3.兵士見習いの覚醒
数日が経ち、足の怪我が歩けるようになる程まで回復するとトリシアに連れられ俺はミルディア王国兵団の訓練場にきていた。
立ち込める汗の臭いと、木剣がぶつかり合う乾いた音。そこはいかにもな装いをした筋肉隆々の屈強そうな兵士達がいた。
俺とトリシアが一緒に訓練場に入ってくると兵士達は一斉にこちらに目を向けた。
怖…こんないかつい人達に囲まれたことなんて中坊のときにタカキと夜中に補導されておまわりさんに囲まれた時以来なもんだから緊張する…。おまわりさんはこんなに品定めするような目ではなかったが…。
「副団長さんよ。こんなヒョロヒョロのガキを兵士見習いにするなんて本気なんっ…ですか?」
「そうよ。あら、アレク。何か異論でも?」
トリシアにそう断言されたアレクと呼ばれている男は頭をボリボリとかきながら
「いやいや、異論あるだろ…ありますよ。保護して治療してやった所まではわかりますケド、兵団にいれるのは、足手まといが増えるだけじゃないですか。」
「そうかもしれないわね。だけれど今のミルディア王国周辺は異形獣が大量発生していて全ての異形獣を今いるミルディア王国兵団では捌ききれていない、その原因も解明できていないわ。」
「だから1人でも多くの兵士が必要っていいたいんですよね。でも再来週には兵団の大規模募集の選抜もあるんですよ?しかも遠征部隊だって…きっと帰ってくる!!なのにそいつだけ先に入れる意味がわからない。」
こちらをギラリと睨みつけるようにみたアレクはそうトリシアに苦言を申した。
こんなことになるなら入るんじゃなかったと少し後悔した。そんな俺を励ますようにトリシアが首を小さく振った。
「そうね。だから彼は王国兵団"見習い"として私たちと一緒にトレーニングして再来週の大規模募集の選抜に参加させるわ。それなら文句はないでしょう?」
少し不満そうな顔をしたアレクは「はいはいわかりましたよ。」と投げやりに答えた。
アレク以外にも俺に不満があるものが半数ほどいるみたいだ。それはそうだよな…。
そんなことを考えて憂鬱になっている俺を横目にトリシアは訓練用の野球ボール程の大きさのゴムまりを構えた。
「早速だけどアレクがどのくらい動けるのかだけ確認したくて。このゴムまりを投げるから避けるか、この棒で叩き落としてみて。」
そういうと彼女は軽い木の棒を俺に差し出した。
彼女は「それじゃあ試しに投げるね。」そういうとヒュンッという音を立てゴムまりが俺の耳の横を掠めた。速い。高校野球のエース級の投手なんかよりずっと。
その後、彼女が手本を見せてくれた。自分で投げたゴムまりに走って追いつき木の棒でスウィングした。
いやどういうことだよ!?あれをやれって??そんな風に驚いている俺にトリシア「はい次は貴方よ。」といいゴムまりを投げてきた。
一発目 頬をかすめて後ろへ飛んでいく。
二発目 反応すらできずに上腹部に直撃。
三発目 少し遅れて空振り。
周囲から嘲笑が聞こえる。
「やっぱり素人かよ。副団長は何を過大評価してんだ?」「俺らでもとれるか厳しいあのボールをあのガキがとれるわけないだろう。」「いやあれぐらいとれて当然だろ?」
ざわざわしやがって。
俺はそれどころじゃないんだ!!
いってぇぇぇぇ…一球目で上腹部に当たった時の胃の奥をつかれたような衝撃でうまく動けない…。
ていうかそもそもあれを打てるのか??どうしたら打てる…考えろ!!考えろ考えろ考えろ。そうだ…地脈の意思が言っていた言葉が蘇る。
『貴方の秘脈は――共鳴』
その瞬間、俺の視界が変わった。
トリシアが次のまりを構える。彼女の肩の筋肉の収縮、重心の移動、そして瞳の動き。
それらが全て俺に伝わってきた…気がした。
来る。
彼女が投げる直前、ゴムまりの軌道が線のように目に見えた。
四発目。
俺は無意識に首をわずか数センチ横に傾けた。できた。できたぞ!!なんでかわからないが…その瞬間トリシアの露草色の目が見開かれた。
その目は期待に満ちた爛々とした眼差しであった。
「ソウセイはやっぱり何か光るものをを持っているわ。次が最後。全力で行くね。」
そういうとトリシアは今まで投げたゴムまりを部下から受け取りそれを四つ連続で本気で投げてきやがった。
マズいマズいマズい!?さっきのはまぐれみたいなものだ集中しろ集中しろ集中…ってもうトリシアのゴムまりは投げられてるはずなのになんでこんなにゆっくりに感じるんだ?…違うたまが速いんじゃない俺の思考が速くなってる!!これも共鳴の力?
なぜか周囲の音が遠のき、思考が澄んでいた。ただ四つのゴムまりを回避することに集中した。
一球目は間に合わず右腕を掠めた、が二球目以降俺は分かっていたかのように最小限の動きで回避した。
最後の四球目では手本として見たトリシアの動きをトレースしたかのようにおもいっきりスウィングした。
その時まるであの時のトリシアと『共鳴』したように感じた。
すると訓練場が、水を打ったように静まり返った。
「ソウセイ!!やっぱりあなたは…!!」
トリシアがそう言ってこちらに駆けよってきた。その時、脳を刺すような痛みが襲い俺は前のめりにうずくまった。
熱い、頭が…脳ミソが飛び出そうだ。
「…ソウセイ??どうしたの?」
これが共鳴の代償か?俺のもつ共鳴の力は『制約があるかわりに強大な力を持つ秘脈』というやつなのだろうか。ここまでして力を使う必要はあっただろうか、けれど俺を嘲笑にしていた兵士たちの顔は、今や驚愕に染まっている。それだけでこの力を使った意味はあるのかもしれない。
「……わからない。ただ、あんたが投げる場所が、それの打ち返し方が、分かったんだ」
俺はぜえぜえと乱れた呼吸を整えながら、自分の手を見つめた。
これが共鳴。これが俺の力か。そう噛み締めている俺を遠くでみていたアレクが呟いた。
「……おい、見たか。最後の一球を返す動き、ありゃ副団長の動きそのものじゃなかったか?」




