表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/45

最終話 ただいま、私の『陽だまり亭』

 王都からの帰り道。

 豪華な馬車に揺られながら、私は窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めていた。

 雪のない、穏やかな南の風景。

 けれど、私の心は不思議と、あの極寒の北の地を求めていた。


「……本当に良かったのか、エリーナ」


 隣に座るクラウス様が、私の手を握りながら静かに尋ねた。彼の視線の先には、馬車の隅に置かれた「国王陛下からの贈り物」の箱がある。


 国王は、アレクセイを廃嫡した後、私たちに頭を下げた。「北の聖女」として、私に王都に残ってほしい、と。  

 王家に伝わる高価な宝石や領地まで提示して。


 だが、私はそのすべてを丁重にお断りした。


「もちろんです」


 私は彼の手を握り返し、ニッコリと笑った。


「私の居場所は、王都の宮殿じゃありません。美味しいご飯を『美味しい』と言って食べてくれる人たちがいる、あの寒い街ですから」


「……そうか」


 彼は嬉しそうに目を細め、私の手をそっと引き寄せた。


 ***


 数日後。

 馬車がノースガルドの城門をくぐった瞬間、私たちは度肝を抜かれた。


「「「「おかえりなさーーい!! 閣下! エリーナ様!!」」」」


 街の大通りが人で埋め尽くされていたのだ。

 騎士団員、海賊たち、商人、そして街の住人たちが総出で私たちの帰りを待ち構えていた。


「うおおお! 俺たちの姐御が帰ってきたぞ!」


「聖女様、王都の掃除お疲れ様でした!」


「辺境伯妃様、万歳!!」


 紙吹雪が舞い、クラッカーが鳴る。

 ガイル副団長が騎士たちの肩車の上で涙を流し、海賊のドレイク船長が「姐御のメシが食えるぞ!」と雄叫びを上げていた。


 クラウス様が呆れた顔で私に囁く。


「……セバスチャンめ、帰還日をバラしたな。……だが、悪くない」


 彼は馬車の窓を開けると、民衆に向かって手を振り、そして――私の肩を抱き寄せ、高らかに宣言した。


「聞け! エリーナは俺の妻であり、北の女主人でもある!」


「「「ヒュ~~ッ!! ごちそうさまです!!」」」


 街中からの盛大な祝福に、私は顔から火が出そうになりながらも、幸せで胸がいっぱいだった。


 私はもう「役立たずの偽聖女」じゃない。


 この温かい北の国の一員なのだ。


 ***


 城での歓迎パーティの誘いを断り、私はクラウス様と一緒に、ある場所へ向かっていた。


 路地裏にある見慣れた私の店。


 『食堂 陽だまり亭』。


 カチャリ、と鍵を開けて中に入る。


 数週間留守にした店内は、少し埃っぽいけれど、私の大切な「城」だ。


「……ただいま」


 私は王都で着ていた豪華なドレスを脱ぎ捨て、クローゼットの奥から引っ張り出した、いつもの服に着替えた。

 髪も、きつく結い上げた夜会巻きから、いつものポニーテールに。


「ふぅ……。やっぱり、これが一番落ち着きますね」


 私がカウンターを磨き、厨房の魔道コンロに火を入れていると背後でドアベルが鳴った。


カラン、コロン。


「いらっしゃいませ……あ、クラウス様」


 そこには辺境伯の正装から、いつものラフな私服に着替えたクラウス様が立っていた。

 彼はまっすぐカウンターの「特等席」に座ると満足そうに息をついた。


「……腹が減った」


 その一言は、どんな愛の言葉よりも、私たちが日常に戻ってきたことを実感させてくれた。


 私は最高の笑顔で答える。


「はい、喜んで! 今日のオススメは、南の大陸から届いたばかりのスパイスを使った、特製カレーですよ!」

これにて完結となります。

ここまでありがとうございました。他にも異世界恋愛含めファンタジー作品も数多く投稿しておりますので、応援していただけると嬉しいです。


★の評価よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
経済封鎖を主導した宰相へのザマァは、なし、ですか? 残念。 店で暴れただけの二人より、領民を飢えさせようとした宰相のほうが、為政者としては罪深い気がします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ