創造神召還の裏側5
「さっきのエドガーの質問。何故私が帝国料理を知ってるのかなんだけど、帝国料理って、私の国・日本の料理なのよね」
「明が物語で明の国と同じ料理の国として、我が国を書いたという事か?」
「それが違うの。もしかしたらそこに『大災害』の鍵があるのかも……」
エドガーが息を飲んだ。彼は国を代表して『大災害』に対処するためにこの国に来たのだ。
気になって当然だ。
「そもそも私が書いた物語には『大災害』なんて存在しないのよ。そこからして、この世界はおかしい」
「創造神の想像範囲外の事態というわけか……」
「想像範囲外な事は他にもあるわ。あなたよエドガー」
「私が……?」
「私が書いた物語には碧海帝国もエドガーも存在しなかった」
エドガーは怖い顔した。存在を否定されたのだから当然か。
「私が……我が国が……『大災害』の原因だとでも?」
そこか、彼の怒りの元は。
慌てて私は訂正した。
「違う。そうじゃなくて。ああ……、この違和感何て説明したらいいのか。『風が吹けば桶屋が儲かる』みたいな間接的な因果関係で……」
「ああ……『風が吹けば桶屋が儲かる』か。我が国の何かが巡り巡って『大災害』に関係しているということか」
「そうそうってなんで『風が吹けば桶屋が儲かる』なんてことわざわかるのよ」
「碧海帝国に古くから伝わることわざだ。あまり知る者はいない言葉だがよく知っているな」
「古いことわざって、碧海帝国ってどれくらい歴史のある国なの?」
「建国200年程だな」
そんな前からある国が、なぜこれほどまでに日本の文化を受け継いでいるのだろうか?しかもことわざとか、あまり物語とは関係なさそうな所まで。
「つまり私の書いた物語と異なる点には遠い遠い関係があるかもしれないと思ってね。『大災害』を解決するためにエドガーの国に行ってみたいの」
私の言葉にエドガーは重々しく答えた。
「……それは難しい」
「どうして?『大災害』が解決する手がかりがあるかもしれないんだよ」
エドガーは困ったような表情で私を見つめていた。
「努力はする。時間をくれないか……?明」
まるで不可能な事に挑戦するように、曖昧な答えが私を不安にさせた。
エドガーが去って行った扉を見つめながら私は失望していた。
信頼できると思っていたはずのエドガーが、私に何か隠し事をしている。しかもとても重要な何かを。
エドガーは国を背負う王子で私に言えない事がたくさんあるのはわかる。
それでも私は自分の命をかけるつもりで真実を話したし、エドガーを助けたくて『大災害』を解決したいと思ったのに……。
「エドガー……」
何気なく口から出た言葉は、うらみがましく響いた。
「名前で呼ぶとはずいぶん親しくなったのですね」
ぞっとするような冷やかな声が聞こえてきた。声の主はあのバカ王子だ。
そういえば、この前もエドガーと会った後やってきた。私達の様子を見にきているのだろうか?
「なにようじゃ」
何をしでかすかわからないこのバカ王子の行動に、内心ヒヤヒヤしながらできるだけ冷静な声を作った。
「我が女神は料理も男も碧海帝国風がお好みか?」
下世話な言い方が気持ち悪い。私はきつくバカ王子を睨みつけた。
「妾はこの世界のため、『大災害』を解決する手がかりを得るため、碧海帝国に行こうと思っているだけじゃ」
「それは無理でしょうね」
「なぜじゃ。妾と碧海帝国の関係性を疑っているからか?」
「まあそれもないわけではないですが、もっと根本的な原因があるでしょう」
「そなた。知っているなら正直に話せ」
バカ王子は意地悪な笑みを湛えたまま、私の隣に座った。私には指一本触れることなく至近距離まで詰める。
「アルとお呼びくださいと言いましたよね。碧海帝国の王子の名は呼べても私の名は呼んでくださらないのですか?」
さっきの発言、まだ根に持ってるのか。めんどくさいな。私は嫌々ながらつぶやいた。
「……アル」
いやいや口にしたら、かすれたようなか弱い声になった。バカ王子は満足そうに笑顔を浮かべた。
「愛しい男の名を呟くような甘い声ですね。なかなかそそられる」
私は本気でこのバカを殴りたくて仕方がないのを必死でこらえた。
「いいから、さっさと知ってる事を話せ」
バカ王子はもったいぶったようにゆっくりと話し始めた。
「簡単なことですよ。碧海帝国は『鎖国』などという馬鹿馬鹿しい制度があるため、他国人は入国できないのです」
鎖国……ってあの江戸時代にあった、アレか。なんでそんなことしてるの?まさか歴史まで日本をまねしているわけじゃないよね?
「外国人は『出島』しか入れず、そこで商人達が商いをしている、あの鎖国か」
「そのとおりです。我が女神は世間知らずかと思えば、知識があったり不思議な方だ」
バカ王子はなんか甘い囁きを始めたが、私の耳には届かなかった。これは碧海帝国に行く前に色々情報収集しなくちゃいけないようだ。
もうエドガーに頼る気はなくなった。彼がいい人でも、私を助けようとしてくれても、彼にとっては私より国が大事なんだ。あたりまえのことなのに涙が出そうだ。
やはり私はこの世界で一人。そう思うと暗い気持ちになった。