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第32話 呪われた港、巨大な「ダシ」の影

「……ここが、港ですか?」


 私が馬車を降りて絶句するのも無理はなかった。


 ノースガルドの街の外れにあるという港は、「港」というよりも「巨大なゴミ溜め」だったからだ。石造りの立派な波止場はあったようだが、半分は崩れて海に沈んでいる。

 かつては倉庫だったであろう建物は、壁が崩落し、カラスの巣窟と化していた。

 そして何より――海がおかしい。


「……うわっ」


 海面は油とヘドロが混ざったような粘度の高い液体で覆われ、ドス黒く濁っている。

 魚の死骸や正体不明のゴミがプカプカと浮かび、祭壇で嗅いだ瘴気とはまた違う「海の腐敗臭」が鼻を突いた。

 これでは船が寄港しないどころか、生物が住める環境ではない。


「……面目ない」


 クラウス様が苦々しい顔でその光景を見下ろした。


「陸の魔獣討伐と封印の管理に手一杯で、海の瘴気対策まで手が回っていなかった。これが北の現実だ」


「いえ、閣下のせいではございません」


 セバスチャンが静かに首を振った。


「この港が死んだのは、三十年ほど前。海の魔物『ヘドロークラーケン』がこの湾に住み着いたからでございます。奴が吐き出す瘴気と汚泥が、この海を腐らせたのです」


「クラーケン……イカの魔物ですか」


「ええ。奴がいる限り、船は通れず、海は浄化されません。討伐隊も何度か送られましたが、あの汚泥に引きずり込まれ、生きて戻った者はおりませんでした」


 なんと厄介な。まさに「海のフタ」だ。


 私たちがそんな話をしていると――。


ザバァァァァッ……!


 突然、目の前のヘドロの海が盛り上がり、巨大な触手が姿を現した。

 真っ黒な、タコの足のような触手。それはビルほどの太さがあり、表面からは瘴気をブクブクと噴き出している。


『……オオオ……』


 地響きのような唸り声が響き、護衛の騎士たちが一斉に剣を抜いた。


「出たか!総員、エリーナ様を守れ!」


「全員、エリーナ様を守れ!」


「クラウス様、あれは危険です! 瘴気に触れれば呪われますぞ!」


 騎士たちが私を庇うように陣形を組む。クラウス様も剣を抜き、氷のオーラを立ち昇らせた。


 広場の腐泥竜よりも、遥かに格上の大物だ。


 ――だが、私は。


「…………」


 私は騎士たちの盾の隙間から、その巨大な触手を食い入るように見つめていた。


(大きい……。すごく、大きいわ)


 クラウス様が私を振り返った。


「エリーナ、ここは危ない。すぐに城へ――」


「待ってください、クラウス様」


 私はゴクリと喉を鳴らした。

 恐怖ではない。期待だ。


「あれ、すごく良い『ダシ』が出そうです……!」


「……は?」


 全員の動きがピタリと止まった。


「だって、クラーケンですよ!? イカやタコの王様ですよ!? 瘴気を綺麗に洗い流したら、どれだけプリプリで美味しい食材になるか……!」


 私の頭の中では、すでにイカ飯、タコ飯、アヒージョ、ペペロンチーノのフルコースが完成していた。


「あんなに海を汚して、不衛生極まりない! 港も魔物もまとめてピカピカにお掃除して、美味しい『海鮮缶詰』にして差し上げます!」


 私は護衛の輪から飛び出すと、ヘドロの海に向かって仁王立ちになった。


「エリーナ!? 何を!?」


「見当たらなかった! お掃除の時間です!」


 私は両手を海に向かって突き出した。

 相手は湾全体だ。中途半端な魔法では埒が明かない。


「【湾岸まるごと高圧洗浄オーシャン・ジェットウォッシュ】!!!」


 海に向かって山を揺るがすほどの超巨大な「浄化の水流」が放たれた。

 狙うは、あの巨大なクラーケンだ!

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