創造神召還の裏側3
人のいい王子が確認するのに何日かかかるだろうな……。
その間どうしよう?
部屋に一人残された私が次の一手を考えていたら、突然扉が開けられ男が入ってきた。
思わず、げっ!と言いそうになった所を飲み込んだ。
王国のあのバカ王子だった。
おつきもつけずにやってきたバカ王子。
部屋で二人きりってやばいんじゃ……。
「帝国の王子との密会はいかがでしたか?」
艶っぽく、しかし怒りが滲む声だった。
向かいの席があるのに、わざわざ私の座るソファに並んで腰掛ける。
「何の話をされていたのですか?」
わざわざ私の耳元に顔を寄せて囁く。
片手は私の頬にギリギリ触れないあたりをさまよう。
手をとられ、指でなぞられた気持ち悪い感触を思い出し、悪寒がはしる。
「我が命を授けた」
「我が女神の命令なら、私がなんでもいたしましょう」
「妾を神と信じぬ者を信用できぬ」
バカ王子の指が私の顎の下をなぞり、爪で軽く引っ掻いた。
傷にはならないだろうが、赤くなっているだろうそこは、ピリリと痛んだ。
私は睨みつけたが、バカ王子の顔は微笑みながら目が笑ってなかった。
私の肩をつかんで後ろに倒した。
「無礼者!離せ」
肩から手を離したが、倒れた私の上に覆い被さった。
「何故私の愛を信じてくださらない……」
かすれたようなつぶやきは、狂気を含んでいる。
「妾は神じゃ」
「無論、私は信じております」
「ならば即刻離れよ。神に不埒な行いをするならば、この国を滅ぼしてくれようぞ」
狂気を含んだ笑みが消え、ひどく不機嫌な表情に変わった。
しばらく私とバカ王子の無言の睨み合いは続いた。
私の顔にかかるような長いため息をついて、王子はゆっくりと私から離れていった。
「無礼をお許しください。我が女神」
横に座ったまま、言葉とは裏腹に不満げな表情。
「しかし、いずれ私の思いを受け入れてくださると信じております」
ふざけた事言うな!
初対面でいきなり口説き、その日の内に押し倒すなんて、本気で好きなわけない。
どうせ自分に無駄に自信あって、女なら誰でもなびくと思ったのに、私がなびかないからおもしろくないだけでしょ。
「妾は気分が悪い。そなたの顔など、二度と見たくない」
バカ王子はその時初めて、性悪な本性を表したような邪悪な笑みを浮かべた。
「それは無理でしょうね。あなたは私なしではこの国で生きていけない」
物騒な発言に嫌な予感がした。
「どういう意味だ?」
「あなたがいけないのですよ。エドガー王子と二人っきりになりたいなどと言うから……」
「妾が碧海帝国の者と疑っておるためか?」
「それもありますが、私の妹はエドガー王子に思いをよせてまして、あなたが二人だけの会談を要求したのが気にくわないのですよ」
あの感じ悪い姫が?色恋沙汰に巻き込まないで欲しい……
「先ほどの様子でお分かりでしょうが、父上は娘を可愛がりすぎて言いなりなんですよ。父上もすっかりあなたを嫌いになったようだ」
ああ……あの娘バカな王ならありうる……。でも娘の言いなりで政治を動かして、この国傾かないか?
「王妃は?」
少なくともあの王妃は娘バカじゃなかったし、王に突っ込み入れられる貴重な存在だ。
「母上は逆に妹に嫉妬してますね。王が可愛がりすぎて面白くないのでしょう。しかしあなたの味方にはなりませんよ」
「何故じゃ?」
「母上は妹を早く排除したくて、他国に嫁がせようとしてるのです。父上は妹を手放したくなくて反対してますが、妹はエドガー王子との結婚を望んでいます。エドガー王子は帝国の後継者。婿にする事はできませんから、結婚となれば嫁ぐしかない」
「つまり邪魔な娘を追い出すために、娘の恋に肩入れしてると」
「ええ。ですから母上は妹とエドガー王子の間に割って入ったあなたを邪魔者と思っているようです」
なんていう身勝手な家族だ。
勝手に呼び出して、勝手に疑って、都合が悪くなると邪魔者扱い……。
私は怒りに震えた。
「今は私があなたを神として敬うべきだと抑えていますが、私がいなければあなたに何をするか……」
脅しをかけられたが、そんな事でバカ王子になびいてたまるか!
「だからなんじゃ?神を敬わぬ愚か者には神罰をくだすまでじゃ」
「神罰ねぇ……いつまであなたの威光が通じるか。見ものだ」
バカ王子は悪役のごとく高笑いをして去っていった。
本当にろくでもない男だ。
絶対こんな男と恋愛なんて無理!
ああ、神様。私をお救いください。
などと自分がこの世界の神なのに、神頼みしてしまった。