神々の謀5
城の出入り口広場で、すでに準備を終えたエドが待っていた。
「お待ちしておりました、アルフレッド殿下。道中の警護や世話は我が碧海帝国の名にかけて、最善のもてなしをさせていただきます」
アルはすでに旅支度を整えた、帝国の人間達を見て茫然としていた。私についていくと言ったものの、今すぐとは思っていなかったのだろう。
「まさか、今すぐ出立するとか言わないだろうな」
「時間がありませんので、今すぐに」
アルは茫然とした表情から、しだいに状況を飲みこんできたようだ。そして私を横目で睨んだ。
「女神よ。私をうまく口車に乗せて、動転している内に連れ出そうというのですか。悪辣な……」
「そなたが決めた事ではないか。旅に出るのが怖いか?故郷を離れるのがそんなにさびしいか?」
「そうではありません。ただ、せめて父上にはご挨拶してから……」
「アルフレッド」
いつの間にかやってきていたフランツ王がアルの名を呼んだ。
「今回の旅で次期王として大きく成長し帰ってくるのを楽しみにしておるぞ」
「父上……」
さすがに父親にまで旅立ちを歓迎されては、アルも何も言う事ができなかった。フランツ王は穏やかな微笑みを浮かべてアルに近づき、こう告げた。
「我が国とはまったく異なる帝国に行き、多くを学ぶのだ。盗めるものはなんでも盗んでこい」
「フランツ王。帝国内からの品物はいかなるものでも持ち出し禁止の約定です」
エドのするどいつっこみに、フランツ王は笑顔でかわす。
「もちろんですとも。しかしそれは物質的な事。アルフレッドが目で見て、耳で聞いた物まで、帝国に返すわけにもいかぬでしょう」
タヌキ親父は最後までやはりタヌキ親父だった。フランツ王の言葉に意地の悪い笑みでこたえるアル。この親子、こういう黒い所は似てるよな……。
「エドガー様。お別れなんて寂しいですわ」
エドを追ってきたのか、クリスティーナ姫までやってきた。早々に逃げ出そうとエドは素早く私の肩を抱いて、エスコートを始めた。
「明。さあもう出立しよう」
「エドガー王子。気安く女神に触れるな。それにその『アカリ』とかいう呼び方はなんだ?神に対して馴れ馴れしい」
エドは私を責めるような目で見た。私達は二人だけが聞こえるような小声で会話した。
「まさかまだ殿下に話してないのか?」
「とりあえず馬車に乗っちゃおう。話は全部、他の人間に邪魔されない道中の馬車で」
「何をこそこそしているのですか?」
アルがまたエドに喧嘩をしかけない内に、無理やり馬車に二人を押しこんで私も乗り込んだ。ゆったりとした馬車の中は3人が乗ってもまだ余裕がある。
馬車が動き始める前はアルも外を眺めていた。急に故郷をしばらく離れる事になったのだ。複雑な心境だったのかもしれない。
しかし馬車が動き出すとすぐに表情が驚きに変わった。
「なんだこの馬車は、揺れが少ない」
「そうか?サスペンションが多少は効いてるのかもしれないが、道が舗装されていないから揺れはあるではないか」
「明はこの世界の住人ではないから知らないだろうが、この馬車は帝国でも最新技術を駆使した最高の乗り心地だぞ」
アルが思わず驚くぐらいだから、相当すごい技術なのかもしれない。しかし現代の車とアスファルトで舗装された道に慣れている私には、まだまだキツイ馬車の旅になりそうだ。
「それで女神よ。そろそろあなたの秘密と『アカリ』という名前について説明していただけませんか?」
馬車という近距離密室空間で逃げ場所はない。エドもアルの味方の様で、私が話すのをじっと待っていた。
「その……秘密って言うのは、妾……、じゃなくて私は、この世界を作ったけど神じゃなくてただの人間だって事」
アルはわからないという表情をした。アルは私が神だなんて信じてなかったと思う。だから今更神じゃなくて人間だと言っても驚かないだろう。問題はこの世界を作ったという所だ。
「ただの人間がこの世界を作った?何をバカな話を……」
「この世界は私が書いた小説の世界なの。物語を作る事は人間でも出来るでしょう」
「この世界が貴方の考えた想像の産物だと?そんな事信じられるわけがない。エドガー王子はこんな虚言を信じたのか」
「すぐに信用したわけではない。いくつか確認して少なくともただの人間ではないという事はわかった」
そう言って私が話した各国の国家機密と、その証明について話しした。アルはそれでも信じられないようで、大きく首を振った。
「それが本当ならただの人間ではあるまい。しかしならば貴方は何者だ?」
「私は『藤島明』16才。女子高生よ」
「明。その『女子高生』というのは何だ?確か母上との話にも出てきたが」
「私の住んでいた『日本』という国では最強の生物よ」
エドとアルが日本を知らない事をいい事におおぼらをふいた。あながち間違いではない。日本人は若い女性、とりわけ高校生をもてはやす。女子高生は一種のステイタスだと思う。
しかし二人は私の言葉を疑いの眼差しで見つめた。
「創造神が女子高生で何が悪いのよ。今にあっと言わせてやるんだから」
私が宣言すると、アルは邪悪な笑みを浮かべて身を乗り出した。
「そうか……。神ではなく人だというならば、もう遠慮はいらないな」
私の手をとって強引に引き寄せようとするアル。ちょっと待った!予想はしてたけど、何?この変わり身の早さ。馬車の中だっていうのに何をする気だ。
しかしアルの腕の中に抱き寄せられる前に、エドが間に入って止めてくれた。
「明の意に添わず、強引に事に及ぼうものなら、私が許さない」
「ほう……。許さないというならば、どうするつもりか?」
「ちょっと、二人とも旅が始まったばかりだって言うのに喧嘩しないでよ」
前途多難な三角関係のまま、馬車は私達を乗せて走り続ける。目指すは碧海帝国。
しかし、その道のりは予想以上に長く険しいものだった。
第1章 終了
第1章終了です
区切りのいいここで申し訳ありませんが、しばらく休載させていただきたいと思います
詳しくは活動報告をご覧ください
12/26 アルの名前間違えてた!ので訂正
メインキャラの名前間違えるなんてorz