表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第2章 諸国漫遊編
67/99

悲しみの結末2

 朱里が他の人には聞こえないくらいの小声で、私の耳元に囁いた。


「安心して下さい。絶対明様を傷つけたりしません。下手に動くと逆に怪我しますから大人しくしてて下さいね」


 朱里はやっぱり優しい朱里のままで、でももうここまできたら後には引けないのだろうか。


 その時また扉が開いた。一瞬皆の注意がそちらに向いた時を狙って、私は朱里の手にかみついて暴れた。

 暴れて首筋に当てた剣が、私を傷つけるのを恐れたのだろう。朱里は剣を私から離した。その隙をついてアルが私達の元に飛び込んできた。

 体当たりされて私と朱里はばらばらに倒れた。


「明。大丈夫か?」


 すぐにアルは私を抱きかかえて、朱里を牽制するように睨んだ。


「大丈夫ありがとう」


 周りを見回すと、扉を開けてやってきたのは櫂柚だった。たぶん私達を追ってやってきたのだろう。

 エドは櫂柚を見て安堵の表情を見せて近づいた。本来なら頼りになるべき部下がやってきたと思ったのだろう。

 しかしそれは正反対なのだ。その事を伝えるために私はやってきたのだ。


「エド! 気をつけて! 櫂柚も反対派の人間よ」

「まさか櫂柚が……」


 エドが困惑し、ためらっていた。しかし櫂柚にはためらいはなかった。自分の剣を抜き放ち、エドへと叩きつけた。

 ぎりぎりの所でエドは剣をかわし、後ろに飛んで間合いをとる。


「櫂柚……何をするのだ!」

「剣を向けられてもまだ、私を信じているのですか? 本当に貴方はどこまでも甘くていらっしゃる。だから貴方のような弱虫には帝など任せられないのです」


 櫂柚はつづけざまに剣を振り下ろす。エドは剣を抜いて櫂柚の剣を受け止めた。それでもまだ櫂柚に剣を向ける事にためらいがあるようで、自分から攻撃を仕掛けようとしない。


「櫂柚。私を試しているのか? そなたが本気で私を殺そうとするはずがない。理由があるなら言ってくれ」


 エドの悲痛な訴えに私は耳をふさぎたくなった。次々に親しい人間に裏切られ、エドの心が壊れていく。

 いつのまにか朱里とアルが本気で剣を交えていた。剣術では朱里が押していたが、魔法防御でアルがそれをしのぎ攻撃の機会を狙っている。


「エド。櫂柚は本気だよ。私、櫂柚に殺されかけたの」


 エドは驚きの表情を浮かべ私の方を見た。そして櫂柚を睨み付けた。


「余計な事を。本当に朱里殿下といい、エドガー殿下といい、なぜこのようなくだらない女に固執されるのか……。やはり早めに処分するべきでしょう」


 エドと間合いをとりながら櫂柚が私の方へと近づいてきた。櫂柚の意図に気がついたエドは、慌てて私を庇うように間に入る。


「明は関係ない。まきこむな!」


 私からはエドの背中しか見えなかったけど、櫂柚への恐ろしいまでの敵意を感じた。


「女を狙われてやっと本気になるとは。帝国の王子ともあろう方が、国より女の方が大事ですか。だから今の貴方では駄目なのです。もっと強く、もっと誇り高き王でなければ」


 櫂柚とエドのぶつかり合いは激しかった。力のエドと技の櫂柚。両者の力は拮抗して見えた。しかし長期戦になるにつれて、体力の劣る櫂柚の動きが鈍くなり始めた。


「櫂柚。私はおまえの事を尊敬していた。実の父より慕っていた。帝国への忠義心。職務への誇り。おまえ以上の者はいないと思っていた。残念だ」

「残念? 私はまだ帝国への忠義を忘れたつもりはありません。国にとって相応しくない者を帝にはできないと思っての事。自分が帝に相応しいと思うのならば、私を殺して証明なさったらいかがか」


 何度も打ち合ううちに、ついに櫂柚の手から剣がはじき飛ばされた。エドは櫂柚に剣先をつきつけながら、牽制した。


「もう勝敗は決した。大人しく罪を認めて謝罪せよ。今ならまだ許す」


 櫂柚はそれを聞いて微笑した。なぜこの状況で微笑めるのかわからなかった。エドもまた櫂柚の様子に戸惑ったのか剣を持つ手が震えた。


「やはり貴方は甘い」


 エドの戸惑いの隙をついて、櫂柚は私に向かって素手で襲ってきた。エドは慌てて剣を櫂柚の背中に突き刺した。櫂柚の手が私に届く寸前に、その体は崩れ落ちた。

 櫂柚の背から吹き出した血が、エドに飛び散って赤く染まっていた。


「櫂柚!」


 アルと戦っていた朱里が慌てて櫂柚の元へ走った。アルは私を庇うように引き寄せる。

 返り血を浴びたエドは呆然と櫂柚を見下ろし、櫂柚を傷つけた凶器はエドの手からこぼれ落ちた。


「か、いゆ……」


 エドの声は悲痛な響きがした。自分がした事の大きさに動揺しているようだ。櫂柚はそんなエドを見てまた微笑んだ。


「自分が……切り捨てたものに……情を移されるな……。貴方は前だけ見て……強くなりなさい……」


 櫂柚はそこまで言って力尽きたように目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ