二人の王子1
お待たせしてすみませんでした
見切り発車で少しづつ更新を再開しようと思います
更新はゆっくりペースになりますが
気長にお付き合いください
アルはあの後、私を強制的に休ませた。
確かに一睡もせずに城を抜け出して疲れてたし、色々あって興奮してたから休んだ方がいいのはわかるけど、まさか昼ご飯の後のお茶に一服盛るとは。
おかげでまだ明るいうちにベッド行きだ。
本当に身勝手で手段を選ばない男だ。
しかも私のためにやってると本気で思ってるだろう所がたちが悪い。
まだ明るいうちから寝てしまったせいで、真夜中に目が覚めた。しかも一度眼が覚めたらまた色々思い出して眠れなくなる。
消えてしまった屋台のオジサンやユリアが頭の中でぐるぐる回って涙が出そうになった。
ベットの中で一人でいるから悪い事ばかり考えるのだ。
私はオバサンメイドを起こさないように、こっそりとベットを抜け出し夜着のまま部屋を出た。
部屋の前には見張りの兵士がいて、私がこんな真夜中に起きてきたのを驚いていた。
「眠れぬから少し歩いてくる」
たぶん暗い松明の下でもわかるぐらい私はひどい顔をしていたんだと思う。何も言わずに少し距離を置いてついてきた。
この兵士もアルに身辺警護頼まれてるんだろうな。私が毒を盛られたと信じるくらい、私が誰かに殺されても不思議はない状態なのだ。
私は昼間城を抜け出す時に通りがかった庭に向かった。
城の庭とか言ったらバラとか派手な花が咲き乱れてそうなイメージだったのが、その庭はつつましやかで花も少なく、野草の小さな花が無造作に咲いていた。
手入れがされてないわけじゃなくて、自然の美しさをわざといかしたようなその庭になぜか私の心はひかれる。
兵士は気を利かせて庭の外で待っていてくれた。それでも遠くから私の様子を気にしているのはわかる。
今日目の前でオジサンが消えて、知らないうちにユリアも消えた。
目の前で人が殺されたとか、知り合いが死んだと聞いたらこんな感覚になるのだろうか?
テレビで殺人事件のニュースとか見ても、怖いなとか思いつつどこか他人事で、いつもの事と流して日々暮らしていく。
いざ目の前で起こったり身近な人が巻き込まれたと知って、人が死ぬ現実を思い知らされる。
血は流れないし死体もない。でも人がいなくなって二度と会えなくなるというのは同じだ。
むしろ殺された人なら思い出の品が残ったりするが、『大災害』はその人が作った物まで消えてしまうのだ。何も残らない。それはどれだけ悲しい事だろう。
ほんの少しの間一緒に過ごした人が消えるだけでこれほどショックが大きいのに、もし家族や友人や親しい人がいなくなったら?もし自分自身が消えたら?
しかも原因不明で、いつどこで起こるかもわからないなら避けようもない。
この世界にいるのが怖くてしかたがない。どうしてこの夢は覚めないのだろう?これは夢ではないのだろうか?
私はこの世界が信じられないんじゃない。信じたくないのだ。
今私の体は日本の自宅のベットの中で、ただ夢を見ているだけなら、目が覚めたらこの悲しみもすべて忘れて日常に戻れる。
いつからだろう。これは夢だ、ではなくこれが夢だったらと願うようになってしまったのは。
少しづつ私はこの異世界の不条理に慣れ、悪夢だと思いながら心のどこかで現実ではないかと思い始めてしまった。
それはきっと彼らの存在だ。エドガーやアルが夢の世界の住人で、夢から覚めたら二度と会えない架空の人だなんて寂しすぎるからだ。
私の事を心配してくれる彼らの優しさが、ただの作りものだなんて思いたくない。
夢から逃げ出したいのに、夢と思いたくない。矛盾してる。
考えても考えても今は冷静な判断はできそうになかった。頭をからっぽにして落ち着くために、深呼吸をして夜の庭の匂いを嗅いだ。
ふいに庭に風が通り抜け、その強い風を肌に感じ、私の意識は現実に引き戻された。
庭の向こうに人影が動くのが視界の片隅に移る。目を凝らして見た時夢を見ているのかと思った。
月に照らされた深夜の庭に他の人間がくるとは思わなかった。ましてやそれが彼だなんて本当に自分の願望が夢に出てきたとしか思えない。
気づけばその人に向かって歩き始めていた。彼もまた私に気づいて歩いてくる。
見間違えようもないほど近くまで来た時、私は手の甲をつねって痛いと思った。
ああ夢じゃないんだ。いや?この異世界が夢なら私は夢の中なのか?
またわけがわからなくなるほど混乱して、また私は考える事を辞めてしまった。
心配そうな表情で私を見る彼の目に、私が映っている。今はそれだけでいい。
夜の闇に消えそうなほど黒い髪と瞳を持ったエドガーが私の目の前にいた。
「明。こんな時間にどうしたのだ?」
エドガーの低い声は心地よく、不安定だった私の心を落ち着かせてくれる。それでやっと言葉が出せるようになった。
「眠れなくて」
ますます心配そうな顔で私を見つめるエドガーは、私の頬に手を伸ばして触れた。
「涙の跡があるな。何があった?」
ああ……私泣いてたんだ。気付かなかった。気付いてしまったら我慢できなくなった。
私は声をあげて泣きじゃくった。何も知らないエドガーは私を優しく見守ってくれた。
暗くぐるぐるした主人公の話が続いてます
主人公はまだ高校生で、しっかりしているようで未熟な、弱く普通な女の子です
でもどんどん強くたくましくなっていくので、
温かく見守ってください