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異世界創造神は女子高生  作者: 斉凛
第1章 聖マルグリット編
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一人孤独の探索行2

 バカ王子はとんでもないものを、置き土産にしていった。


 カゴの中に魚の目玉をくりぬいたような、丸いものが入ってる。

 しかも色が黄色に紫とか、水色にショッキングピンクと目に痛い。

 そばに立つユリアに聞いた。


「これはなんじゃ?」

「貴重なカナンの実を使った菓子ですね」

 このグロテスクな物が食べ物なの!

 やっぱり聖マルグリット王国料理は気持ち悪い。


 いつも無関心に控えているユリアが、そのお菓子を凝視していた。

 もしかして……私は一つ意地悪を思いついた。

「妾は聖マルグリット王国料理が嫌いじゃ」

「存じ上げてます」

「ユリアに授けるゆえ好きにせよ」

 ユリアは目を輝かせた。

「よろしいのですか?」

「見てるだけで気分が悪くなる。早く下げよ」

 ユリアは嬉しそうに不気味な菓子に手を伸ばした。

 お菓子好きとか、女の子らしいな。

 それに貴重な実を使ってるなら、ユリアのような身分が低い人間には食べられない菓子なのかもしれない。


「その代わり、妾を城の外に出してはくれぬか?」


 ユリアはすぐにカゴから手を離した。

「それはなりません」

 ユリアはきっぱりといったが、目は未練がましく菓子を見つめている。

 その姿がいじらしくて、可哀想になった。

「冗談だ。城の外に出なくともよいから、その菓子を好きにせよ」

「本当ですか」

「本当だ。またこれからも王子がこの国の菓子を持ってきたら、すべてユリアにやろう。約束だ」

 ユリアはいつもの無表情っぷりからは想像もできないほど、表情を緩めてカゴを抱きしめた。

 20代ぐらいと思ってたけど、本当はもっと若い女の子なのかもなと思った。

「妾はもう寝る。下がってよいぞ」

 カゴを抱えたユリアは足取り軽く出て行った。



 翌朝目が覚めたら、部屋に知らないオバサンがいた。

 ユリアと同じメイド服を着ている。この人もメイドかな?

 そして代わりにユリアが見あたらなかった。

 今まで毎日私のメイドはユリアだけだったのに、どこへ行ったのか?

 すごく嫌な予感がした。


「ユリアはどこじゃ」

「あの者は辞めました」

 オバサンメイドは淡々と答えた。


「辞めた?なぜじゃ?なぜ急に!」

 私はユリアが心配になって、思わずオバサンメイドに詰め寄った。

 オバサンメイドは困ったように顔をしかめながら答えた。


「なんでも恋人と結婚するから辞めたいと言い出したとか。まったく近頃の若い娘には困ったものです」


 寿退社!そんなバカな。昨日までそんな素振りまったくなかったのに。

 それに仕事熱心で好きな菓子を前にしても、命令に従おうとしたあのユリアが急に辞めるだなんてありえない。

 もしかしてあの菓子に毒でも入ってて、死んでしまったとかないよね

「まさか……昨日の菓子に……」

「菓子とはなんの事ですか?」

 怪訝な顔をするオバサンメイド。この人が嘘をついてないとは限らない。


 私はすぐに身支度を済ませると朝食も食べずにバカ王子の部屋へ向かった。


 バカ王子は朝食を食べながら、秘書っぽい人と話をしていたが、私が部屋に入ってくると驚いた顔した。

「我が麗しの女神からわざわざお越しいただけるとは嬉しい。これが夜ならもっと嬉しいのに……」

「馬鹿な事を申すな!そなた、昨日の菓子に何をした?」

「昨日の菓子?ああ、カナンの実を入れた物ですね。お気に召していただけましたか?」

「ふざけた事を申すな、あれに毒でも入れたのではないだろうな!」

 私の言葉を聞いたバカ王子は、顔を真っ青にして私に駆け寄ってきた。

 私の額に手を当てたり、顔を覗き込んで確認したりして、私が無事なのを確認したらいきなり強く抱きしめた。


「離せ!無礼者」

 なかなかしつこかったが、しばらくしてようやく私の体から離れた。私は睨みつけようとして見上げたら、凍りつくように恐ろしい表情をしたバカ王子がいた。それを見たら何も言えなくなってしまう。

「毒を盛られたのですか?体は大丈夫なのですか?誰がそんな事を」

 ギリギリと歯ぎしりを立てて、恐ろしい顔をする王子を見てわからなくなった。

 とても演技には見えない。本当に知らずに私に毒が盛られたと思っているようだ。


 私は慌てて誤解を解くため説明した。

「妾は食べてない。ユリアにくれてやった」

「ユリア?」

「妾についていた召使いじゃ。昨日菓子をやったら、今日急に辞めたと言われて……」


 バカ王子は恐ろしい表情を和らげ、心底安心したようにため息をついた。

「それでその召使いが食べた菓子に毒が入っていると思ったのですか?」

「そうじゃ」


 バカ王子は安心したら今度はなんだかすごい不機嫌になった。なんなんだこの男さっきから青ざめたり、怖い顔したり、安心したら不機嫌になったり。この情緒不安定さはカルシウム不足か?

 バカ王子はイライラした顔で私を見下す。

「その召使いは死んだわけではありませんよ」

「ではなぜ急に辞めたのじゃ。結婚するなどと、そんな馬鹿な嘘通用するとでも思っているのか?」


 バカ王子は冷たい声で言い放った。

「私が辞めさせたのですよ」

 私は血の気が引く思いがした。

「召使いたるものの分をわきまえず、女神と親しくなりすぎたようですからね」


 私が名前で呼んだから?菓子をあげたから?だからって、辞めさせるだなんてひどい。


 気づいたら私はバカ王子の頬を平手打ちしていた。

 周りにいた秘書とか召使い達が驚きの声をあげた。周りの空気が凍りついた事はわかるけど、もうそんな事はどうでもいい。

 力づくで私を支配しようとするバカ王子にもう我慢できなかった。


 王子は叩かれても気にも止めてないように、冷めた目で私を見下ろした。

「女神のお怒りか……困りましたね」

「二度と勝手な真似をするな」

 私は捨てゼリフを残して、部屋を出た。



 私がバカ王子を叩いた事はすぐに広まって、人々が私を見る目はますます冷ややかなものになった。

 いいわよ!どうせ私と仲良くなったら、あのバカ王子はまた私から遠ざけるのよ。

 だったら誰とも仲良くなんてならない。


 ユリアごめんね。私のせいで仕事辞めさせられて……。

 またお菓子あげる約束も守れなかった。でも、死んでなくて良かった。 

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