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第41話 最高のドレス

 北の経済的勝利が確定してから一ヶ月。


 王都の情勢は劇的に変わっていた。

 北からの「法外な値段」の食材は、王都の貴族たちにとって、今や富と権力の象徴となっていた。


「聞いた? あそこのお茶会、ヴィンターヴァルト印のタルトが出たそうよ」


「まあ! うちはまだ缶詰一つ手に入らないのに……」


 かつて私を嘲笑した貴族たちは、今や北の食材を手に入れるためなら王家の制裁すら恐れずデニング伯爵に群がっている。

 王太子アレクセイと聖女ミリアの名を口にする者は、もう誰もいなかった。


 そんな中、ヴィンターヴァルト城に王家からの正式な「招待状」が届いた。


「……『建国記念パーティー』だと?」


 クラウス様が金の縁取りが施された羊皮紙を冷ややかに読み上げた。


「国王陛下が、俺と『北の聖女殿』を正式に賓客として招待したい、と。……ふん、往生際が悪い」


 これは王家からの「降伏勧告」だ。

 経済的に敗北した彼らが、最後のプライドをかけて「お前たちの力を認めてやるから、表向きは王家に協力しろ」と擦り寄ってきたのだ。


「『北の聖女殿』、か。随分な手のひら返しですね」 


 私は淹れたてのコーヒーをクラウス様に差し出しながら苦笑した。


「エリーナ、どうする? 断ってもいい。俺はもう王都に何の義理もない」


「いいえ、クラウス様」


 私は首を振った。


「行きます。……行かなくちゃ」


 私は『陽だまり亭』のカウンターを拭く手を止め、まっすぐ彼を見つめた。


「私を『偽聖女』と罵り、この国から追い出した人たちに、最後の『お掃除』の報告をしに行かないといけませんから」


 私の瞳に闘志が宿るのを見て、クラウス様は満足そうに口の端を上げた。


「……そうこなくてはな。俺の女神は」


 彼はセバスチャンを呼んだ。


「セバスチャン! エリーナを、この世の誰よりも美しく飾り立てろ! 王都の連中が、太陽と見間違えてひれ伏すほどの、最高のドレスと宝石を用意しろ!」


「かしこまりました! メイド総員、出動!」



 ***



 それから三日間、私は城のメイドたちによって「着せ替え人形」状態になった。


「エリーナ様の髪は夜空の色、瞳は温かな大地の色! ならばドレスはこれしかありません!」


「北の至宝『氷河の涙(ダイヤモンド)』を惜しみなく使います!」


 そして、王都へ出発する日。

 鏡の前に立った私は息を呑んだ。

 そこにいたのは、食堂の店主ではない。

 深いネイビーブルーのベルベット生地に、無数のダイヤモンドが星空のように縫い付けられたドレス。髪には雪の結晶を模したティアラが輝き、化粧も完璧だ。


「……本当に、私ですか?」


「ああ。息を呑むほど美しい」


 背後から正装の騎士服に身を包んだクラウス様が現れ、私の手をエスコートするように取った。

 彼は私の手の甲にキスを落とす。


「さあ、行こうか、エリーナ。俺たちの『勝利』を見せつけに」


 私は『食堂 陽だまり亭』の扉に「臨時休業」の札をかけた。


 一人寂しく追放された道とは違う。


 今、私の隣には最強の恋人が後ろには最強の騎士団が控えている。

 私たちが乗る豪華な馬車は、王都の王城へ、堂々と凱旋の道を進み始めた。

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