二人の王子4
「おはようございます。わが女神よ」
朝目が覚めたら、目の前にアルの顔があった。しかも笑顔なはずなのに、目が笑ってない。
思わず叫びそうになって必死に抑え込んだ。
「無礼者。我が寝所に勝手に入るな」
「失礼。レディのベットに無理やり押し掛けるのは趣味ではないのですが、あなたには少し男に対する警戒心をもっていただきたくて」
私はアルと距離を取ろうとベットボードまで下がる。しかしアルはゆっくりと私によってくる。
「あなたが神であると同時に女性であるのですよ。深夜に庭で男と二人きりなどあまりに危険だ」
昨日の夜のエドとの一件がもう耳に届いているようだ。私とエド以外に知ってるのは、アルノーだけ。あいつ告げ口したな!後で仕返ししてやる。
寝ざめの悪い朝の不機嫌さでそんな事を考えてしまう。
「殿下。創造神様の朝の御支度をいたします。応接室にお茶の御用意をさせていただきましたので、そちらでお待ちください」
セシリアが仁王立ちですぐそばに立っていた。彼女の貫禄にアルも渋々したがう。セシリアありがとう!さっすが。
セシリアに手伝ってもらいながら、着替えや身支度を整える。このままセシリアに睨みきかせてもらって、アル追い返してもらえないかな……と思ったがそうはいかないらしい。
「殿下はそうとうお怒りです。創造神様、御覚悟を」
助けてくれないわけね。まあただ年季が入った召使いってだけだし、王子に逆らったりはできないわね。
それでも身支度の最中に心構えができていたので、さっきよりだいぶ気持ち的に楽になった。よし戦ってくるぞ。
応接室の扉を勢いよく開けると、アルは優雅にお茶を飲んでいた。優雅なのはしぐさだけで、そのオーラは殺気だっている。
私はそのオーラに負けないように、から元気でふんぞり返って向かいの席に座った。
「朝から騒々しいと思ったが、些細な事でいちいちうるさいのう」
「些細な事?男と密会が些細な事ですか」
「あの時は兵士のアルノーが見張っていた。妾に何かあれば、駆けつけられる距離にな。帝国の王子とて、他国の城の中でいきなり命を狙うような事はしまい」
「何をするかわかりませんよ。あの秘密主義帝国の人間なら。命を狙われたり、押し倒されたり、攫われたり」
ずいぶんひどい言いようだ。エドが可哀そうになってきた。
「エドガー王子はそなたの身を案じていたぞ。なぜそれほど目の敵にする」
「それこそ女神を騙して取り入ろうという奴の手段です。騙されてはなりません」
何を言っても悪い方にしか考えない。聞く耳もたないってことね。何でこんなに嫌ってるんだろう。原因がわからなきゃどうしようもできない。
「ところで帝国の王子から私の何の話をされたのですか?」
しばらく沈黙がつづいた。アルのお母さんの話とかしちゃっていいんだろうか。でも毒騒ぎで心配かけた事謝りたいな。それに創造神のふりを辞める事どうきりだそう?
色々迷って重い口を開いた。
「前王妃の話を聞いた。殺されたと。毒殺の噂もあって、だから妾の事もアルは過敏になっていると。以前妾が『毒を入れた』などと勘違いで大騒ぎして心配かけた。すまぬ」
アルは「余計な事を」と小さく呟いて、苦い顔をした。しかし怒りのオーラは少し和らいだようだ。変わりに気まずい空気が流れだしたのだが。
「あの王子め、わかってて言ったのか。あるいは何も知らないのか。まああの当時はあの男も子供だったから聞かされてないのかもしれないな……」
「どういうことじゃ?」
「あなたには関係ない事です」
強く言いきったアルは、もうこの話しはしたくないという表情をしていた。
本人から聞き出せない以上。周りから探るしかないだろう。ひとまずこの件は後回しにした。
問題は神のふりを辞める事だが、たぶん今だってアルは本気で私を神だと信じてるわけじゃない。あくまで振りだけだ。
しかし振りでも一様、神様って事で手加減してくれてるみたいだ。これで振りを辞めたら恐ろしい事になりそうだ。
エドに頼るのは最終手段として、他に防御策を考えないと。特にせっかく落ち着いてきたのに、またさっきみたいに極端な行動に出られると困る。
私が悩んでいると、アルは真剣な表情で語りだした。
「創造神。あなたはあの帝国の王子を信用しすぎてるようだから言わせてもらうが、油断されるな。あの男には色々悪い噂もある」
エドとアル。二人に仲よくなってもらいたい私には、不吉すぎる言葉だった。