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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第2章 諸国漫遊編
31/99

波乱万丈の予感1

大変ながらくお待たせしました、第2章スタートです

当分週1ペースで掲載しますので引き続きよろしくお願いいたします

 馬車が走りだしてまもなく、エドとアルの睨みあいもひと段落した。アルは渋々という感じで不満げに腕を組んでいる。


「それで、帝国までどういう道で行くつもりだ?」

「最短ルートは華無荷田国内を通る道だが、今回はそうもいかないから、北周りで行く。予定では40日程度でつくはずだ」

「40日もかかるの?この馬車で!」


 アルは乗り心地の良さに驚いていたが、私は揺れの多さに早くもうんざりしていた。これを約1カ月半も続けるとは気が重い。


 しかし私の不満にアルはむしろ眉をひそめてエドに疑いの眼差しを向けた。


「明。反対だ。むしろ華無荷田国内を通らずに40日は早すぎる。ずいぶんと強行軍だな」

「そんなに帝国って遠いの?」


「東南の華無荷田国は平野が大部分を占める国だし、街道や宿泊施設など設備もしっかりしている。30日以内に帝国につくことも可能だ。しかし華無荷田国の北は山脈が多い土地で、道なき道も多い。それにある意味華無荷田国以上にやっかいな土地だ」

「やっかいってどういう事?」


 そこでエドはアルの疑問に答えるように、馬車の中で地図を広げた。聖マルグリット王国と帝国の間に南には大きく華無荷田国の領土ラインがひかれている。しかしその北側の土地は、というとひどくわかりづらい。

 私の書いた小説内に出てくる国の名がばらばらに点在し、その間に権力の空白地帯が飛び地の様にいくつもあった。

 そもそも私は地図を作るどころか、国同士の位置関係も曖昧なまま話を作った。小説は聖マルグリットから始まり、東の大国華無荷田国と設定してはいたがそれ以外の国は北の方とか曖昧に書いていた気がする。だからこそこんな風に私にもよくわからないおかしな地図になっているのかもしれない。


 私の書いた小説がどれだけ薄っぺらく、設定が甘かったか思い知らされた。作者なのにこの世界の事がまったくわからない。


「この何も書いていない所ってどこの国の領土なの?」

「国はない」


 エドの短すぎる問いにますます首をひねった。私がいた地球にどこの国の土地でもない空白地帯など聞いた事がなかった。そんな事があるのかと不思議に思う。


「人が住んでないって事?」

「そうではない。狩猟部族など少数民族が住んでいる。しかし彼らは常に部族単位で動いて生活しているし、部族の掟で動いている。我々の様に国という概念はない。自分達では支配する地域があるようだが、我々とは価値観が違いすぎて明確に線引きが出来ない」


 なるほど。昔の遊牧民族みたいなものか。確かチンギスハーンとかいう歴史上の人物は、中国や中央アジアまで侵略し、その土地の人々の財を奪い、人々を攫っては奴隷にした。農耕民族にとっては蛮族の襲来でも、彼らからすれば豊かな宝を目の前にしてなぜ奪わないのか?ということらしい。

 価値観の違いというのはそれほど大きい。


「小さな部族単位ならそれほど大きな戦力じゃないよね?他の国が攻めて支配したりしないの?」


 それが私には不思議だった。もちろん地球の歴史の中では、ローマ帝国が蛮族に襲来されて滅びたり、中国がモンゴルの部族に支配されたりする事はあった。しかし長い歴史で見れば、安定した収益があり、文明、技術の高い農耕民族の方が強いと思うのだ。まして南に華無荷田国、西に聖マルグリット王国、東に碧海帝国と大国に囲まれている。

 私の疑問に答えたのはエドではなくアルだった。


「簡単だ。苦労が多いのにうまみが少ない土地だから、どこも無理に進攻しようとしない」

「苦労が多いのにうまみが少ない?」


「国としてまとまっていれば、支配者を倒すなり、大きな戦争を仕掛けるなりして短期間で支配できる可能性はある。しかし小さな部族単位だと支配者はいないし、各個撃破しなければならない。しかも山深く暗い森ばかりが続く土地では、大軍よりも土地勘のある少部隊の方が有利だ」


 ゲリラ戦法のようなものだ。それは確かに厄介な土地かもしれない。


「しかも征服しても未開の地で整備に金と時間がかかる。貴重な鉱山などがあれば別だが、今のところ発見もされていない。調べればあるかもしれないが、あるかないかもわからぬ土地に、多大な犠牲を払って攻め込むのは馬鹿のする事だ」


 費用対効果を考えると割にあわないと言う事か。国を治める人間にはそういう割り切りや計算が必要なんだな。

 アルのこと馬鹿にしてたけど、こういう冷静さはさすが王子って感じで私はすこし見直した。正直ドSで変態な俺様王子が、王になったら国が危ないんじゃないかと余計な心配をしていたが、案外いい王様になるのかもしれない。


「王国や帝国と国交のない部族もあるし、好戦的で話しの通じない部族もある。危険地域を避けると回り道になって時間がかかる。いっそ華無荷田国内を通る方が早くて安全なんじゃないか?」


 アルの疑問に私は表情には出さずとも、内心冷や汗をかいた。たぶんエドも同じだ。アルは王様が華無荷田国に戦争をしかける事を知らない。それでもやはりこの帝国行きになにか不審な物を感じているようだ。


「マーリオが言ってたけど、華無荷田国って王国にとっても、帝国にとっても仮想敵国なんでしょ?危険じゃない」

「そうだ。特に今回帝国に初めて他国人が公式に訪問するのだ。帝国と王国の絆が深まる事を華無荷田国がよく思わないはずだ。二つの国を裂くために妨害を仕掛けてくる可能性が極めて高い」

「二人の言う事はもっともだが……」


 そこで言葉を区切ってアルは私達をじっと見つめた。その目にはますます疑いの色が濃くなっている。


「二人の息が合いすぎているのが不自然だな。なにか私に隠し事をしているのではないか?そもそも帝国が今までの慣例を破って私に入国許可を出したのもおかしい」


 まずい。ここでアルに戦争が始まる事が知られたらどうなるか。もしかしたら引き返して戦争に加わると言うかもしれない。しかしそれではフランツ王との約束を破る事になる。

 エドが言い訳を口にする前に私はアルににっこり微笑みながら言った。


「アルを帝国に連れて行きたいって私が帝国の帝にお願いしたの」

「明が?」


「そう通信用の魔道具でね。帝国には『大災害』を解決する重要な手掛かりがあって、どうしても行きたいんだけど、アルが言う通り帝国って怪しいじゃない。一人で行くの怖くて。アルは私の事守ってくれるよね」


 猫なで声で上目遣い、瞬きにウルウル目と頬を染めるオプション付き。自分でも怖いくらいのぶりっこ演技だ。エドは私の演技を見抜いたのか、引きつった顔で目をそらしたが、アルは嬉しそうに私の手を取った。


「明が、私の事を頼ってくれて嬉しい」


 自分でぶりっこしておいてなんだが、こんなに簡単に騙されていいのか?単純だな。そしてすぐに肉食獣モードに切り替わっている。怖い怖い。触れられた手が鳥肌立ってる。

 エドに助けを求める視線を送っても無愛想な表情を返されるだけだ。その目には『自業自得』と書いてある。

 薄情者!と心で罵りながら、私は肉食獣モードのアルと静かなバトルを続けるのだった。

帝国まで長い旅になります

旅を通してそれぞれのキャラクター達の成長と人間関係の変化をお楽しみください

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