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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第2章 諸国漫遊編
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小さな手に隠された真実3

※後半に残酷な描写が一部含まれています、お気を付けください

「どうしたんだ?明。なぜこんな所にいる?」


 アルは突然現れた私に驚きの声を上げた。アルのいる所が最前線ではないと言っても、矢が飛んでくる距離の戦場だ。自分の身を守ることすらできない私がいるべき場所じゃない。

 それでも早く伝えなければいけない事がある。


「小僧はどうした?一緒にいたはずじゃ……」

「川から船で正体不明の男達がやってきたの。その男達に朱里が連れて行かれた」


 アルもさすがに驚きのあまり言葉を失ったようだ。


「たぶん相手も帝国人。朱里を『朱里様』って呼んでた。朱里は正体を知ってるみたいだった。自分を殺す事は絶対ないって言ってたけど、私を庇ってついて行っちゃったの」


 私は自分でもわかるくらい動揺していて、うまく説明できている自信がなかった。私のつたない説明でもアルは理解したのか、私の肩に手を置いて頷いた。


「わかった。もういい。後はあの男に聞けばわかるだろう」


 アルがそう言いながら見たのは、遠く離れた所で揺らめく赤いマントの持ち主だった。

 周りの兵士から戦況を聞きながら、いくつか指示を出し、そばにいた男に指揮を任せてアルは私の肩を抱きよせた。

 そのままアルは、戦場だという事を忘れそうなほど、余裕の表情で歩き始めた。時折飛んでくる矢や敵の攻撃は私やアルにかすりもせず、見えない壁に阻まれた。

 アルの魔法に守られている。そう思うと少しだけ私も気持ちに余裕が持てた。


「敵の兵士が引き始めてる。おそらくあの小僧を連れていく事が本命だったようだな」

「そんな……。エドの命を狙う事が目的じゃなかったの?」


「それもあるだろう。遊撃隊に敵が集まって、必死にあの男を殺そうとしていたからな。おかげで他の所では敵の層が薄く、容易に仕留められた。戦局は圧倒的にこちらが有利だ。あの男は初めから遊撃隊で自分がおとりになるつもりだったのだろう」


 いくら魔法で守られていると言っても、敵を見向きもせずに冷静に話ながら歩くアル。私はアルのように余裕ではないので、敵を横目にハラハラしながらアルの言葉を聞いた。


「それに小僧を明の所にいさせたのも、敵が小僧に手を出せないようにしたつもりだったんだろうな。それが裏目にでたようだ」

「エドも朱里が狙われてる事がわかっていたって言うの?」


「そうだろう。あの小僧がそんな重要人物だなんて聞いてないぞ。俺達に何も言わずに事を済ませようとは、いい度胸だ」


 この前の戦いで見事なコンビネーションで戦い、今日もまた共に闘っているというのに、エドの事を話すアルの言葉は不信に満ちていた。

 しかしもしアルの言う事が正しければ、私もエド達の事を疑いたくなる。これから帝国に行くというのに、どこまで秘密を持ち続ける気だったのだろう。

 友達だって約束したエドを疑うのは嫌だった。早く真実を教えてほしい。そう思う。


 遊撃隊が戦う戦場までついた時、アルは手を敵に向かってかざし、何か言葉を呟いた。

 その瞬間だけ敵がはじかれたように吹き飛ばされた。エドが驚いて赤いマントを翻しながらこちらを向く。

 私とアルの姿を見て朱里がいない事で、すぐに事情を悟ったのだろう。この前の戦いでは怖いぐらい冷静に敵を仕留めていたエドは、いきなり鬼神の様に怖い形相で敵を次々切り刻み始めた。


 アルの魔法は敵をはじいた最初の一度だけで、それ以降は私達だけを守っているようだった。魔法の力なしでも鬼の様に強いエドの前に、周りは屍の山となっていき、敵もその勢いに押されるように逃げ始めた。

 逃げる敵の足を切り裂き、足止めした敵を味方の兵士に捉えさせ、また次の獲物にかかる。今度は死体ではなく、捕虜の山を築きながらエドは叫んだ。


「敵を追え!捉えよ。敵の逃げ場所をつきとめよ」


 深追いをするなと言ったこの前とは反対に、今度は何かに焦ったように敵を追わせるエド。味方の負傷者が助けを求める声も聞こえてないようで、とても冷静さを欠いていた。


「エド!」


 私が叫んでも、視界に入っているはずなのに見ようとしない。朱里の事がそんなに心配なの?

 朱里の最後の言葉を思い出す。私がそばにいればエドは大丈夫?そんなわけないじゃない。


「エド!落ち着いて」


 私は剣を振り回すエドを物ともせずに、体当たりでエドの腕にしがみついた。


「朱里は生きている。連れて行かれただけ。私達で連れ戻そう」

「明……」


 荒い呼吸を繰り返しながら、エドはその場で立ち尽くした。何もできずに茫然とするエドの代わりに、アルが周りの兵たちに声をかけて、負傷者の手当てなどの指示を始めた。


 いつの間にか雨は弱くなっていたが、嵐の様な夜はまだ終わっていなかった。



 とりあえず兵たちの混乱を鎮めた後、私は朱里が攫われた時の様子をエドに話した。


「この川の状況で上流に遡るのも、向こう岸に行くのも無理だろう。恐らく敵はこちら側の下流のどこかにいる。敵兵達もそちらの方向に逃走した。敵が向こう側に渡ってしまう前に蹴りをつけなければ」

「その前に俺達に話す事があるんじゃないか?」


 アルのいら立ちを含んだ声を、エドは鬼気迫るほどの怖い表情で受け流した。


「これから捕虜たちの尋問を行って、居場所を吐かせる。話はその後だ」


 そう言って捕虜たちを収容したテントに入っていった。私はエドの後を追おうとして、アルに止められた。


「止めた方がいい」

「どうして?」


「捕虜の尋問なんて戦場よりもきついぞ。ましてあの男の様子だと……」


 その時闇夜をつんざくような男の悲鳴が、テントの中から聞こえてきた。

 中で何が行われているの?思わず鳥肌がたって、震える私の両耳をアルは手でふさいだ。アルの腕の中に包まれて、その胸に頬をうずめ固く目を閉じる。

 そうやってテントの中で何が行われているのか考えないようにした。

怒ったエド怖いです

テントの中で何が行われているかは、R15なしでは書けないような残酷描写なので、皆さまのご想像にお任せします

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