深く考えない事にした
その日、私は一目惚れをした。
大学で出会った彼は背も高いし、声も綺麗だし、顔も格好いい。
優しい言葉を話してくれるし、お金持ちだし、勉強も出来るし、運動も出来る。
すごい。
天は二物も三物も……と言うか、何でもあげちゃうんだなって思った。
そんな彼が私に声をかけてくれた。
「君に一目惚れをした」
有頂天だ。
私は即座に彼の言葉に返事をした。
――その翌日。
見知らぬ女が私の家に訪れた。
「今すぐに彼と別れなさい」
「は? 誰よあんた」
「いいから別れなさい」
「理由くらい言いなさいよ」
大方、彼のことが好きな女の一人だと思うけれど。
そう思うと少しだけ優越感が沸いてくる。
「言わない。とにかく別れて」
「いや無理でしょ。昨日付き合ったばっかなんだけど」
「だから今のうちに別れて」
「今のうちって何よ怖いわ」
と言うか、何でこの家を知っているの?
誰から聞いたの?
どうやって調べたの?
「あとで面倒になるの」
「もう面倒なの来てるんだけど」
「だから言ってるの。別れて」
「命令口調やめてくれる?」
ちょっとした優越感はだんだんと面倒くささに。
そして、それが少しずつ恐怖に変わっていく。
「はぁ。仕方ないか」
「は? 何が――」
直後、彼女は懐から包丁を取り出した。
「は!?」
えっ!?
なに!?
逃げなきゃ――。
思考に体が追い付いていない内に彼女は振り上げた包丁を自らの首に刺した。
声にならない悲鳴をあげる私の前で彼女は冷静に自分の体を何度も何度も刺していく。
もう呆然としたまま私は腰を抜かす。
「安心して。死なないから」
いやいやいやいや。
こんな状況で落ち着けないよ!
そんな尤もな思考を読み取ったように彼女は笑う。
「ていうか、もう死んでるから。彼に殺されてね」
「……は?」
包丁が落ちた。
だけど、地面と衝突しなかった。
「あいつ。連続殺人犯なのよ。私が最後の犠牲者」
「えっ、は? え?」
「あいつにこれ以上犠牲者を増やさせるつもりもないし、それに」
目と鼻の先。
いや、それよりもずっと前に。
――つまり、私の体を通り抜けながら彼女は言った。
「あいつの隣に私以外の誰かが歩いているのを許すつもりもない」
*
翌日。
私はLINEで彼に別れを告げた。
そのまま返事も待たずに彼をブロックした。
慣れていることなのか、彼は大学で出会っても軽い会釈しか返さなくなり、やがてそれもなくなった。
大学に通っていると今日もまた彼の噂を聞く。
口説き文句はいつだって一緒。
「君に一目惚れをした」
口説かれた子が翌日には疎遠になっているのもいつも一緒。
だから、私はそれ以上を見るつもりもないし、考えるつもりもないし、真実だって追うつもりもない。
だって。
怖いから。
彼は今日もまた別の女の子を口説いている。




