異世界という名の夢5
こっそり日本語とハナモゲタ語で、色々小説書いて様子を見たが、特に何も変わらなかった。
何度も昼と夜を繰り返したが夢から覚めないし……
面倒だけど、これはもっと情報集めなきゃだめかも。
だとするならやっぱ権力者と協力しないとね。
オッサン文官一人じゃ話にならん。
でもやだなぁ……アイツらに会うのか……
自分で作ったキャラながら、会う事を想像しただけで、気が滅入る。
アイツらとは聖マルグリット王国の王族である。
とりあえずオッサン文官に頼んだらすぐ謁見って事になった。
謁見の間って所に案内される。
私は教主みたいな豪華な刺繍が入った服を着せられていた。
露出は少ないし、コルセットで締め付けるような窮屈なドレスじゃないだけましだけど、ずるずる引きずって歩きづらいなぁ。
私は顔だって平凡な日本人顔だし、背も高くないから見栄えはしない。
でも創造神だし、いちよう上座の椅子に案内される。
「創造神様。お初にお目にかかります。聖マルグリット王国国王フランツ・ユズルハと申します」
金色の豊かな髪と髭で青い目をした立派そうなオジサマだ。
オッサンと言ったら世界中敵に回しそうな、美中年なのでオジサマにしておこう。
「ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。何分『大災害』の対応で精一杯で、なにとぞお力添えを」
貫禄あるオジサマは、私をバカにするような視線は一切見せず、丁寧に頭を下げた。
慈悲深く有能な王様って設定なんだよな。
家族構成は王様、王妃、王子、妹姫だから順番で行くと次は王妃か王子か?
「次にご紹介させていただくのは、私の自慢の娘クリスティーナでございます」
思わずずっこけそうになった。
忘れてた。このオジサマ娘バカなんて設定だったな。
周りの臣下達が呆れるぐらい延々と繰り広げられる、娘自慢トーク。
始めは恥ずかしげにしてた姫も、途中からまんざらでもない様子で鼻高々って感じ。
あれ?この姫脇役も脇の目立たない地味姫な設定だったはずなんだけど、なんか感じ悪いワガママ姫かも。
ほっておくと終わらなそうな、王様の話に突っ込み入れたのは、相方の王妃だった。
大きな咳払いをして強引に割り込んでくる。
「わたくしは王妃のベネット・ユズルハでございます」
迫力美人のオバサンが、プライド高く上から目線で物を言う。
ああ、姫の感じ悪さは母親譲りか。
もうこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいいっぱいなのだが、一番会いたくない人間がまだ残っている。
そいつは王と王妃がギャーギャー言い争う間に、すり抜けるように私の前に現れた。
跪いて私の片手を取って手の甲に口づける。
キモッ。こんなキザな事やって様になってる所がさらにたちが悪い。
サラサラの長い金髪ストレート。空のように青い瞳。女性的に美しく整った顔立ち。
見上げるその顔には蠱惑的な微笑が浮かんでいた。
「初めまして創造神様。王子アルフレッド・ユズルハと申します」
私の手を取る男の指が、いやらしく私の手のひらをなぞる。
思わず悪寒が走った。
顔を引きつらせないように必死な私は、無言で王子を見下ろした。
王子はいきなり立ち上がり、今度は私を見下ろしながら囁いた。
「気軽にアルとお呼びください。わが女神」
大勢の目の前で、息がかかりそうな程顔を近づけて甘い囁きをする男。
こいつが小説に出てくる顔だけキラキラ俺様S王子だ。
言葉は甘いが目は獰猛に光る。肉食獣のようだ。
私が身の危険を感じて心の中で叫び声をあげたその時、奇跡が起こった。
謁見の間の扉が突然開いて、一人の男が兵士を振り切って入ってきたのだ。
「失礼」
低く簡潔な声は、大声ではないのに部屋の隅々までよく響いた。
真っ先に反応したのが俺様王子。
「無礼な!例え貴殿が帝国の王子とはいえ、場をわきまえ、ひかえられよ」
しかし男はひるむ事なくまっすぐに歩いてきた。
少し癖のある短めの艶やかな黒髪。意志の強い切れ長な黒い瞳。
東洋人と西洋人のハーフと行った感じで、男らしい精悍で整った顔立ち。
女性的で華奢なキラキラ王子と違って鍛え上げられた逞しい体。
はっきり言ってキラキラ王子よりずっと私好みのイケメンだ。
外見だけでもストライクゾーンど真ん中。
しかも低音セクシーボイス。
「無礼は承知。しかしこうでもしなければ、貴国は我らを創造神様に合わせていただけぬでしょう」
迫力だけでねじ伏せる存在感が男にはあった。
私の前で丁寧にお辞儀をして堂々と名乗りをあげた。
「初めまして。私は碧海帝国第1王子、エドガー・フォンと申します」
碧海帝国ってあの謎の和定食の国か!
私は長い悪夢の中、突然の来訪者に救いを見いだした。