焦燥と苦悩の王子5
まだ日も明るいうちから甘い空気が漂い初めて、どうしようと私は焦った。ここベットだし万が一なんか変な展開になったら……。
アルは私の顔から肩に視線を移し、表情を曇らせた。
「俺が考えもなしに明を連れ出したから、こんな怪我をさせた。すまない」
「私がついていくって言ったんだし、気にすることないよ」
「いいや。自惚れてた。自分一人でなんでも出来ると、過信していた。明一人守れず、逆に助けてもらった。守るって約束を果たせなかった」
「そんな事ないよ。アルは守ってくれたよ」
私は空いた手で首飾りに触れて笑った。
「アルが作ってくれた首飾りのお陰で、骨にヒビが入る程度ですんだんだよ。ありがとう」
その時突然アルが、私を抱き寄せた。それは優しいものだったけど、肩を怪我している私にはきつかった。
「痛い!」
慌ててアルは私から離れた。おろおろするアルを初めて見た。
「すまない。手荒なことをした。たまらなくてつい……」
たまらないってなんだ!やっぱり油断すると怖いな。この狼め。
何か言いたいことがあるのか、何度かアルは口を開きかけて閉じる、というような事を繰り返した。
「どうしたの?」
「明。『忠誠の誓い』をたてさせて欲しい」
「ちゅうせいのちかい?何それ?」
「聖マルグリット王国の王族に伝わる秘術だ。誓いをたてた相手をどんな時も守り抜き、絶対服従する。一度誓いを立てた相手には二度と逆らえない」
「絶対服従って……例えば私が死ねとかいったら」
「死ぬ」
怖っ!!そんな怨念じみた誓いいらない。
「呪いみたいで怖いからいいよ。そんなの」
「呪いではない。祝福だ。『忠誠の誓い』をたてると、私自身にも神の加護が与えられ、今以上に強くなれる。明を守る力が欲しい」
断っても一歩も引かなそうなアルの態度に、私は諦めた。
私に逆らわないって事は、今後無理矢理襲われそうになる事もなくなるし、アルのワガママに振り回される事もなくなるだろう。
「じゃあ、王国に帰らずに、私と一緒に帝国まで行ってくれる?」
「明がそう望むなら。それに今回のことでわかった。俺一人じゃ国に帰るなんてできない」
「わかった。じゃあいいよ。どうすればいいの?」
「足を出してもらえないか?」
「足?」
よく分からなかったが、布団から足を出してアルの方へ向けた。アルは床に片膝をついて私に向き、片手を胸に手を当てて言った。
「聖マルグリット王国、王子アルフレッド・ユズルハは、創造神・明に忠誠を尽くし、今後未来永劫守り抜くことを誓う」
結婚式の誓いの言葉みたいで恥ずかしいな。と思っていたら、アルは両手を私の足に添えて、足にキスを落とした。
びっくりしたけどその瞬間、私の中に何かが駆け巡るのを感じた。
日の光に照らされてキラキラ輝くアルの髪がまばゆくて、まるで物語の世界の神秘的な出来事のようだった。
アルが頭を上げた時、アルは輝かんばかりの笑顔を浮かべていた。
「明。俺のただ一人の女神」
アルの手が頬に触れ、顔が近づいてきた。私は慌ててアルの顔の前に手を入れてとどめた。
「ちょっと待った。何する気?」
「『忠誠の誓い』は一般的には伴侶となる相手にするものなのだ。明を俺の妻にしたい」
「ちょっと待った。勝手に決めないでよ。私はそんなつもりないからね」
「そうだな。まだ早かったか。しかしそのうちその気になる」
「早いとかそういう問題じゃない。ていうか、私に絶対服従なのよね。だったら今後みだりに私に触れない。抱きしめるとかキスとかもってのほかだからね」
アルは不満そうにふてくされた。やっぱりワガママ狼王子だ。しかし渋々ながらも私の言葉に従い、アルは離れていった。
だけど妻とか本気か?本気だからさっきの誓いとやらをしたって事だよね。
「私はずっとこの世界にいるつもりなんてないんだからね。『大災害』をなんとか解決できそうになったら、帰る手段を見つけて帰る」
「大丈夫だ。その前に俺の事が好きになって、帰りたくなくなる」
自信満々のアルに部屋から出て行く事を命じて追い出した。
そのままベットに倒れ込み、布団を頭からかぶって目を閉じる。本当は今の恥ずかしい展開の連続にじたばたしたい所だけど、今はちょっとでも肩動かすと痛いから我慢。
勢いで帰るっていったけど、今までこの世界にいつまでいるかとかちゃんと考えたことなかった。
この世界は夢みたいで、いつか勝手に元の世界に戻っている気がしていたのだ。しかしこれだけ長い時間この世界にいて、いろんな現実を見て、そろそろ本気で帰る方法探さないと、と危機感を感じた。
でもまだ帰れない。『大災害』を解決する。エドに協力するって決めたんだから。それに今はこの世界に未練が出てきてしまった。
みんなと離れたくないな……でも日本に帰りたい……。矛盾する気持を抱えたまま、私は一人思い悩んでいた。




