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第3話「怪談への足入れ」



 水守神社の一件について話し合った一誠と玲奈。その数日後のこと。彼らはまた放課後、同じ空き教室で会話をしていた。


 その内容はより深刻さが増している。


「水羽さんがお休みしてるって聞いたが……」

「おばさんに聞いたら、友達と遊びに行くと言ってそのまま帰って来ないらしい。てっきり俺を含めた数人で遊ぶものだと思ってたそうだ」


 一誠と海暖の家族構成はお互いに父・母・子の三人家族だ。そしてそれぞれ一軒家であり、家同士が近所である。子供の年齢が一緒であるため家同士の交流がそれなり以上に行なわれてきて親しい間柄だ。


 そのため、一誠は海暖の母へ気軽に彼女のことを確認することができる。



「なるほど。それは行方不明で確定だな」

「……つまり、あの神社のことで確定か?」

「そうでないほうが簡単な話だったんだけどな。まあ神社、というか水森山公園を調べているが、霊魂も生物もその動きが激しいからな。関係ないとは言えないさ」


 玲奈が神妙な顔で呟く。しかし彼女に焦りは見えない。いわゆるその家業における修羅場というものを相応に体験、もしくは知る機会があるからだろう。


 クラスメイトの状況としては驚きと困惑が大半で、親しいものが心配していると言ったところだ。時代はSNSが発達した時代である。自分達と全く関係ない人物とヤンチャな遊びに出かけたことなどを否定できない。ただ、海暖本人は素行が良いことは周りも認知されているので、驚きと困惑もやがて心配へと変化するだろう。


 なおクラス以外では「水羽海暖はしばらくお休み」という軽い周知だけがされているだけされている。不必要に騒がないための措置だ。しかし長引くようなら本格的に校内に知らせ、警察に協力するような事態になるかもしれない。


「まあ、こうなったら私の専門だ。後は私に任せてくれればいい」

「……俺にできることは?」

「話したのはこうならないように気を付けてくれって話だったろ? だから今はないわけさ。いやあ、私もこんなに早く事態が動くと思ってなかったんだ、すまない」


 玲奈が申し訳なさそうにする姿を見て、一誠は心苦しくなる。海暖が心配のあまりふざけるなと声を張りかけたからだ。


 一誠はため息を付いて冷静であることを心がける。


「ただの誘拐のほうがマシだったか?」

「そっちはそっちで問題だろうよ。まあ霊能関係の得体の知れなさはわからんでもないけどな」

「海暖のことで何かわかったら、きみに言ったほうがいいな? 警察にはどう言えばいい?」

「私に報告してくれるのは助かるな。よろしく頼む。警察のほうにも霊能関係以外なら言っても構わん、というかそれをオススメする。万が一こっちと無関係なら、それこそ私の出番じゃないしな」

「警察はやっぱり霊能関係に弱いのか?」

「理解を示す人もいるが、そもそも大半が霊感能力の低い人だからな。理解しようとすることが難しいんだ。きみみたいに霊感能力が高くないのに心霊関係を理解できるほうが珍しいんだぞ?」

「あの神社を見れば嫌でも理解するさ。あれがわからないのはアル中になりたい願望がある奴だけだ」

「ハハハ! 妙なことを言うなよ! たしかに神社近くの霊能には似たような効能があるけどアル中とか不敬すぎ! アハハハハ!」

「そんな効果があったのかよ。やっぱあいつむっつりスケベ神でいいだろ」

「ほんと不敬なやつだなあ! ……まあいいか、間違ってねえからなっ」


 玲奈の大笑いが落ち着いたところで、二人は別れを告げる。


「じゃあ俺はそろそろ帰るよ。おまえと話せて少し安心した。海暖のこと、よろしく頼む」

「金も貰ってる大事な仕事だ。責任は果たすさ、任せろ」

「気を付けろよ? 危ない仕事としか思えないからな」

「大丈夫だよ。そうだな……次の機会にでも錆止女の説明でもしてやろうか? それで私の家がとんでもねえものってこともわかるしな。そういうわけで、じゃあな、一誠」

「ああ、気を付けて」


 一誠から先に教室を出て行く。


 別れた後、一誠は少し海暖の部活の部室を覗いたが、予想通り情報は得られず、心配されるだけだ。特に有力な情報は得られなかった。


 無力感と焦燥感を感じながら、一誠は帰宅した。




   ■   ■




 玲奈との会話を終えて学校から帰宅して、一誠はいつもの習慣をこなしていく。


 栄養を考えて間食を取り、軽い自重トレーニングを行ない、夕食を済ませ、ゲームの前に宿題や予習を適当に終わらせる。いつもの日常であった。しかしその日の行動にはどこか落ち着きがなかった。


 それは異変が起こることを直感で予知していたからだろうか。


 勉強をしている時、部屋の窓に水球がぶつけられる。ドン! という想像よりも重みのある音に一誠は驚いて立ち上がった。


「な、なんだ……?」


 恐る恐るといった足取りで近づき窓にかかっているカーテンを開ける。一軒家の二階の一室が一誠の自室である。そのため見下ろす形で周囲を確認していく。そこは、夜中であるため、ポツポツとある街灯がわずかに道路を照らしている真っ暗な景色だった。


 その暗闇の中をざっと見渡している時である。家からそれほど遠くない場所に女の子がこちらを見ていた。背格好はよくわかるし、服装は私服で見覚えのある物だ。そして髪型も。顔の表情は薄暗さもあってわからない。


 しかし一誠は、その見知った女の子が自分に微笑んでいるものと認識した。


「み、海暖!?」


 慌てて行こうとするも、思いとどまってスマホで玲奈にメッセージで連絡する。返事を待つことはできない。海暖が見つかったからだ。家の懐中電灯を手に取ってすぐだま外に出た。


 そうして家から見えた場所に到着するがそこに海暖はいない。慌てて周囲を見渡す。すると少し離れた場所に笑みを浮かべた海暖がいた。建物の影に隠れるように一誠の様子を窺っていると、また微笑みを浮かべて、隠れるように移動を始めてしまった。


 そこからはまるで小馬鹿にされるような鬼ごっこだった。海暖は走っているように見えないのに一誠は追いつけない。運動不足の運動音痴なのに明らかにおかしい怪現象であった。それが霊能関係に巻き込まれている証左になり、一誠の不安は増す。


 住宅街から田んぼの畦道に到着する。そのまま海暖がコンクリートでできた畦道を通っていき、一誠が後を追う。最後は水森山公園の石階段の前だ。


 そうして一誠との距離が縮まったのを確認すると、海暖がまた移動速度を速めて水森山公園の階段を上って公演の中へ入っていく。


 一誠は会談の前で軽く息を切らして休憩した。一誠の体力がないわけではない。海暖の歩行速度や持続力がおかしいのである。


「ハァ、ハァ……冗談じゃないぞ、クソが」


 一誠は悪態をついてからまた登り始める。


「俺達はただの一般人だぞ……そっちの世界だけで暴れておけよ」


 強くなっていく嫌な予感を振り払いながら、彼は階段を上っていく。おかしなことに公園を上れば上るほど何かしらの光源に近づいているようで、懐中電灯の光の必要性が消えていった。


 そうして登り切った目の前にはありえない光景が出現していた。人の形を模した水の塊のようなものが複数体、不規則な足取りで公園を徘徊しているからである。幸いにも一斉に向かってくる様子はないが、近づこうなどとはとても思わないほど不気味であった。


「異界ってやつか……終わってるな、これは」


 引き攣った笑みを漏らしながら、懐中電灯を消し、息を潜める。幸いなことに公園の中は薄暗いと思わせて来るのに、人の形をした水の化け物はもちろん公園の散歩道も視認することが簡単であった。化け物を刺激しなくて済みそうなことには安堵する。


 ようやく落ち着いたところで注意深く見渡す。海暖はあっさりと見つかった。見ることができるぎりぎりの場所からこちらを覗いている。一誠と目を合わせると微笑み、手を振りながら奥へと姿を消した。


 追いかけようとするが、一歩踏み出して止まる。

 スマホで玲奈に連絡しようとするが圏外を示される。もちろん、普段の公園は余裕で電波の通る場所である。


「……男は度胸なんて古臭いが、今だけは見習うとしようか」


 一誠が勇気を出して歩き出す。慎重に進んで行くが、特に先へ進んだ。水の化け物は一誠を襲う動きを見せない。『アー……』『――ウー……っ』などのように妙なうめきを漏らしているだけだった。


 奥に着いたところで一誠は一度、立ち止まる。


 この間の訪れで発見した神社に続く道。そこがより整っている気がした。いかにも参拝道という雰囲気があるのだ。人工物で作られてるわけではないので豪華さはないが、植物の自然な形でそうなっているのが恐怖心を煽った。不敬なことをすれば近くのつるが伸びて、それで絞め殺されても不思議には思わない。


 覚悟を決めて先へ進んでいく。

 耳を引っ張るような静寂さを感じながら、水守神社へ到着する。


「海暖!」


 巨大な池の前に辿り着くと、そこにはとても大きな水球が宙に浮遊していた。

 そしてその目の前に、水羽海暖が祈りをささげている。


「海暖! こっちへ来い!」


 一誠が駆け寄る。

 一誠を見詰めていた海暖は、距離が縮まると笑みを浮かべながら水球の中へ飛び込んでいった。


 一誠はあまりのことに思考が停止する。もちろん、水球に飛び込んだはずの海暖は外には出てこない。それどころか数メートルの大きさを誇る水球の中に海暖の姿はない。明らかに無色透明であるにもかかわらずだ。


 一考してから、一誠は水球の中へ突入する。


「バカやろう! 入るんじゃない一誠!」


 玲奈の制止する声が届いた。

 一誠はわかっていたが、無視した。


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