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第16話 聖女のド派手なショー、忍び寄る影

「さあさあ、見てらっしゃーい! これが本物の『聖女』の力よぉ!」


 ミリアの声が広場に響き渡ると同時に、彼女が掲げた杖から強烈な閃光が放たれた。


カッッッ!!


 直視できないほどの眩い光が広場を包み込む。

 光の粒子がキラキラと舞い降り、まるで雪のように人々の肩に降り注ぐ。演出としては満点だ。

 屋台に並んでいた客たちも、思わず手を止めてステージの方を見上げた。


「おお……なんだあれは」


「すげぇ、光の雨だ……」


「これが王都の聖女様か。ありがてぇなぁ」


 純朴なノースガルドの人々は、素直にその光景に感嘆の声を上げた。

 ステージの上で、ミリアが得意げにふんぞり返り、アレクセイ様が満足そうに頷いているのが見える。


「ふふん、見た? エリーナ。あんたの地味な揚げ物なんかより、私のキラキラの方がみんな好きなのよ」


 ミリアの視線が、遠くから私を射抜いてあざ笑っているように感じた。


 確かに、派手さでは勝ち目がない。


 でも――。


(……なんか、変じゃない?)


 私は胸のざわつきを抑えきれずにいた。

 光は美しいけれど、どこか刺々しいというか、肌がチリチリするような不快感がある。


 私の【生活魔法】は、日々の暮らしを整える魔法だ。だからこそ、この場の空気が「自然な状態」から無理やり歪められているような違和感を感じ取っていた。


 ふと隣を見ると、クラウス様の表情が険しくなっていた。

 彼は腕組みを解き、無意識のうちに腰の剣に手を添えている。


「……クラウス様?」


「……変だ。魔力の質がおかしい」


 彼は低い声で呟いた。そのアイスブルーの瞳は、ステージ上のミリアではなく、その足元の地面を凝視している。


「あれは『祈り』や『祝福』じゃない。魔力を無理やり大地にねじ込んでいるだけだ。……まるで、地面の下にいる『何か』を叩き起こそうとしているかのような」


「えっ……?」


 その時だった。

 ミリアがさらに調子に乗って、声を張り上げた。


「まだまだ行くよぉ! この北の痩せた土地に、私の力で春のお花畑を作ってあげる! 感謝しなさいよねっ!」


 彼女は杖を両手で握りしめると、その先端を思い切りステージの床――つまり地面に向けて突き立てた。


「【強制開花(フォース・ブルーム)】!!」


ドォォォンッ!!


 杖の先から、赤黒いオーラが混じった光の奔流が地面へと叩きつけられた。

 それは植物を育てる優しい光ではなく、土を焼き、根を無理やり引きずり出すような暴力的な魔力だった。


ズズズズズッ……!


 広場の石畳が波打った。

 人々の歓声が悲鳴に変わる。


「うわっ、揺れてる!?」


「地震か!?」


 石畳の隙間から確かに植物が生えてきた。

 だが、それは美しい花ではなかった。

 ドス黒いいばらのような蔦が蛇のようにのたうち回りながら次々と噴き出してきたのだ。


「きゃあぁぁぁっ!!」


「な、なんだこれは!?」


 茨は制御を失い、周囲の観客や屋台を無差別に薙ぎ払い始めた。ステージ上のミリアも予想外の事態に顔を引きつらせている。


「えっ、うそ!? なんで可愛いお花にならないのよぉ! 止まりなさいよ!」


 彼女が杖を振るっても、茨は止まるどころか、その魔力を吸ってさらに巨大化していく。


 そして。


ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


 地鳴りとともに、広場の中央――かつて「古の魔獣」が封印されたと伝えられる場所が大きくひび割れた。

 亀裂の奥から腐った土のような鼻をつく悪臭が噴き出してくる。


「……まずい」


 クラウス様が私の前に飛び出し、私を背に庇った。

 抜刀の音が鋭く響く。


「エリーナ、下がっていろ。……最悪のものが目を覚ましたようだ」


 亀裂の中から、巨大な泥の腕のようなものが這い出してくるのが見えた。

 聖女の暴走した魔力が決して起こしてはいけない「土地の厄災」の封印を解いてしまったのだ。


 お祭り騒ぎは一転、阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わろうとしていた。

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