第28話 氷の大地を耕せ! 爆速・魔法農園計画
「ここを、農地にします」
私が指差したのは、ヴィンターヴァルト城の裏手に広がる一面の雪原だった。
カチコチに凍った地面。吹きすさぶ暴風。
どう見ても、作物が育つ環境ではない。
「……本気か、エリーナ」
ついてきたクラウス様が心配そうに私を見た。
後ろに控えるセバスチャンや料理長ガストン、騎士たちも「さすがに無理では……」という顔をしている。
「北の大地は、土まで凍りついています。鍬を入れたら刃が欠けるほど硬いのです」
セバスチャンがもっともな指摘をする。
普通ならそうだ。でも、私には「家事」の延長線上にある最強のスキルたちがある。
「見ていてください。……まずは、環境設定から!」
私は雪原の中心に立ち、両手を広げた。
「【広域・空調管理】! 設定温度、二十五度! 湿度六十パーセント!」
ブォォンッ……!
低い駆動音とともに、私の周囲半径五百メートルに見えないドームが展開された。
次の瞬間。
「なっ……!?」
騎士たちが驚愕の声を上げた。
ドームの内側の雪が一瞬で溶け、ポカポカとした春のような陽気が満ちたのだ。
外は猛吹雪なのに、ここだけ無風で暖かい。
「あ、暑いくらいだぞ!?」
「コートがいらん! なんだこの空間は!」
「ふふん、これぞ温室結界です。次は土作り!」
雪が溶けて現れたのは、痩せた荒れ地だ。これでは野菜は育たない。
私はマジックバッグから、城の厨房で集めてもらった「生ゴミ」や、狩りで出た「魔物の骨や皮」の山を取り出した。
「うげっ、ゴミ……?」
誰かが顔をしかめたが、これこそが宝の山なのだ。
「【高速発酵】! 【土壌改良】!」
シュワワワワッ!
生ゴミの山が光に包まれ、みるみるうちに分解されていく。
さらにカチコチだった地面がボコボコと掘り返され、分解された肥料と混ざり合う。
数秒後。
そこには、ふかふかで黒々とした、栄養満点の「最高級の土」が広がっていた。
「す、すごい……」
「一瞬で、荒野が豊かな畑に……」
ガストン料理長が土を手に取って震えている。
さらに私はダメ押しをする。
「種まきも一気にやっちゃいます! 【整列播種】!」
パラパラパラッ!
用意していた寒冷地に強い「カブ」や「小麦」の種が、まるで軍隊のように等間隔で土に潜り込んでいく。
最後に、たっぷりのお水を撒けば――。
「よし、第一農園の完成です!」
私はパンパンと手を払った。
所要時間、わずか十分。
東京ドーム一個分くらいの広大な農地が何もない雪原に出現したのだ。
「……エリーナ」
クラウス様が呆然とした顔で私に歩み寄ってきた。そして、ふかふかの土の上に膝をつき、その温もりを確かめるように撫でた。
「お前は……聖女どころか、豊穣の女神そのものだな」
「大袈裟ですよ。ガーデニングの規模をちょっと大きくしただけです」
「いや、これは国家事業レベルだ。……これなら、いける。王都からの供給がなくても、俺たちは生きていける!」
彼の瞳に希望の光が灯る。
騎士たちも歓声を上げた。
「うおおお! これなら飢え死にしねぇぞ!」
「エリーナ様万歳! 農耕万歳!」
こうして北の食料自給率を爆上げする「魔法農園」が爆誕した。
だが、私の計画はこれだけではない。
王都を見返すためには、ただ「食べる」だけじゃ足りない。
「皆さん、喜びすぎです。これはまだ『材料』を作っただけですよ?」
私はニヤリと笑った。
「目指すは、王都の貴族たちが涎を垂らして欲しがるような、『北だけの特産品』の開発です!」
反撃の狼煙は上がったばかりだ。




