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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第2章 諸国漫遊編
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小さな手に隠された真実1

 アルとエドがいなくなったテントで、私は朱里と一緒にいた。この前は朱里を子供だと思っていたから、のんきにおしゃべりできた。

 でもこの前の戦いで見せた冷静で大人びた表情。屈強な兵士を相手に、私を守ってくれた朱里を見た後では、とてもただの子供とは思えなかった。


「この前は私が動けなくて、庇ったせいで大変な目にあわせてごめんなさい」


 朱里はきょとんと不思議な顔をした後、無邪気な笑顔を見せた。


「明様は創造神様でも女性です。女性をお守りするのは当然です。それに戦いを直に見るのは初めてだったんでしょう?」

「うん」


「だったら怖くて動けなくなっても仕方ないですよ」

「守ってくれてありがとう。朱里」


 私は朱里の小さな手を取って、まっすぐに見つめて言った。

 この小さな手に残る剣タコは、彼が戦うために日々努力し続けた証なのだ。生き抜くためにこんなに小さなうちから、人を殺す術を覚えなければいけない。それは私から見るととても殺伐とした悲しい世界だけど、彼にとっては当たり前の事なのだ。

 朱里が急に遠い世界の人間になってしまったようで寂しかった。


 朱里は顔を赤くしながらまごまごしていた。感謝の気持ちを込めて、朱里の頭を撫で撫でしたら、気持ち良さそうに目を細めた。


「失礼な事を言ってしまったらごめんなさい。僕、母上に頭を撫でられた記憶がなくて、明様にこうやって撫でられてると、母上に撫でられたらこんな感じなのかな……って思ってしまうのです」


 こんな可愛い朱里を撫でてあげない母親ってどんな人だろう。それともまさかすでに亡くなっているとか?


「そんな悲しい顔しないでください。母上は生きて元気でいらっしゃいますよ。ただ事情があって、僕は生れてすぐに母上達と、離れ離れに生活する事になったから、あまり会った事がないのです」


 朱里は柔らかく微笑んで、何でもない事の様に言った。どんな事情かは知らない。もしかしたら親が離婚したとかそういう事だろうか?だけど実の母親と一緒に過ごした記憶がないのは、悲しい事だと思う。

 あまり触れてはいけないような気がして、私は話題を変える事にした。


「朱里はその年でずいぶん剣が上手なのね。剣って重くない?」


 小柄な朱里が軽々と剣を操る姿が不思議だった。


「僕もよくわからないんですけど、昔からすごい馬鹿力で、力の加減ができずに物を壊しては怒られてました。この馬鹿力を生かせるのは剣術ぐらいだろうと思って、一生懸命勉強したんです」


 朱里の可愛らしく華奢な体から、馬鹿力なんて想像もつかなかった。試しに朱里の剣を貸してもらったのだが、私の力では両手で頑張っても引きずることしかできなかった。

 こんな重い剣を軽々と扱って、あんな風に戦えるなんて信じられない。


「そういえば、この前エドの隣で銃の玉込め手伝ってたよね。あれもすごい息があってたけど、練習したの?」


 なぜかわからないけど、朱里は急に悲しい顔をした。


「僕はエドガー王子に迷惑かけてばかりで、力になれる事ってあれぐらいしかないんです。本当は僕がいない方が王子のためになるって、わかっているのですが……」

「そんなことない!」


 確かに朱里は思ってる事がすぐ顔に出ちゃったり、私にあっさり騙されちゃったり、外交国にお荷物連れてくるなんておかしいなと、私も思ってしまった。

 でも今はわかる。朱里はエドの心の支えなんだ。つらい仕事を我慢して続けるエドが、そばにいるだけで安らげるそんな存在なんだと思う。


「朱里はエドのそばにいるだけで、エドの癒しになってるんだよ」


 朱里は目を見開いて驚いたような顔をした。そして顔がくしゃくしゃになるぐらい笑いながら、涙を流した。


「ど、どうしたの?私変な事言った?」

「いいえ。嬉しかったんです。明様が王子と同じ事を言ってくださったから。ありがとうございます」


 涙をぐっとこらえながら笑顔を見せる朱里に、胸がキュンとした。

 私ショタ趣味なかったはずなんだけどな。やばい、萌えた。可愛い、お持ち帰りしたい。私がエドの立場でも、こんな可愛い子がそばにいたら、うっかり道踏み外しちゃうかもしれない。


「明様?」

「なんでもない」


 私の邪な想像を知る由もない朱里は、不思議そうな顔をしていた。



 雨は止む気配もなく、外の雨音ばかりが響くテントで、朱里と話をしていたら、ふいに朱里が真剣な表情で黙った。その真剣な表情に、私も耳を澄ませてみるが雨音しか聞こえない。


「敵が来たようですね」


 朱里の言葉とともに、外から慌ただしい物音と声が響き始めた。また始まるのか、あの恐ろしい殺し合いが。私は朱里の小さな手を強く握って恐怖に耐えた。

 優しく握り返された小さな手が、今はとても頼もしく感じた。

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