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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第2章 諸国漫遊編
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焦燥と苦悩の王子3

「大丈夫だ。明」


 気づけばアルが隣にいて、座り込む私を優しく抱き寄せた。


「大丈夫って、アルは大丈夫なの?この血……」

「よく見ろ馬の血だ」


 言われてみれば、馬も倒れていて、足に矢が刺さって血があふれていた。よかったー。ってぜんぜんよくない。矢が飛んできたり、囲まれたり、ピンチであることに何も変わりないじゃない。


「誰か来るよ。どうしたら……」

「落ち着け。敵の正体はすぐわかるだろう」


「正体?どうして?」

「最初に銃で威嚇射撃。音で馬を動揺させて足止めした隙に、正確に馬だけ狙って矢をはなった。初めから俺たちを生け捕りにするつもりなんだ」


「銃って事は帝国?もしかして反対派の……」

「それしか考えられない。おおかた俺たちを人質にエドガー達と交渉する気何だろう」


 そこで私達を囲む兵達の中から、一人の男が前へ出た。


「おっしゃる通り。それでは大人しくついてきていただけますか?」

「断る」


「困りましたね。あまり手荒な事はしたくありませんでしたが……」


 男がさっと手を上げると、兵達が剣を構えて私達を取り囲んだ。鈍く光る刃の恐ろしさに、私は思わずアルにしがみついた。


「大丈夫だ。俺が守ってやる」


 低く囁くアルの言葉になおさら焦りを覚えた。

 アルの魔法があれば、傷一つなくしばらく守ってもらえるだろう。しかし魔力が切れたら?

 アルは攻撃魔法が使えないし、剣だって持ってない。救援の当てもなく、ただ力尽きるのを待つだけなんてダメ。

 人と人が殺し合う戦闘が怖かったけど、それ以上にアルに危害を加えられたり、エド達に迷惑かけたくなかった。

 ……そうか、誰かの為なら強くなれるのかもしれない。アルやエドや朱里が私を守る為に戦ってくれたように、私も彼らの力になりたい。


 焦るな自分。考えろ。最良な方法を……。そして私は考えた事を実行するべく、敵に聞こえないように、アルの耳元に囁いた。


「アル。前に魔法で敵を吹き飛ばしたみたいに、どこか一ヶ所だけ囲みを崩して逃げ道を作れる?」

「そこから逃げるのか?この人数差じゃすぐに追いつかれるぞ」


「二人じゃなく、私一人が逃げて助けを呼びに行くわ。それまでアルは敵を足止めして」

「一人で逃げるなんて無茶だ」


「でも分散した方が相手も混乱するし、多分相手の狙いはアルみたいだから、私の方は手薄になるから」


 それに防御魔法で守り続けるのも、二人より一人の方が消耗は少なくなる。


「大丈夫。私にはアルの御守りもあるから」


「何をこそこそと相談なさっているのですか?」


 しびれを切らした敵が、まさに襲ってこようとしたその時、アルの魔法が発動して敵が吹き飛ばされた。

 敵の体勢が崩れた隙をついて、私は囲みから抜け出した。


「女が逃げたぞ。逃がすな!」


 敵の声に続いて後ろから銃の破裂音がした。音を感じたと同時に肩に衝撃が走り、前につんのめるように吹き飛ばされた。


「明!」


 アルの叫びを聞きながら、冷静に肩の状況を確認した。痛い。傷みは凄いけど、血は出てない。

 まともに当たっていたら肩に穴が開いていたはずだ。そうならなかったのは、アルのくれた首飾りの防御効果がきいてるんだ。

 私は撃たれた肩を押さえながら立ち上がった。


「私は大丈夫」


 アルに言いながら自分にも言いきかせた。大丈夫、私がアルを助けるんだ。私はまた走り始めた。私を追おうとした兵達も、アルの防御壁で足止めをされているようで、すぐにはおいつけないようだ。


 その隙に夜の闇に紛れて街中を走った。敵が追いにくいように道を何度も曲がりながら、宮殿を目指して。追いつかれそうになったら、建物の中に忍び込んで、隠れて追いすごしたりしながら、私はひた走った。

 宴用に用意された靴は走りづらかったので、途中で脱ぎ捨てた。素足で地面を走ると、石で足をひっかいて痛かった。肩の痛みも足の痛みも鈍く感じる。ランナーズハイのような不思議な高揚感が私の中にあった。

 今まではいつだって守られて、役立たずだった。でも今初めて役に立てるかもしれない。ピンチなのにそれが嬉しかった。誰かの役に立てるという実感が、生きているという感じがした。


 宮殿に近づくにつれ、敵の包囲網は狭まり近づきにくくなっていった。でもここでもたもたしていたら、アルが持ちこたえられずに、連れ去られちゃうかもしれない。

 私にはアルのお守りがある。首飾りをなぞって勇気を振り絞ると、私は建物の影から飛び出した。


「いたぞ!逃がすな!」


 兵達は重い鎧を身につけて尚、私より早かった。宮殿に向かって走る私はすぐに追いつかれ、腕を捕まれた。

 ここで私が捕まったら、アルを助けられない。嫌だ!そんなの!


「離して!」


 叫びながらがむしゃらに暴れた。かみついたりひっかいたり、私の抵抗なんて子供の遊びみたいな物かもしれないけど、おとなしく捕まってなんかやらない。


 その時突如、夜のしじまに銃声が鳴り響いた。

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