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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第2章 諸国漫遊編
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闇色の襲撃者と戦う男達5

 話し合いの結果、上流と下流に斥候をだし、この川を渡れる橋を探す事になった。川が氾濫していて他の橋も壊れているかもしれないので、むやみに動き回らない方がいいという事になったのだ。

 それで斥候が戻ってくるのに時間がかかるので、今夜は川の前の開けた土地で野営をする事になった。川を背にして半円状に作られた、野営地の中心のテントの中で、私達は集まって夕食を食べた。雨は日が暮れても止む気配はなく、むしろ強くなってテントに降り注いだ。


「迂回したとしても明日には川を渡って、隣国の領土内に着く」

「と言う事は今日が山だな」

「アルどういう事?」


「もし聖マルグリット王国内でエドガー王子が殺されていたらどうなっていたと思う?」

「それは帝国の帝は犯人を何としてでも捕まえるんじゃない」


「事は実行犯を捕まえれば済む問題ではなくなる。帝国の王子が王国内で殺されれば、王国の人間の管理不行き届きになるから、帝国と王国の間で国際問題になる」

「そんな……。帝国の人間同士で殺し合ってるのに、両国が争うなんておかしくない?」


「帝国の反対派の人間だって、王国や他の国を敵にはまわしたくはないはずだ。この地のように、どこの国も支配していないような場所で、王子が死んでくれる方が都合がいい」

「じゃあ今夜切り抜けられば、もう襲われなくなる?」


「主犯を捕まえなければ続くだろうな。だがこの前の様な直接的な攻撃はしにくくなる。事故死に見せかけたり、小細工を使ってくるんじゃないか?」


 犯人が捕まらない限り、エドの安全は保障されないのか。主犯の大物が帝国の外までやってくるはずもないだろうし、先は長いなと気が滅入る。


「そこで今日襲われた時のために、あらかじめ作戦を相談しておきたい。この雨では銃は使えないからな。こちらの状況は不利だ」

「敵も銃を持ってて、使えないし同じじゃないの?」


「この前の攻撃の時、敵からうちこまれたのは最初の不意打ちだけだった。恐らく敵の手持ちの銃は少ないのだろう。銃の命中精度はまだ低いから、乱戦では数で圧倒して敵の足並みを崩すしかない。不意打ちが失敗すれば、銃は数がなければ使いものにならない。だからその後銃の攻撃はなかったのだろう」

「命中精度が低い?この前のエド凄かったけど?」


 エドはアルの方を見て、少し躊躇った後口を開いた。


「あれは私が指示して研究開発させた最新式だ。まだ数も少ないし使いこなすのが難しい。実践で使用できるのは私ぐらいだろうな」


 あの命中度はエドの腕だけじゃなく、銃の性能のおかげでもあるわけね。でも最新式で使いこなすのも難しい銃で、あそこまで出来てしまうエドの腕も凄いと思う。


「つまり敵の主力は剣という事か。銃撃隊の人間は剣は使えないのか?」

「訓練はしているが、剣術を専門とする兵士よりは劣る。敵の戦力がわからなぬ以上、戦力的に厳しい」


「雨で銃が使えなくなる事ぐらい想定していただろう。対策はあるのか?」


 アルの問いにエドは野営地の地形と兵の配置を表した紙を取り出した。川を背に今私達がいる所を中心に、半円状に兵が配置され、それとは別にエドの手には大ゴマがあった。


「剣術隊、射撃隊を混ぜて全体に配置する。さらに剣術隊の中から精鋭を集めて遊撃隊を作り、他の兵が前線を維持している間に遊撃隊が各地を飛び回って敵を叩く。遊撃隊の指揮は私が取る」

「その場合全体を見通して、誰が指揮をとる?」


「人格、能力的に優秀な隊長がいる。その者に任せるつもりだ」

「雨で視界が悪く、地面もぬかるんでいる。敵も味方も混乱して収拾がつかなくなる可能性が高いぞ。優秀なだけの人間に、兵をまとめ上げるだけの統率力があるのか?」


 エドは反論もせず難しい顔で目を伏せた。私に戦争の事はよくわからないけど、アルの指摘が的を得たものだったから、エドも何も言えないのだろう。

 エドを黙らせたのが嬉しいのか、アルは満足げに笑った。


「なら俺が遊撃隊の指揮をとろう」


 なるほど、それならエドが全体の指揮をとれるから問題ないわけね。と私は納得したのだが、エドと朱里は目を合わせて微妙な表情をしている。


「無理だな」

「無理でしょうね」

「待て!なぜ俺ではいけないのだ」


 エドと朱里は言いにくそうにお互い目でアイコンタクトを取っていた。最終的には朱里が説明役を押し付けられたようだ。


「遊撃隊は常に激戦地で戦い続ける部隊です。指揮する人間にもそれ相応の剣術の心得が必要不可欠。しかしアルフレッド殿下はあまり剣術が得意ではないようですからね。たぶん1対1なら僕でも勝てるかも」

「なまいきな事言うな小僧。この前は俺が助けてやったんだろう」


「あれは敵が僕に集中して、後ろの殿下に気付かなかったから、不意打ちできただけです。まともに正面からぶつかってたら勝ち目なかったですよ」


 エドも朱里の言葉に大きく頷いている。


「昔からあまり剣術は得意ではなかったが、その手を見る限り鍛錬を積まれたとも思えない」


 エドに指摘されて私はアルの手を見た。女の私から見ても白くて細く綺麗な手。エドや朱里にある様な剣だことは無縁な美しい手は、アルが日常的に剣を使わない証なのか。私の視線にアルは気まずげに眼をそらした。


「王族が前線で戦う必要などないからな。兵の指揮をとれれば良いのだ。最低限自分の身を守る護身術があれば、それ以上必要ない」

「殿下の場合魔法で自分の身を守る事の方が簡単ですから。護身術すら必要ないと思っているのでしょうね」


 朱里の鋭い皮肉にアルは殺意をこめて睨み返す。


「私は魔法を強化した方が国のため、皆のために役に立つからな。貴重な時間を魔術の鍛錬にさいているのだ。決して怠惰から剣術の稽古をしないわけではない」


 偉そうに言っているが、剣術の稽古をしていない事を自ら認めてしまっている。痛すぎる俺様王子様。やっぱりなんでもできる万能な人間っていないんだな。いつも自信満々なアルがちょっと落ち込んでる。


「アルフレッド王子は兵の指揮をとった経験は?」

「それならたくさんあるぞ。反乱軍の鎮圧、犯罪組織の摘発、災害救助など。本来王族がするほどの事ではないが、父上が何事も経験だと私に兵を預けてくださったからな」


「なるほど。先日の戦いでの冷静な対応、的確な状況把握、効果的な魔法の使い方、一言で戦場の空気を変えた一声。指揮官として優秀な方だ」


 エドに褒められてアルは途端に息を吹き返して胸をはった。


「まあ次期王たるものあれぐらいできて当然」

「では殿下には後方から全軍の指揮をとっていただこう」


「本気ですか?王子?帝国軍全軍を王国の人間に指揮させるなんて」


 朱里だけでなく、アルもまた驚いて言葉を失っている。


「そうときまれば時間がない。主だった部隊長だけでも殿下に覚えていただかなければ。行きましょう」

「ちょっと待て。俺はやるとは言ってないぞ」


「自信がないのですか?」

「愚弄するな。兵の指揮をとるなど簡単だ」


「それでは参りましょう」


 アルを連れてテントを出ようとしたエドを、朱里が呼びとめた。


「王子。僕も遊撃隊に参加させてください」

「だめだ」


 にべもなく断られ、あからさまに落ち込む朱里。大好きな王子のそばで一緒に戦いたいんだろうなと思うと可愛そうな気がする。


「朱里は私の代わりに明を守れ。おまえにしか頼めない」

「はい。全力でお守りします」


 エドの言葉に無邪気な笑顔で喜ぶ朱里。私としても朱里がそばにいてくれれば嬉しいけど、私みたいな足手まといがいる所って、一番安全な後方だよね。エドは朱里を危険な場所から遠ざけたのかな?

 互いが互いを気遣い合う温かな関係が嬉しかった。二人がどんな間柄なのか深くは追求したくないが、エドにとって安らげる存在がそばにいる事だけで私は嬉しい。

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