第8話 あたしの武器は炎上上等!?チーム・エマリア反撃開始!
「あなたの“本当の武器”が何か、そしてそれをどう使えば、あの完璧令嬢ソフィア・ヴァレンティアの牙城を崩せるか、考えてきなさい」
リヒト様からの無理難題な宿題に、あたしは自室のベッドでうんうん頭を抱えていた。ポンコツマギフォンを片手に、自分の過去のSNS投稿を遡る。表のキラキラアカウント、そして裏の毒舌アカウント……。
(おしとやか令嬢としての品格……は、もう地に落ちてるわよね。炎上クイーンとしての悪名……は、武器っていうより最終兵器(自爆用)じゃないの?)
ふと、炎上した時のコメントが目に留まった。
『エマリア様、正直すぎて笑う』
『お嬢様のくせに、こんなこと言うなんてスッキリする!』
『完璧じゃないから応援したくなるんだよなー』
……これって、もしかして。
あたしの武器って、「完璧じゃないところ」?「お嬢様なのに本音でぶっちゃけるギャップ」?そして、「炎上を恐れない(というか、もう慣れっこになっちゃった)心臓」!?
(そうよ!あたしはあたしらしく、炎上すれすれの本音で、あのキラキラ完璧令嬢ソフィアに立ち向かえばいいんだわ!)
ポンコツマギフォンだって、使い方次第!心の解像度は、常に最高設定なんだから!
早速、ミロが用意してくれた秘密のオンラインチャットルーム(セキュリティは王宮の機密文書レベルらしいわ。さすがミロ!)で、裏アカで集まってくれた仲間たちと作戦会議よ!
メンバーは、絵が得意な下級貴族の令嬢クララさん、動画編集が趣味の商人見習いマルコくん、そして、なぜか詩の才能を無駄遣いしている吟遊詩人志望のレオナルドさん。……なんだか、すごい凸凹チームじゃない?
あたし:「というわけで、SNS規制法案がいかに理不尽で、私たちの楽しみを奪う悪法なのかを、面白おかしく伝える漫画風解説動画シリーズを作りたいの!シナリオの原案は、このポンコツマギフォンで送るわね!」
(ポンコツすぎて、画像一枚送るのに5分もかかるんだけど!)
クララさん:『面白そう!私、キャラクターデザイン得意です!エマリア様を可愛いSDキャラにしちゃいましょう!』
マルコくん:『動画なら任せて!BGMとか効果音も、フリー素材漁ってなんとかします!』
レオナルドさん:『ならば我が美声で、ナレーションを吹き込もう!“おお、悲劇なるかなSNS規制法案、若人のささやかなる喜びを奪い去りし…”』
あたし:「レオナルドさん、そのポエム調はちょっと……もっとこう、テンポよくコミカルにお願いします!」
そんなこんなで始まった「チーム・エマリア(仮)」の動画制作。
ポンコツマGISフォンでのデータ共有は遅々として進まないし、オンライン会議はしょっちゅう音声が途切れるし、トラブル続出!でも、みんなで知恵を出し合って、一つのものを作り上げていくのは、なんだか文化祭の準備みたいで、すっごく楽しかった!
そして数日後、ついに第一弾の動画が完成!
タイトルは『【3分でわかる】SNS規制法案のヤバい罠!~お団子から餡子だけ抜くのと同じくらい許せない!~』
我ながら、素晴らしいタイトルじゃない?(自画自賛)
動画は、手作り感満載だけど、クララさんの可愛いイラストと、マルコくんの絶妙な編集、そして(意外とノリノリだった)レオナルドさんの軽快なナレーションが光ってる。
『#マリィ様の叫び届け』『#ポンコツだってやればできる』『#SNSは文化だ』『#お団子の餡子は残して』
たくさんのハッシュタグと共に、あたしの裏アカから発信!
すると……!
「分かりやすい!」「これ見て初めて法案のヤバさ知った!」「お団子の例え、秀逸すぎw」「ヴィルト侯爵、考え直して!」
動画は、じわじわと、でも確実に拡散されていった。
特に、若い世代の貴族や、平民の商人、学生たちの間で「面白い!」「これなら親にも見せられる!」と大反響!ポンコツマギフォンから生まれた小さな光が、大きなうねりになりつつあるのを感じた。
「やったわ……!みんな、ありがとう!」
あたしは、画面の向こうの仲間たちに、心から感謝した。
でも、もちろんソフィア様がこの動きを見逃すはずもなかった。
彼女のアカウントには、こんな投稿が。
『最近、SNS上で根拠のない情報や、感情的な意見を軽々しく発信する方が見受けられます。法案の是非は、冷静な議論と、国を思う心をもって判断すべきです。わたくしは、秩序と品位あるSNSの未来を信じておりますわ。#憂国の令嬢 #冷静な判断を #品位あるSNS』
……これ、絶対にあたしのことディスってるわよね!?しかも、コメント欄には「さすがソフィア様、常に冷静で的確なご意見」「感情論で騒ぐどこかの誰かとは大違い」なんて、ソフィア様親衛隊からのヨイショがずらり。キーッ、悔しい!
お父様はといえば、屋敷の侍女マリアから「お嬢様、また何か“おかしな動画”をSNSに投稿されているとか……」と報告を受けたらしく、書斎からそれはもう重々しいオーラが漂ってきていた。でも、不思議と以前のような雷は落ちてこない。もしかして、少しはあたしたちの声が届いている……わけないか。
そんな中、リヒト様から呼び出しがあった。
いつもの資料室で、あたしたちの漫画動画を見たリヒト様は、ふむ、と一つ頷いた。
「ポンコツマギフォンと寄せ集めのチームで、よくぞここまで。あなたの“武器”……その片鱗は確かに見えましたよ。人々の共感を呼び、行動を促す力。それは、炎上すれすれの“本音”から生まれる熱量でしょうな」
褒められた!?あたし、リヒト様に褒められたわ!
「だが」リヒト様の目が、スッと細められる。「これだけでは、法案を覆すにはまだ力が足りない。ソフィア嬢の築き上げた“完璧な聖女”のイメージは強固だ。あなたのその武器は、彼女の“正論”の前では、まだただの危うい火遊びにしか見えないかもしれない」
うっ……確かに。
「彼女の土俵に上がり、それでもなお輝きを放つ何か……。エマリア嬢、例えば……あの完璧令嬢と、あなたが“同じステージ”に立つとしたら、どうしますかな?」
「ソフィア様と……同じステージに……?」
それって、つまり……直接対決ってこと!?
リヒト様の意味深な言葉の真意を測りかねていると、ミロから緊急連絡が入った。
『マリィ様、大変だ!SNS規制法案の貴族院での最終審議が、予定より早まって明後日になった!もう時間がねぇ!』
なんですって!?あと2日しかないの!?
どうしよう、どうすればいいの!?あたしの本当の武器って、一体……!?
その時、ミロがさらに不穏な一言を付け加えた。
「なあ、マリィ様。こうなったら、ソフィア嬢の“完璧じゃないところ”……つまり、スキャンダルでも探し出して、暴露してみるか?」
え……?ソフィア様の、スキャンダル……?
あたしは、ゴクリと唾を飲み込んだ。
それは、あたしが一番得意とする(かもしれない)炎上戦術。でも……。
物語は、いよいよ最終局面へ!
エマリアは、自分の信じるやり方で、この絶体絶命のピンチを乗り越えることができるのか!?
そして、ソフィアとの直接対決の行方は……!?
次回、刮目して待て!……って、あたしが言うことじゃないわね!