微妙な三角関係5
「どういう……ことじゃ?王子の誤解とはなんじゃ?前王妃がなぜカプア公国に殺されたなどと……」
「創造神様はオリビエの死について、どこまでごぞんじですか?」
「突然亡くなった事。病死となっているが、毒殺の噂もある事」
「そう公式的には病死扱いになっていますが、毒殺説は根強い。そしてその首謀者の一つとして名前が挙がっていたのが碧海帝国だった」
「なぜじゃ!なぜ帝国が暗殺など」
「当時死因を調べても、何の痕跡も見つからなった。だから痕跡の残らない未知の毒ではないか?という噂が広まった。そして多くの秘密をもつ帝国の人間ならば、我が国の医師でもわからない毒を所持しているのではないか……と」
「そんな。なんの証拠もなく、帝国を疑ったというのか?」
「そう。何の証拠もないただの噂。しかしアルフレッドはまだその噂を信じているようだ」
思わず息をするのも忘れるほど、私は驚き言葉を失った。アルがあんなに帝国やエドを嫌う理由。それが母親を殺されたという思いこみだとしたら。
しかもそれまで憧れを抱いていた国の人間だったなら、裏切られた気持ちになったかもしれない。アルはどれほどつらかっただろう。
だが、この王は帝国が犯人ではないとわかっていたようだ。ならばなぜそのアルの思いこみを解いてやらないのか?
「しかし帝国が犯人ではなかった。カプア公国が犯人というなら、なぜそれを王子に言わなかった」
「言えなかったのです。カプア公国が犯人とわかっても証拠がなかった。証拠もなく追及しカプア公国ともめごとをおこせば、華無荷田国が黙っていない。王として国を守らなければいけなかった。しかし真実を話せばアルフレッドが黙っていない」
「ではなぜ、今になって戦争しようなどと……」
「皮肉なことですが『大災害』のおかげです。『大災害』でカプア公国の主産業の宝玉の産出する山が消えた。それによって華無荷田国にとってカプア公国は重要な国ではなくなった。もう大国を気にして遠慮する必要もない」
まさか『大災害』を喜ぶ人間がいるとは思わなかった。しかも山一つ消えた事で戦争がおきる。復讐に狩られた王は国一つを根絶やしにするとまで言った。
「カプア公国はなぜ王妃を殺したのじゃ?」
復讐に燃える暗い目をしていたフランツ王が、目を伏せ表情を苦しそうに歪めた。
「カプア公国は元をたどれば我が国の王族が作った国。我が国の王族の血を濃く受け継いでいる。そして不幸な事に近年我が国の王族は次々と亡くなり、残されたのは私達家族だけ。つまり私の後を継ぐものはアルフレッド一人なのです。もしアルフレッドが子を残さずに死ねば、我が王朝は滅び、一番近い血筋であるカプア公国の人間がこの国を治める権利を主張する」
「では……まさか……」
「そう。本当に命を狙われたのはアルフレッド。オリビエは息子の命を庇って死んだのです。子供だったアルフレッドにおまえのせいで母親が死んだなどと言えるはずがない」
「しかし……それはカプア公国の人間が悪いのであって、王子が悪いのではない」
「そう。アルフレッドは何も悪くない。悪いのは私です。私はオリビエが殺される事がわかっていた。わかっていてもふせげなかった」
私は言葉を返す事も出来なく、ただフランツ王の話を聞いた。フランツ王もまた私に話すというより、神に懺悔するようだった。ああ……そういえば、いちよう私、神なんだっけ。
「カプア公国には王族しか知らない門外不出の特殊魔法があるのです。その魔法とは『呪い』。狙った相手を時間をかけて徐々に弱らせ死に至らしめる。私が気付いた時にはすでにアルフレッドは治療ができない程『呪い』に侵されていた。しかしアルフレッドが死ねば我が王朝は滅び、カプア公国の思惑通りになってしまう……残された手段は一つしかなかった」
「その手段とは?」
「呪いを解く事はできなくても、人に移す事はできたのです。しかし移す人間は呪いをかけられた人間と血のつながりの深いものでなくてはならない。私かオリビエかクリスティーナか。しかし私が死ねば国は荒れ、カプア公国に付け込まれる。クリスティーナはまだ死の意味も知らない幼い子供だった。兄のために死ねという事は私にはできなかった。それに残された王族が少ない事を考えると、クリスティーナの血筋もまた残しておきたかった」
「それで母親が身代わりになったのか?」
「そうです。私はオリビエを息子の身代わりにした。妻を亡くした時に私は誓ったのです。いつかカプア公国に復讐する事を。二度とこんな悲劇を繰り返させないために、カプア公国の王族は赤子であろうとも皆殺しにし、完全に血筋を断つ」
「妻を殺された復讐に国一つ滅ぼすというのか……。関係ない国の民も巻き込んで」
「何も個人的な感情のみではありません。国の象徴である王族が殺された。これを放置しておけば、我が国はカプア公国に侮られ、付け入るすきを与える。国の威信にかかわるゆゆしき問題です。我が国とカプア公国の民については最小限の犠牲になるよう努力しましょう。諸悪の根源はカプア公国の支配者達にある」
国の威信とかそんな物のために戦争を起こそうとする気持ちはわからない。でも大切な人を救う事が出来なかった痛みが善王と呼ばれた人を復讐の鬼にかえてしまったのか?
「しかしどれほど大義があろうとも、大勢の人間の命を奪うこの戦争を引き起こしたものとして、私は後世に語り継がれるほどの愚王になるでしょう。私には泥をかぶる覚悟がある。しかし次代の王であるアルフレッドにはこの悪名を着せたくない。そこで創造神様にもうひとつお願いが」
戦争を引き起こす片棒をかつげと言われ、これ以上私に何を望むというのか。
「アルフレッドはことのほか創造神様に気にいっている。貴方様の言う事なら息子も言う事を聞くかもしれない。アルフレッドを戦争が終わるまでの間、この王都から連れ出してはいただけませんか?理由はなんでもかまいません。『大災害』対処のための視察とかがよろしいでしょうか」
「アルには何も話さぬつもりなのか?」
「戦争が終わり、すべての始末が片付いた後、話しましょう」
自分の知らない所で母が自分を庇って死んだ。そして今度もまた何も知らされずに、父が母の敵を討とうとしている。それを後から知った時、アルはどんな思いをするか……。
「よろしくご検討お願いいたします」
フランツ王は恐ろしい復讐鬼の表情を捨てて、いつもの穏やかな笑顔でそう言った。作られた笑顔に寒気がして思わず身震いした。




