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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第2章 諸国漫遊編
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小さな手に隠された真実5

今回も戦闘シーンのため、一部残酷描写が含まれます

ご注意ください

 反乱軍の兵は、下流の川近くの森に隠れていた。いまだ雨が上がらず、星のない暗い森の中で、突然悲鳴が聞こえた。

 騒がしい物音と、突然の出来事に兵達は皆浮足立ち、兵を率いるはずの者たちでさえ、混乱していて何が起こっているのかわからなかった。

 やっと現場の兵士から、指揮官に状況を知らせる報告が入っても、信じられずに耳を疑っていたようだ。


「馬鹿な……。たった二人で攻めてきたというのか?しかも一人はエドガー殿下で、もう一人は聖マルグリッド王国の王子だと!!」


 指揮官がそう叫ぶのが聞こえた。

 たった二人にもかかわらず、反乱軍の兵達は手をこまねいていた。後ろに立つアルが魔法でエドへの攻撃を遮断し、前面に立つエドガーが次々と剣で敵を倒して行く。初めての戦闘と前後が逆になっただけで、同じ戦法だ。

 エドを殺したい反乱軍としては、絶好の機会なはずなのに、手も足も出ずにうろたえていた。アルの魔法の範囲をエドだけに絞ることで、魔力の消費を抑え、長時間利用できるようにした所がポイントだ。

 エドが恐ろしい剣さばきで敵を次々に仕留めているのも大きい。アルの魔法を中断させたくても、エドの迫力に押されてアルに手が届かない。


 朱里を攫われた事で、エドは頭に血が上っていて、容赦とか遠慮とか、普段のエドにはあるはずの他者への気配りに欠けた、鬼と化していた。1対大勢のはずが、敵は完全に恐怖にとらわれている。



 私は敵に気付かれないように、遠くから観察していた。その私の目から見ても、今のエドは怖い。

 一振りごとに、死体を作り出し、屍の山を築いて行くエドが、怖くて恐ろしくて、目をそらしたかった。

 でも私は見届けなければいけないんだ。この作戦を考えて、敵とはいえ多くの人の命を奪う事に加担した、私の責任において。



 この作戦はまだ終わってない。エドにだけ魔法を絞っているといっても、長時間はアルの体が持たない。短期決戦で決着をつけなければいけないのだ。そろそろ次の段階に移行するはず。

 見ていると敵の動きは、エドやアルの予想通りになっていった。

 私が思いついた作戦はエドとアルの二人で突入したらって所までだった。その安易な作戦を、戦闘の実践経験豊富な二人が、敵兵の動きやこちらの戦力を元に、まとめ上げて形にしてくれたのだ。


 敵兵の心理は近づけば殺される、でも放ってもおけないという所だろう。だから敵兵達は一定の距離を保ちながら、エドから目が離せない状態で膠着していた。誰もがエドに注目する中、突然、まったく別方向からまた叫び声が聞こえ始めた。今度は何が起こったのか?と敵方に動揺が走った。

 エドを取り囲んで一極集中していた敵の背後から、エドの味方の兵士が攻め込んだのだった。態勢が整わないうちに背後を突かれ、敵方は総崩れとなった。

 

 作戦成功か。作戦を考えたものとして、喜ぶべきことなのかもしれないが、多くの人間が死んでいるのに素直に喜ぶ事が出来なかった。

 まあこれで敵の戦意を削いで、朱里を取り戻せれば終わるし。これでよかったんだと、自分自身に言い聞かせて我慢した。

 いまだ私は戦闘に慣れず、遠くから見ているだけでも震えが止まらない。



 その時突然、敵の隙をついて、エドが単身敵の中心部へと突き進んだ。これには驚いた。だって作戦にこんな展開なかった。アルも魔法は維持しながら、慌ててエドについていこうとしている。

 エドの暴走だ。なんでこんな勝手な事するの?上手くいくはずだったのに。

 雨と暗闇で視界の悪い中、目を凝らしてよく見ると、敵の真ん中で、朱里が兵に囲まれて剣を突き付けられていた。


「それ以上来るな!兵を引かせろ。さもなくばこいつを殺すぞ!」


 混乱しすぎた一部の兵達が、一番とってはいけない行動に出てしまったようだ。何のために王子であるエドに反乱してると思ってるのか。

 エドは構えた剣をゆっくりと下ろした。敵兵がほっと胸をなでおろしたのもつかの間の出来事だった。エドは剣を下ろしてもなお戦意を失っていなかった。


「朱里!もういい。手加減無用だ」

「でも……」


 エドの呼びかけに、何かを躊躇うように困った表情をする朱里。迷いの見える朱里の背中を押すように、エドはまた叫んだ


「我が弟なら、これぐらいの敵、蹴散らしてしまえ!」


 エドの叫び声に誰もが驚いていた。朱里がエドの弟だって知ってる人間なんてごく一部。その一部である私でさえ、この発言に驚いているのだ。他の兵達の動揺は計り知れない。

 この叫びを聞いて誰もが朱里に注目する中、朱里は嬉しそうな、とびきりの笑顔を浮かべた。


「はい!兄上!」


 そう叫んだやいなや、朱里は両腕を掴んでいた二人の兵士を、吹き飛ばす勢いで跳ねのけた。大いに動揺する兵士達を、素手で蹴散らしながら、ものすごいスピードでエドのいる場所まで向かって行く。

 まだ幼さの残る少年が、屈強な兵士達を紙人形の様に吹き飛ばして行く姿は、作り物のように現実味がなく、ただただ茫然としてしまった。


「お待ち下さい朱里様!」


 かろうじて理性のあった敵の首領がそう叫んで立ちはだかった。


「またエドガー王子の下で、子供のように甘えてすごすおつもりですか?」


 その言葉に朱里の足がぴたりと止まった。朱里は複雑な表情を浮かべて、視線を地面にそらしていた。


「成人成されたのです。自分の足で立って、判断されるべきでしょう。どうか我々と共にあの方の元へ。私達は貴方の下で働くために集まった。エドガー王子のためではない」

「兄上を愚弄するな!」


 名も知らぬこの男の言葉が朱里の心に突き刺さるのは、朱里がエドガーに甘やかされ自立できていないことを自覚しているからだろう。

 しかしだからといって、兄弟で権力の座を奪い合うことが自立の道だというのか?


「帰って伝えよ。お前達の主の意図はしかと心得た。しかし今は私が動くべき時ではないとな」


 朱里はそう答えて、立ちふさがる男の脇をすり抜けた。もはや止めるものは誰もおらず、朱里はエドの元へと辿り着いた。


「兄上。ごめんなさい。迷惑をかけてしまって」

「よいのだ。明をよく守ってくれた。朱里」


 兄弟の感動の再会を阻むものはいなかった。敵方は形勢不利な上、重要な人質を逃がしてしまい、完全に戦意を失っていた。散り散りに逃げまどい、闇夜に消えていった。



「馬鹿か、お前達。戦闘中に暑苦しい兄弟愛を見せつけるな」


 アルが皆を代表したかのような、突っ込みを入れてくれたおかげで、殺伐とした空間に、妙な雰囲気が漂うのは避けられた。私も敵兵が去ったのを確認して、皆の所に向かった。


「朱里。無事でよかった」

「明様も、ご無事だったんですね。よかった……」


 そう言ったかと思うと、気が抜けたのか、朱里はくたりと倒れた。慌ててエドが支えると、エドの腕の中ですやすやという寝息が聞こえてきた。


「助かったと思ったらすぐ寝るとか、大物だなこいつ」

「エドが助けに来てくれたから、緊張の糸が切れたんだよ。きっと」


 私とアルにどう言われてるかも知らずに、朱里は気持ち良さそうに眠っていた。エドはそんな朱里を嬉しそうに見ながら、優しく抱き上げて運ぶのだった。

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