創造神召還の裏側1
「よろしかったのですか?」
「そなたが妾と話がしたかったのであろう?」
ゆったりとソファにふんぞり返って、せいぜい偉そうな態度をしてみる。
ここにいるのは帝国の王子と私だけだが、相手の狙いがわからないうちは創造神らしく振る舞ったほうがいい。
あの時、聖マルグリット王国の人間に反感を買ってまでやってきた王子。
私も同じように、ワガママ言って二人だけで会う場所を用意させた。
「それに妾もそなたに話がある」
「なんでしょうか?」
「聖マルグリット王国の人間はどうも信用できぬ。自分達で妾を呼び出しておきながら、妾を創造神と信じておらぬ。なぜか?他国人のそなたから事情を聞きたい」
王子は無表情のまま、眉だけ器用にぴくりと動かした。
どうもこの王子は無愛想で何考えてるのかよくわからんなー。
でも私のカンだと、今までこのおかしな世界で会った人の中では、一番信用できる気がしたのだ。
「恐れながら、創造神様は我々をどこまでご存知なのでしょうか?」
「何も知らん。一から説明せよ」
王子は眉間にシワをよせて、大きなため息をついた。
「今我々諸外国は『大災害』の危機に団結すべく、各国が代表をこの王国に集め会議を行っています。私は碧海帝国の帝の名代としてこの国に参りました。聖マルグリット王国国王はこの会議の開催国であり議長として仕切っておられます」
サミットみたいなものか。
『大災害』が世界規模の問題なら、国と国が協力するのは当たり前だよなぁ。
「しかし今の所、被害の対処のみで、抜本的な解決策は見つかっておりません。会議が煮詰まった頃の事、突然キルギス教団教主カタリナ殿がこの世界の創造神を召還すると言ったのです」
王子の悲痛な表情だけで私はすべてを察した。
ああ、つまり藁にもすがる思いでうっかり狂人の話に乗っちゃったと。
「各国の代表ともあろうものが集まって、あの男の話を信じたのか?」
「信じるというよりも、断る事ができなかったのです。キルギス教団は聖マルグリット王国の国教であり、その教主は王国の王と匹敵するほどの権力があります」
真実なんだろうけど、はっきり言うなぁ……。
でも私はこの王子やっぱいい人かもと思った。
言葉は丁寧でも、私を受け入れようとしないこの王国の人間より、嫌なことも正直に話してくれる方が何倍も気持ちいい。
「いまだかつて創造神の召還などと言う魔法は聞いた事もありませんでした。しかしカタリナ殿は今までの『キルギス式神聖魔法』の研究から独自に生み出したと言うのです」
ちなみにこの世界には、一般魔法と特殊魔法の二種類がある。
一般魔法は全国共通で魔術の能力があるものなら、能力に応じて誰でも使える魔法。
特殊魔法とは、特定の国や集団しか利用できないが、個性的で強力な魔法だ。
特殊魔法は戦争の武器や抑止力、政治的取引などとして強力な威力を発揮する。
そのため特殊魔法をもつ国や集団は強い権力を持つ。
『キルギス式神聖魔法』もその特殊魔法の一つだ。
本来なら神と交信し、未来予知などを得意とする魔法だったはずだが……。
ええっと。私の書いた小説の中では、主人公を召還したのは宮廷魔術師志望の野心家な男で、王をたぶらかして召還の魔法を行ったんだよね。
むしろキルギス教団の人間はその魔術師を警戒して、召還された主人公を疑う立場だったはずなんだけど……。
なんでこんな話がねじ曲がってるんだ?
もちろん私は本気で小説の中にいるとは思ってない。これは夢で、小説と違う所があっても当然だ。
しかし夢というのは辻褄のあわない所が多い物なのに、今のところこの世界は奇妙だが私の知らない規則性がある気がする。
そして小説になかった国、存在しないはずの目の前の王子。それにどんな意味があるのか?