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第24話 極寒の優雅なピクニック

 翌朝。

 ヴィンターヴァルト城のエントランスは、物々しい雰囲気に包まれていた。

 ズラリと並んだ屈強な騎士たち。彼らはクラウス様の護衛として選抜された精鋭部隊だ。


 そして、その中心にいる私はというと――。


「うぅ……モコモコしすぎて動きにくいです」


 私は雪だるまのような格好になっていた。

 最高級の白狐の毛皮を使ったコートに、お揃いの帽子、手袋、マフラー。城のメイドさんたちが「エリーナ様は華奢だから凍えてしまいます!」と張り切って着せ付けてくれたのだ。


 そこへ身支度を整えたクラウス様が現れた。

 彼は私を見るなり、ピタリと足を止め、口元を手で覆った。


「……っ」


「クラウス様? 変ですか?」


「……いや。雪の精霊か、あるいは白ウサギかと思った。……可愛すぎる」


 後半はボソリと呟かれたけれど、私の耳にはしっかり届いた。


 白ウサギって。


 でも、彼の瞳が優しく細められているのを見て、私は「まあいいか」と頬を緩めた。


「では、出発する!」


 クラウス様の号令で一行は北の山脈へ向けて出発した。


 ***


 道中は想像以上に過酷だった。

 街を抜けるとすぐに猛吹雪。視界は真っ白で、気温は氷点下を遥かに下回る。

 普通の人間なら一時間と持たずに凍傷になるレベルだ。


「エリーナ、大丈夫か? 寒くないか?」


 隣を馬で並走するクラウス様が、何度も気遣わしげに声をかけてくれる。


「平気ですよ。これがありますから」


 私はコートの襟元を指差した。


「【体温調整(サーモ・コントロール)】と【防風結界(ウィンド・ガード)】を常時展開してます。コートの中はポカポカの春陽気です」


「……さすがだな。俺たちの防寒具が原始的に思えてくる」


 彼は苦笑した。

 やがて昼時になり、一行は風除けのある岩場で休憩を取ることになった。


「食事休憩だ! 手早く済ませろ!」


 騎士たちが荷物からガチガチに凍った携帯食を取り出し、雪を溶かした水で戻そうとしている。


 過酷だ。あまりにも過酷すぎる。


 美味しいものを愛する私としては、これを見過ごすわけにはいかない。


「クラウス様、皆様。お食事なら私が用意しますよ」


 私は馬から降りると、何もない雪の上に【即席敷物(インスタント・シート)】を展開し、マジックバッグを開いた。


「はい、どうぞ! 『あったかクラムチャウダー』と『焼きたてフォカッチャ』です!」


ドォォン!


 雪景色の中に、湯気を立てる大鍋と、香ばしいパンの山が出現した。

 あたり一面にミルクと貝の濃厚な香りが漂う。


「なっ……!?」


 騎士たちが目を剥いた。


「あ、熱々だぞ!?」


「どこから出したんですか、その鍋!?」


「い、いただきますッ!!」


 極寒の地で食べる熱々のクリームスープ。

 冷え切った体に温かいスープが染み渡っていく。具材は北の海で獲れた大粒のホタテとアサリ、そして甘いジャガイモ。


「……信じられん」


 クラウス様もスープを啜りながら深いため息をついた。


「ここは死の山脈だぞ? 遭難覚悟の行軍中に、こんな優雅なランチができるとは……」


「食事は元気の源ですからね。あ、食後のホットコーヒーもありますよ」


「……お前がいれば、戦場の概念が変わるな」


 彼は呆れつつも、フォカッチャをスープに浸し、幸せそうに頬張った。

 騎士たちの士気も爆上がりだ。


「エリーナ様万歳!」

「一生ついていきます!」


 という声が吹雪に混じって聞こえてくる。


 こうして私たちは、本来なら命がけの雪山登山を、まるで遠足のようなテンションで踏破していった。――けれど、目的地である「封印の祭壇」に近づくにつれ、空気は確実に重く、淀んだものへと変わっていった。


「……近いな」


 クラウス様が表情を引き締め、剣の柄に手をかけた。

 吹雪の向こうに、ドス黒い瘴気を纏った古代の遺跡が姿を現したのだ。

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