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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第1章 聖マルグリット編
15/99

一人孤独の探索行5

 オジサンが消えた。


 まだバルグの熱が手に残っているのに……。

 さっきまで笑顔で話していたのに……。


 私『大災害』の事知ってると思ってた。

 どんな現象でどれくらいの規模で起こっているか、資料で読んだだけでわかった気がしていた。

 でもやっぱりまだ私にとって人事だったんだ。

 これは夢の世界だし、『大災害』なんて私と関係ない所で起きるものだと、高をくくってた。

 目の前で現実を突きつけられないとわからないだなんて、バカだ、馬鹿だ、大馬鹿者だ。


 叫びだしたい悲しみが湧き上がってきて、どうしようもなく体が震えた。



 その時突然、私は背後から抱き締められた。目を手で覆われて真っ暗になる。でも不思議と怖くなかった。むしろ安心した。

 震える私をなだめるその腕が優しかったから。私は背後にいる人間は彼ではないかと期待した。

 エドガー。彼ならきっとこんな風に優しく私を慰めてくれる。


「見るな。忘れろ」

 耳元で聞こえた声が信じられなかった。私を優しく抱きしめるこの腕も、心配そうに気遣う声も、彼じゃないんだ。

 私の期待を裏切ったその声の主は、バカ王子アルフレッドだった。



 私はそのままバカ王子に抱きあげられて城に連れ戻された。

 普通の状態なら抱きあげられて(しかもお姫様だっこ)運ばれるなんて、恥ずかしすぎて嫌がっただろうが、『大災害』を目の前で目撃したショックとバカ王子の信じられないような優しさでパニックになっていて、私はただぼーっとされるがままに部屋まで連れてかれた。

 私の部屋のソファに下ろされて、バカ王子も隣に座った。


 バカ王子は何もしなかった。何も言わなかった。ただ私の隣にいて心配そうに私を見ていた。

 いつもの女を狙う獰猛な目でも、人を馬鹿にしたような意地の悪い目でもない、不器用な、でも優しい目だった。私は信じられないものを見て、何も考えずに口を開いた。


「どうして?」

 どうしてそんな優しい目で見るの?私を落とすだけのためにからかって、しばりつけて、意地悪がしたかっただけじゃないの?

 しかし私の問いをバカ王子は別の意味だと誤解した。


「朝、召使があなたがいなくなったと言ってきた。しかもどうやら碧海帝国の人間と一緒らしいと。それを聞いて慌てた。やはり碧海帝国の人間があなたを攫ったのではないかと」

「碧海帝国の人間が私を攫う?」

「あの秘密主義国家の人間なんか信用できない。冷静なエドガー王子もなぜかあなたに強く感心をもっていたし。あなたを攫って自分の国に連れ帰って何か研究にでも利用するつもりかと思ってました」

 だから私とエドガーが会うたびにやってきたのだろうか?私を心配して?

「あなたはあの王子に騙されているようだったから、何を言っても無駄だと思った。だから王子の動きだけに注意していたが、まさかあんな子供を使うとは」

「違う。妾がシュリに無理を言って城を出ただけで」


 バカ王子はため息をついて顔をしかめた。

「まああのお子様にはあなたをどうこうする気はなかったでしょうね。でもその雇い主である王子の思惑がどうかはわからない」

 エドガーが私を利用しようとしている?何のために?そんな事信じない。


「見つけられてよかった」

 そう言って私の髪に触れるバカ王子の手は不快なものではなかった。むしろ大事なものを扱うように撫でるその手から、どれだけ私を心配していたか伝わってきた。


「どうして?どうして妾の事を心配などする」

「私の腕の中にいればいいと言ったでしょう。何も知らず、傷つくことなく、ずっと守りたかった。あなたを」

「戯言を。なぜ妾を守るのじゃ。そなたの恋人のなかに神などという毛色の変わった者を入れたかったのか?」


 バカ王子は微笑した。まるで自分自身を嘲笑うように。

「最初はそのつもりでした。しかも私よりエドガー王子に先になびくのも気に食わなかった」

 悪びれもせず白状するバカ王子に腹がたった。しかしバカ王子の寂しそうな表情にすぐに怒りがしぼんでしまう。

「気が強くて、警戒心強いわりに、あんな王子に簡単につけいれられて、気を許すあなたを見ていたら心配になってきた。強そうに見えて実はか弱いただの女の子ではないかと。自分の前でも弱さを見せて甘えてほしいと思いました。そう思ったらついいじめてしまった」

 おい、ちょっと待て。気になる女の子をいじめるって小学生か。さすがドS王子。

「自分の過ちに気付いたのはあなたが朝、私の部屋にきた時です。毒と言われて心臓が凍るかと思った。あなたの立場は今微妙だ。あなたの存在をよく思わないものが毒を盛る可能性はある」

 私が勘違いして毒と言ったのに、あの時バカ王子は本気で心配してくれたのだ。


 王子は自分の頬を撫でて怪しげに笑った。

「女性に叩かれるのも初めてでしたが、あなたなら嫌じゃなかった」

 え?ドSと思ってたけど、もしかしてMに目覚めた?やめてそんなド変態。


「理由なんてわからない。でも今はあなたが好きなんです。あなただけが」

 いつもの甘く媚びるような声ではなく、真剣な声で言われると私も照れてしまう。

 私は照れ隠しに話題をそらした。


「妾を好きだというなら、妾を縛るのではなく、妾の言う事を聞けばよいものを。そうすれば妾もこっそり城を抜け出したりなどしない」

 バカ王子は困ったような顔をした。そしてためらいがちに口を開く。

「町に出たから、あなたは『あれ』を見てしまったでしょう」

 『あれ』の意味がすぐにわかった。先ほどの恐怖が戻ってきて体が震える。

「すみません。嫌な事を思い出させた。でもあなたには言わないと伝わらないようですからね」

「妾が『大災害』に遭遇しないように、町へ行くのを止めたのか?」

「なぜ我が国で『大災害』の対策会議が行われているか。それはこの世界で一番この国で『大災害』が起こっているからですよ」


 私はその事実に戦慄した。今日見かけた町の人々は平和で明るかった。でもその裏ではあんな恐ろしい事が起こっていたのか。

 考えてみれば、あのオジサンだって笑顔だったけど、声に悲しみがこもってた。みんな無理して笑顔を作って生活しているのか。


「『大災害』の資料にはそんな事書かれていなかった」

「私が気付かれないように資料をそろえるよう命じました。城の中だけならあなたの目をいくらでもごまかせるのですよ」

 私の目をごまかす。そう言われた時嫌な予感がした。まさか……もしかして……。

「もしかしてユリアも……」

 バカ王子は目をそらして何も言わなかった。それが答えだった。ユリアも『大災害』によって消えたのだ。

「そなたが……辞めさせたと言ったのは……あれは嘘か」

「あなたは変な所で勘がするどくて、頭がいいのは困る。何も知らず、何も見ずにすごせば傷つくこともないのに」


 生きていてくれればいいと、あの時は思った。それなのにもうこの世界に彼女がいないだなんて……。

 名前を聞いて驚いた顔、菓子のかごを嬉しそうに抱える顔、思い出すだけで心の中に込み上げる感情を抑えられない。親しく話したのなんか1日ぐらいで、その前は家具の用におとなしくて全然仲好くなかったけど、でも私にとってこの世界で出会った大切な人の一人なんだ。


 どうしてユリアが消えなきゃいけないのよ、どうして!どうして!どうして!

 誰も答えなどくれない問いを繰り返し、私は湧き上がる怒りと悲しみをこらえる事が出来ず、目の前のバカ王子を叩いた。何度も何度も。バカ王子はそれに抵抗もせずただ悲しそうに呟いた。

「あなたにそんな顔させたくはなかった」


 そうだ。このバカは私が知ったら悲しむのわかっていたから、だからユリアが消えたのに「辞めさせた」だなんて嘘をついたのだ。自分が悪者になって。

 バカだ本当にバカだこの男は。私が傷つかないように、箱庭の中でいつまで飼うつもりだったのだ。

「アル。もう2度と妾に嘘はつくな」

 初めて私は自分から名前を呼んだ。アルは目を細めて嬉しそうに言った。

「私はあなたを守るためなら、これからも嘘をつきます」


 エドガーのような誠実さはないけれど、嘘をついてでもアルは私の事を大切にしたいと思ってくれている。

 2人を信じたい。でも2人の間には溝がある。どちらを信じればいいのか私にはわからなかった。

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