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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第1章 聖マルグリット編
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一人孤独の探索行4

 それから毎日シュリと話をしていた。


 碧海帝国には魔法使いはほとんどいないが、他国から魔道具を買って利用はする事。

 他国に外交に出た人間が本国と連絡を取る時、この魔道具を使っているため早く連絡がとれる事。

 そしてエドガーは最近本国と頻繁に連絡をして、何かを頑張って説得しようとしている事を教えてくれた。


 私が碧海帝国に行かれるように、エドガーも頑張っているのかもしれない。

 そう思うと少しだけ希望が出てきた。



 私は私で今できることを頑張ろう。どうやってあのバカ王子の監視の目をかいくぐるか。

 私はシュリが可愛いと思うが、目的のため彼を多少利用しようとも良心が痛まなかった。私が悪知恵を働かせている事も知らずに、少年は無邪気に私に懐いていた。


「シュリはこの城を出て町に行った事はあるか?」

「はい。王子の使いで買い物に行ったりしました。さすが聖マルグリット王国の首都。大きな町です」

「治安はどうじゃ?」

「『大災害』のせいで人々は不安にかられ、中にはすさんだものもいますが、元々治安のよい国でしたので、大きな問題はないと思います」

「この国の人間は皆王族のように金髪碧眼なのか?」

「いいえ。王族や貴族の方々は金髪碧眼の方が多いですが、普通の人々は皆ばらばらで、私のように黒髪黒目の者も大勢います」


 治安も悪くなく、私の容姿でも目立たないなら、私が出歩いても問題はなさそうだ。


「もう少し話がしたい。今宵は共に夕食を食べるのじゃ」

 私の思惑など何も知らないシュリは無邪気に頷いた。

 夕食後も色々理由をつけて引き止め続ける。夜遅くなりシュリが眠たそうにしていたので、今夜は応接室のソファで寝るようにと言った。

 最初はシュリも断ろうとしていたが、眠気と私の誘いにあらがえずソファで寝てしまった。

 私はベットに入って寝たふりをしたまま時を待った。



 空がうっすら明るくなってきた頃私はこっそりベットを起きて着替えた。

 まだオバサンメイドは部屋にきていない。

 音を立てないように慎重に歩き、隣の応接室の扉を開く。応接室にはソファで寝ているシュリしかいなかった。


 無防備に眠るシュリの口をしっかり手でふさいだ後、体をゆすって無理やり起こした。寝ぼけてうっすらと目を開けたシュリが私を見て大きく驚いた。

 口を塞いでおいてよかった。そうじゃなきゃ大声でほかの人間に気づかれていたかもしれない。

 指を1本たてて口元に寄せるしぐさで静かにするようにと伝える。シュリは正しく理解したのか、口をふさがれたまま頷いた。それから私は塞いでいた手を離してシュリの耳元でささやく。

「ついてまいれ」

 シュリは素直にしたがって、私の後をつづいた。



 私の部屋は2階だったので、シーツをロープ代わりにバルコニーの手すりに結び、それを伝って下まで降りた。

 明け方の空気は寒かったが、緊張感でそんな事気にしている余裕はなかった。

「シュリよ。できるだけ人目につかず、城の外に出たい。案内してくれぬか?」

「どうしてこんなことを?」

「妾には監視がついていて、城の外に出してもらえないのじゃ。しかし妾は神として民の生活を見て、『大災害』の対策をしなければならぬ」


 シュリは妙に興奮した様子で「私は創造神様の味方です」と力強く言った。

 わかりやすくて扱いやすい子だなと感心してしまう。


 シュリの案内の元私は城を歩いた。私の服装は目立つらしいので、途中衣類の保管庫にもぐりこんで、下働きの子の服を借りて着替えた。

 それから城の裏門から、朝市に買い出しに行く召使のふりをして抜け出す頃にはすっかり夜はあけていた。



 まだ朝だというのに町には人々があふれていた。仕事に向かうもの、朝市に買い出しに行くもの、行きかう人々に朝食を売る屋台。

 その活気あふれる様子は『大災害』の恐怖におびえているとは思えない光景だった。

 しばらく町を見て歩いていたら、シュリに袖をひかれた。


「創造神様。おなかすいてませんか?」

 そういえばいつもなら朝食を食べている時間だ。お腹もすいている。しかしこの町で食事をするということはあのゲテモノ料理を食べるということだよね。思わず顔をしかめる。

「聖マルグリットの料理は好きではない」

「宮廷料理ですよね。あれは僕も気持ち悪いです」

 日本と同じ文化の国だけあって、シュリの感覚は私に近いようだ。

「でもあれは貴族用に珍しい食材を取り寄せて、こった調理法で飾り付けたからああなっただけで、庶民の食事はシンプルでもっと普通ですよ」

 シュリの言葉に私はがぜん食欲がわいてきた。今まで目をそらして見ないようにしていた屋台をじっくり観察してみる。

 すると確かにただ肉を焼いて塩振っただけみたいなシンプルな料理が多い。

 肉の塊を丸焼きにして、肉汁が垂れる様子はよだれがでそうなほど美味しそうだ。

「シュリ。そなた金はもっておるのか?」

「はい。食事するくらいなら」

「では貸してくれ。妾が買ってくる」

「えぇ。僕が買ってきますよ」

「妾が買いたいのじゃ」


 私の剣幕におされて、涙目でシュリはお金をいれた子袋をさしだした。まるでカツアゲしたみたいだ。

 目立たぬように少し離れたところで待っているように言って、私は一つの屋台に向かった。

「いらっしゃい」

 明るい笑顔の元気なおじさんが、気持ちよくでむかえてくれた。

「おじさん。その美味しそうな肉どう食べるの?」

「ケーレの粉を水でといて焼いたパンに、野菜と一緒にはさんで食べるよ」

 シシカバブみたいな料理か。美味しそうだ。

「それ2つちょうだい」

「あいよ。お譲ちゃん可愛いから、おまけで肉多めにしてやるよ」

「ありがとう」

 粉をといた水を、熱い金属の上で薄く焼く様子を興味深く見ていたら、おじさんが話しかけてきた。

「お譲ちゃん、どこの国からきたんだい?」

「え?どうして外国人だと思ったの?」

「今お城にいろんな国のお偉いさん方が集まってるだろ。それと一緒にいろんな国の人間がこの国に集まってるんだよ。それにバルグを知らないこの国の人間はいないよ」

 バルグというのがこの料理の名前だろうか。墓穴をほるとまずいしと悩んで答えなかったが、おじさんもそれ以上追及しようとはしなかった。

「まあ色々大変な世の中だけどよ、元気だしなよお譲ちゃん。美味しいもんくってりゃ幸せになれるさ」

 そう言ったおじさんの声には深い悲しみが込められてた。きっと『大災害』を間近に感じて大変な生活をしているのだろう。

 それなのにおじさんの温かく優しい瞳は深く、悲しみなんて感じさせない笑顔だった。

「できあがったよ。4ルクだ」

 私はお金を渡してバルグを受け取った。できたてのバルグは温かくて美味しそうな匂いがした。


「ありがとう。おじさん」


 そう答えて屋台に背を向けた瞬間、手の中のぬくもりが突如消えうせた。

 落としたのかと思って地面を見てもバルグはどこにもない。

 振り返れば、さっきまで目の前にいたはずのおじさんも屋台もなかった。

 『大災害』を本当の意味で私が知った瞬間だった。

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