第30話 爆誕! ヴィンターヴァルト印の高級缶詰
「いいですか、皆さん! 流れ作業で行きますよ!」
ヴィンターヴァルト城の一角に、急遽「特産品開発工房」が設立された。
厨房というよりは、さながら工場のようだ。
ガストン料理長率いる料理人チーム、騎士団の非番の兵士たち、そして手先の器用なメイドさんたちが総出で集められている。
「まずは、運び込まれた魔獣肉を私に回してください!」
「「「はいっ、エリーナ様!」」」
騎士たちが運び込むのは、狩ってきたばかりのロック・リザードやスノー・ボアの山。
私はその肉の山に手をかざし、次々と魔法を放っていく。
「【連続瘴気分解】! 【軟化】!」
シュゴォォォッ!
凄まじい勢いで肉から黒い瘴気が浄化され、硬い筋繊維がほぐれていく。
つい数分前まで「厄介な魔獣の死骸」だったものが、瞬く間に「極上の熟成肉」へと姿を変える光景に新米の兵士たちは目を白黒させている。
「次! ガストンさん、そっちはカットと味付けを!」
「おうよ! 野郎ども、エリーナ様に教わった秘伝のスパイスを揉み込むぞ!」
料理人たちが浄化された肉を手際よく切り分け、特製のタレに漬け込んでいく。
ジュウウウッと肉を焼く香ばしい音が工房に響き渡り、それだけで全員の喉がゴクリと鳴った。
「次、メイドチーム! 焼き上がったお肉を、缶に詰めてください!」
「はい、お任せください!」
メイドさんたちが一口大にカットされた熱々の肉をブリキ缶に隙間なく詰めていく。
そこへ、私が魔法で精製した「黄金オイル(魔獣の脂から不純物を完全除去したもの)」をトクトクと注ぎ込む。
「仕上げは私です! 【完全密封】&【加熱殺菌】!」
私が缶詰の一つ一つに指先を向けると、フタが物理的な圧着なしに「キュッ」と音を立てて完全密封されていく。同時に内部が高温殺菌され、無菌状態が完成する。
最後にセバスチャンが控える検品所へ。
彼はモノクル越しに鋭い視線で缶をチェックし、メイドが貼っていく氷狼のラベルにズレがないかを確認している。
「素晴らしい……完璧な流れです」
セバスチャンが感嘆の息を漏らす。
たった半日で、数千個の「魔獣肉の高級缶詰」が山のように積み上がっていったのだ。
「……信じられん」
様子を見に来たクラウス様が、その光景を見て絶句していた。
「エリーナ。お前は……軍隊の兵站まで変えてしまうつもりか。これがあれば、騎士団の遠征がどれだけ楽になるか……」
「ふふん。これは軍用じゃありません。『商品』です」
私は出来立ての缶詰(検品用)を一つ開け、フォークで刺してクラウス様の口元へ運んだ。
「はい、あーん」
「ん……っ」
彼は一瞬ためらったが食欲には勝てず、素直に口を開けた。
噛み締めた瞬間、彼の瞳が見開かれる。
「……美味い。なんだこれは。昨日食べたものより、味が馴染んで深くなっている……!」
「オイルに漬け込むことで、旨味が全体に行き渡ったんです。これ、パンに乗せてもお酒のつまみにも最高ですよ」
あまりの美味しさに、クラウス様は無言で二切れ、三切れとフォークを進める。その様子を見ていた騎士たちの我慢も限界に達した。
「「「か、閣下! 我々も試食を!」」」
「やらん。これは俺のだ」
「ケチくさいこと言わずに! うおお、こっちの猪肉もうめぇ!」
工房は一転、試食という名の宴会場と化した。
この日、北の地に新たな産業が誕生した。
だが、その前に片付けるべき問題があった。
「さて、缶詰はできましたけど……クラウス様。これを『どうやって売るか』が問題ですね」
王都との交易路は、閉ざされたままなのだから。
私はクラウス様と顔を見合わせ、ニヤリと笑った。




