二人の王子3
私はとぼとぼと庭から廊下へと戻った。
あの兵士さんが無言で出迎えてくれた。何だか気まずそうだ。
そうか遠くから私達を見てたんだ。この兵士さんの目からみたら私達はどう見えたんだろう。
ああ、兵士さんじゃない。感情を持った人間だ。
その自分の考えを改めなければって思ったばかりじゃないか。
「そなたの名を聞いてもよいか?」
私の唐突な質問に兵士さんは少しだけ驚いた。しかしさすが兵士。すぐに動揺から立ち直った。
「アルノーと申します」
「アルノーか、待たせてすまぬ」
急に私が謝ったのでアルノーはまた驚いた。今度はさっきより立ち直りが遅かった。
「いえ。待つのが私の仕事です」
召使と同じ。名前もなく、言葉を交わすことなく、ただそばに控えて黙々と仕事をする。
それがこの国の、この世界の常識か。物の用に扱われて当然だけど中身は人間、そう理解するのは難しい。
そのままとぼとぼと帰ったら、私の部屋の前ではあのオバサンメイドが待ち構えてた。
こんな真夜中に起きているとは。昨日もこの人の目を盗んで部屋を抜け出したばかりだったから、警戒して気づくのが早かったのかもしれない。
「創造神様。どこへいってらっしゃったのですか」
「心配をさせてすまぬ」
私がいきなり謝ったので、出ばなをくじかれたように驚いてそれ以上追及してこない。
「ところでそなたの名を聞いてもよいか?」
ますます困惑するオバサンメイド。しかしそこは経験の差か、ユリアより冷静に答えた。
「セシリアと申します」
「セシリア。妾は寝る。もう黙って抜け出したりはしないから、そなたも寝るがよい」
私がセシリアの横を通り過ぎた時、セシリアが思いのほか優しい口調で言った。
「このまま朝まで寝たふりをされるつもりですか?そんなお顔のままで眠れるわけがないでしょう」
私はそんなひどい顔をしているだろうか?
「少し薬が効きすぎたようですね。安眠効果のあるハーブティーをお持ちします。部屋でお待ちください」
セシリアは召使いの仕事として気遣ったのだろうか?それとも彼女自身の優しさだろうか?私にはわからない。
ただ彼女のいれてくれたハーブティーは優しい香りがして、傷ついた心を癒してくれた。