめて道を譲ってくれる。

 馬車も街の外よりもずっと遅い速度で走っていた。いくら馬車が特別扱いでみんな道を譲ってくれるとはいえ、人の多い都で速度を出す事が出来なかったのだろう。


 駅からまっすぐ北へ向かうとしだいにその先に高い壁が見えてきた。


「あの壁の向こうが内裏だ。帝の住居と政務を取りしきる公邸がある所だ」


 壁の間にある門をエドの顔パスでくぐり抜け、中へと入っていく。すると壁の向こうは森のように木々が生い茂る広々とした空間だった。


「内裏の中は広大だ。勝手に歩き回ると道に迷うから単独行動は慎んで欲しい。現に年に数回内裏で働く官吏が道に迷って行方不明になる事件がおこっている」


 道に迷うほど広い敷地というのもすごいものだ。まあ……皇居とかも大きいしね。しかもこんな木々が生い茂ってたら遭難するよね。


「まずは私の御所に向かう。帝との謁見は明日になるだろう」

「エドの御所? もしかして皇族って一人一人お屋敷を持っているの?」


「そうだ。帝の住まう宮殿に行くにも馬車を使わなければならない程度に離れている」


 親子の住んでいるところが、同じ敷地なのに馬車使わなきゃならないなんてどうなの? まあ普通の家の人間じゃないんだから仕方のない事だけど。


「朱里もこの内裏のどこかにいるの?」

「ああ。隅の離宮に軟禁されている」


 どれほど広いかもわからない広大な敷地の中、どこかに朱里がいるのだと思うと少し切なくなる。

 それからしばらく馬車が走って、いくつかの建物を通り過ぎた後、やっと一つの建物の前で止まった。

 提灯の明かりでともされた、純和風の平屋の大きな建物だ。朱塗りの柱に黒い瓦。随所に金の文様があしらわれていたり、木彫りの模様が入っていたり、質素に見えて実に手の込んだ建物だった。


 部屋の周りをぐるりと廊下が取り囲み、廊下と部屋は障子の戸によって仕切られている。私に与えられた部屋も広々とした和室の部屋だ。真新しい畳の匂いがするその部屋は広すぎて一人で使うのは少し寂しかった。


「少し休んだ方が良い。後で夕食の時間には呼びに行かせるから」


 部屋の前で毬夜が警備してくれるらしいが、なんか敵意のこもった冷たい眼差しで見られて話しかけづらい。大人しく一人で部屋にいるしかないか……。

 エドはアルやジルを連れて部屋を出て行った。落ち着かない気分で座布団を取り出して座る。宇治の旅館の方が親近感あったよな……。なんで同じ和室なのにここは落ち着かないんだろう。

 床の間に飾られた掛け軸といい、梁の文様といい、小さな調度品に至るまで、すべてが高級品で完璧にしつらえられているからだろうか。


「こんな所で休めって言われてもな……」


 誰もいないのについ愚痴がこぼれてしまうのだった。

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