表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

エピローグ「その後の――」



「――これが、だいたい二十年くらい前の話さ、依頼人」


 禁足地:水森地区の入口近くにあるくたびれた小屋の中。曇りのせいでやや暗くなっている昼の時刻のこと。


 二人の男女が小机に向かい合って、缶コーヒーを飲みながら話をしている。


「後日談を言うなら、二週間後に彼は解体されたよ。想い人や家族の元に生々しい遺体の一部が水守之白水から届けられたさ。幼馴染の彼女のところには頭が、彼のご両親には胃腸が、私の元には左腕がね。他にも届けられた人物はいるだろうが、そこは把握していないな」


 六十を少し超えた老婆に入ったばかりの女性が懐かしそうに口にする。背筋こそしっかりとしているが、誰もがそう言うだろう。たとえ顔に汚れのように見える痣がなくとも、顔のしわと生気のない声でそう判断されるに違いない。


「信徒にされてしまった彼女は……私の親友は、自分を責めに責めた。彼を殺したのは私だと言い続けて自殺未遂をするほど気が狂った。数年かけて退院すれば、今度は気が狂ったようにボランティアに参加していたよ。働いて稼いだ金はそれに使われるか、間接的な自罰に使っていたな。糖尿病という病気を知ってるかね?」

「……名前だけなら知っています」


 依頼人の男性が息を飲みつつ返答をする。どこにでもいる風貌の若い大学生だ。女性と話をしているのは霊能スポットである水森地区に入った友人達との連絡が取れなくなって、思い切って訪れたからだ。その際に入口で女性に呼び止められたのである。


 その経緯で、今は水守之白水の恐ろしさやこの地区の過去を教えられている。


「炭水化物や甘いものばかり摂取しているとなる病気でね。彼女は意図的にこの病気になって苦痛の多い人生を歩もうとした。毎日羊羹を二本、三合の米、そこにさらにジュースだけで水分補給さ。緩やかな自殺だったよ」

「うわ……それは、気持ち悪いですね」

「しかし結局、失明したり四肢の切断をすることはなかった。心筋梗塞であっさりあの世に逝ったのは救いだったろうね。ただそれは、水守之白水の加護によって守られたこともあるかもしれない。貴様に苦しむ資格はない……そういうメッセージはあったかもな」

「陰険神様じゃないですか」

「ああ、とんでもなく陰険だよ。正真正銘の邪神様だからな」


 お互いに苦笑いを浮かべる。とは言っても、一方はまだオカルト過ぎて半信半疑な想いが混ざっているし、他方は自嘲を混ぜたもので質は異なった。


「禁足地の中に入ってしまったきみの友人達は、彼のようにバラバラにされるか、それとも邪神の加護を受けて気が狂ったりする可能性があるということだ。覚悟はしておくようにな」

「わかりました」


 依頼人は真剣に頷く。オカルト部分に疑いはあるものの、それでも危険な場所だということはわかる。女性の態度は真剣そのものだからだ。」


「一つ聞いてもいいですか?」

「もちろん」

「その、霊能力者の少女は、どうなりましたか?」


 薄々は察していたが、半信半疑で恐る恐る質問する。疑いの念があるのは話してくれた過去に合致しない部分があるからだ。女性には両腕があり、きちんと動いている。なにより女性の年齢が話のそれと異なりすぎている。


 女性は寂しさや後悔の混ざった笑顔を作る。


「彼女に残ったのは復讐心だけさ。迷惑が掛からぬように家と自分の名前を捨て、宿っていた守護霊も返却し、歳の離れた妹に家業を押し付けた。そして水守之白水を討つ機会を淡々と狙っている。

 もっとも、今できていることは依頼人のような人をサポートするか、間違って迷い込んだ人を手助けするくらいだがね」


 女性は両腕の長袖をまくる。そうすると右腕は女性らしい腕だが、左腕は明らかに男性のような、かなり筋肉質な腕が出現した。


「復讐に身を任せるのは機械になるのと同じなんだ。何も感じなくなるんだ、痛みも気遣いも愛情も。大切な人の体を供養すらせず、戦うための呪具にすることだってやってのける。そしてそこまでいくと人間には戻れない。

 残念ながら、人の心はそれほど器用な造りにはなっていなかったようだ」


 よく見れば左腕のほうが指も長いだろう。直感だが依頼人は、それが普通の医療で繋がれたものではないと感じた。


 男性が理解したことを察して、女性が服を戻す。


「その顔は信じてもらえたようだな」

「そりゃあ、それを見せられると怖くてしょうがなくなりますって」

「それはなによりだ……ああ、いい時間だな。ではそろそろ行くとしか」

「よろしくお願いします、案内人さん」


 言って、二人は小屋から出る。

 曇り空の下をしばらく歩いてから、案内人がぼやく。


「依頼人、たとえ友達が助からなくても気にすることはない。きみがやれることは全てやっている。どこかのバカ女のように、間違えないようにな」


 そうして、二人は禁足地に入っていった。



 


本編はこれで終了です。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

本作が面白かった場合はぜひ、評価ボタンのところで感じたままの評価を入れてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ