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とある夕刻からの一時。

作者: 袋小路
掲載日:2026/07/09

じめじめむしむし。

なんだか現実に在りそうで無さそうな、いや寧ろ、無くていいだろと思わせるような擬音。

もちろん体感ならば普通のことではあるが、と。意識を途絶えさせたくなったのは、ソレが思い浮かんだからか。

「そういや、今年は空梅雨じゃないもんなぁ。」

この数年を振り返れば、既にこの時期は暑さでぐったりとしている頃なのだ。なのに、例年に比べてひんやりしている現在に、感謝はしているが、何となくの疑問を感じる。

少し前に暮らしていた場所ならば。

以前に住んでいた所ならば。

過去に。幼少期に。

遡り始めればキリがない。

この土地は確かに土は見える、緑も多い場所ではあるけれども。

「手入れされすぎてるのか、それとも、現代(いま)だからなのかなぁ...。」

溜息混じりに呟いた言葉は、湿気混じりの風と、交通量の多い道路の音にかき消された。

それを機に、ぐっと気合いを込めて立ち上がる。

「さて、どしよかね。」

頭の中で浮かべたのは冷蔵庫の中身。そして、使いたい順番、だ。使わなくてはいけない、と切羽詰まるものは確か無いはずだと、先程の時間でまとめていたはず。

仕事が終わってからのひととき。気持ちを平らかにするための時間は、人それぞれなのだろう。勿論、自分だって日によるのだ。

ただ静かに過ごすのか、物や人に触れるのか、立ち止まるのか、振り返るのか。

ひとつ違うとすれば、前を向いて先を見ようとした時だけは、己が動きたいと思ってるんだなと切り替える時間ではあるのだが。

「さて、と。」

吸っていた煙草を押し消し、立ち上がる。ベランダからの扉を開けて閉める際、網戸にするか、ガラス戸そのものにするか。その違いで、自分の気持ちが違うのをどこかで意識する。

また気軽に出られるようにならば網戸で。しっかりと室内で作業するのならばガラス戸で。それは本当に些細であるが、自分の決めたルールなのだ。

守らねば、と顎を引く。

一先ずは換気も兼ねて、網戸にする。そして冷蔵庫に向かい、頭を切替える。

ツードア式の昔ながらの、少し小さい丸みを帯びた冷蔵庫の、下部の引き出しを引く。冷凍庫に入れてある食材のリストは、何となくだが頭には入っている。今夜は幾らかひんやりとしてる気がする。湿気が多い日は、日が落ちた後、空気中の水分が冷えやすいのか、冷たく感じる気がするのだ。

尤も、日によって違うから、本当に気のせいかもしれないけれども。

「なんか、疲れてるって言ってたしー...そうしたら、豚肉、がいい、かな?」

疲労回復に良いと言われるビタミンが多いとかなんとか。そんな蘊蓄が好きな相方のためにも、ここは選ぶのが良いのかもしれない。

元々豚肉はお互いに好きだし、と鼻歌でも歌いたい気分になりながら取りだし、そのまま電子レンジへ向かう。袋の口を開けてから解凍の準備をするのは大事な事だ。全解凍までしないにしても、密閉状態の操作は危険と当たり前のことを何度も脳裏に浮かべる。

解凍しつつ、冷蔵庫からは生姜や醤油、棚から酒や砂糖や玉ねぎ。必要なものを取り出して、順番に計ったり、包丁でカットしたり。時折スマホを弄るのは、時間確認もそうだが、自分が作りたい分量が大きく間違っていないかを確認する為。料理は感覚でできなくは無い。けれど、手本があればそれを参考にするのも悪くはないはずだから。

そうして準備を済ませた後に、解凍も終わった肉は冷蔵庫にしまい、炊飯の用意をする。

「あとどんくらいかなぁ。」

スマホに表示される時間と、予定の時間と。実際に来るだろう連絡の時間と見比べながら、あとは欲しいものはなんだろうかと考えるのは楽しいひとときだ。

料理をしている最中もそうだか、相方のことを考える一時はまた別口とも言える。

ここからどの程度の時間を空けてから連絡が来るのか。その際に、今日の仕事の様子と、空腹具合を伝えてくるのかどうか。それを楽しみにしながら、再びベランダに出つつ、次なる煙草に火をつけよう。

もちろん、ガラス戸を締め切ってから。


今夜の献立

・生姜焼き

・味噌汁

・酢の物

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