第7話 炎上軍師(見習い)爆誕!?リヒト様の秘密レッスン
「後で少し、お話するお時間はありますかな?」
あのパーティーでの、知的でちょっと意地悪そうなリヒト様の微笑み。それが、あたしのポンコツマギフォンの待ち受け画面にしたいくらい、今の希望の光なの!
ミロ経由で(ミロって一体何者なのよ、情報局の人と簡単に連絡取れるなんて)、リヒト様と会う約束を取り付けた。場所は、王宮の西棟にある、普段は誰も近寄らない古い資料室。なんだかスパイみたいで、ドキドキしちゃうじゃないの!
約束の時間、変装(前回よりはマシなはず!)して資料室に忍び込むと、リヒト様は山と積まれた羊皮紙の巻物の中で、優雅に紅茶を飲んでいた。まるで、古の賢者様みたい……って、年はあたしとそんなに変わらないはずだけど。
「やあ、エマリア嬢。よく来られた。その変装……ふむ、前回よりはだいぶマシになったようだね。だが、その香水の香りはヴィルト侯爵家御用達のものだ。詰めが甘い」
「うぐっ……!」
いきなり先制パンチ!?この人、エスパーなの!?
リヒト様は、あたしにも紅茶をすすめながら(資料室なのにティーセット完備ってどういうこと?)、単刀直入に切り込んできた。
「あなたのパーティーでのパフォーマンス、実に興味深かった。あれは……そうだな、計算され尽くした炎上マーケティング、とでも言っておこうか。……もちろん、嘘だがね。完全なる天然素材、無計画の極みだったろう?」
「うっさいですわね!天然で何が悪いのよ!?」
思わずいつもの調子で言い返しちゃったけど、リヒト様は涼しい顔。
「悪いとは言っていない。むしろ、その予測不能な行動力と、良くも悪くも人の注目を集める才能は、あなたの武器になり得る。だが、今のままではただの“お騒がせ令嬢”で終わるだけだ。炎上は諸刃の剣。コントロールできなければ、自分自身を焼き尽くすことになる」
彼の言葉は、的確で、そして少しだけ厳しかった。
「ですが、あなたには確かに“人の心を動かす何か”がある。それをどう磨き、どう使うか……。まずは、情報戦略と危機管理広報の基礎から、手ほどきして差し上げようか?侯爵令嬢」
リヒト様は、悪戯っぽく微笑んだ。
最初は「なによ、この偉そうな人!」って反発してたあたしも、彼の的確な分析と、時折見せる鋭い洞察力に、次第に引き込まれていった。これが……炎上軍師のオーラってやつ!?(まだ見習いだけど!)
リヒト様の“秘密レッスン”は、目からウロコが落ちることばかりだった。
SNSでの効果的なメッセージの発信方法、デマ情報への対処法、ターゲット層に響く言葉の選び方……。あたしが今まで感覚だけでやってきたことを、リヒト様は理論でバッサリ解説してくれる。
「あなたの強みは、その“素直さ”と“行動力”。そして、良くも悪くも“お嬢様”であるということ。そのブランドをどう活かすか、だ」
「わ、わたくしのブランド……」
「そう。人々は、完璧なお嬢様の“意外な一面”に興味をそそられる。だが、それは計算された“ギャップ”でなくてはならない。今のあなたは、ただの“暴走機関車”だ」
ぐ、ぐうの音も出ない……。
リヒト様のレッスンを終え、頭の中が情報でパンクしそうになりながら、あたしはミロとの秘密の合流場所、いつもの古井戸広場へ向かった。
「よぉ、マリィ様。なんだか雰囲気変わったな。リヒトの旦那に、なんか変な魔法でもかけられたか?」
ミロはニヤニヤしながら、分厚い資料の束をあたしに手渡した。
「お待ちかねの情報だぜ。SNS規制法案の詳しい条文、賛成派と反対派の議員リスト、それから……保守派のジジイどもが隠してる、ちょっとした“秘密の趣味”リストもな」
最後の一言、声ちっさ!でも、内容は聞き捨てならないんですけど!?
リヒト様のアドバイスと、ミロの集めた情報を照らし合わせると、少しずつ進むべき道が見えてきた気がする。
「ミロ、この法案の、一番の問題点を分かりやすく伝える方法はないかしら?ポンコツマギフォンでもできて、たくさんの人に届くような……」
「ふむ……それなら、最近流行りの“漫画風解説動画”なんてどうだ?マリィ様がシナリオ考えて、絵が得意なヤツに描いてもらって、短い動画にして流すんだ。文字ばっかりより、ずっと食いつきがいいぜ」
「それよ!」
早速、裏アカで『【緊急募集】SNSの自由を守るため、マリィに力を貸してくれる絵師様&動画師様!ポンコツマギフォンでも心は錦!』って投稿してみた。
すると、驚いたことに、何人ものフォロワーが「私、描けます!」「動画編集なら任せて!」「マリィ様のためなら!」って名乗り出てくれたの!
う、嬉しい……!あたし、一人じゃなかったんだ!
ポンコツマギフォンを握りしめ、あたしは決意を新たにした。
リヒト様に言われた「あなたの本当の武器」。それはまだ分からないけど、仲間となら、きっと見つけられるはず!
でも、あたしたちの小さな抵抗を、お父様が見逃すはずもなかった。
屋敷のメイドの目が、前よりも厳しく光っている気がする。あたしの部屋への出入りも、なんだかチェックされてるみたい……。
「お嬢様、またマギフォンなどお使いではございませんでしょうね?」なんて、笑顔で釘を刺してくる侍女のマリア。怖いわ!
そして、SNSの世界では、ソフィア・ヴァレンティア様が、さらにその輝きを増していた。
『チャリティーコンサート、無事に終了いたしました。皆様の温かいお心遣いに感謝いたします。音楽の力で、少しでも多くの方を笑顔にできますように。#愛を奏でる #ソフィア基金』
完璧な笑顔、完璧なコメント、完璧なハッシュタグ。その投稿には、王宮関係者や有力貴族からの賞賛コメントがズラリと並んでいる。まるで、あたしの活動をあざ笑うかのように……。
リヒト様から、新たな“宿題”が出された。
「次のレッスンまでに、あなたの“本当の武器”が何か、そしてそれをどう使えば、あの完璧令嬢ソフィア・ヴァレンティアの牙城を崩せるか、考えてきなさい。時間は……あまり残されていないぞ」
あたしの本当の武器……。
それは、炎上クイーンとしての知名度?それとも、お嬢様としての品格(まだ残ってるかしら?)?
うーん、難しい!でも、ここでへこたれてるわけにはいかないんだから!
SNS規制法案の審議開始まで、あと数日。
あたしたちのゲリラ作戦は、果たして間に合うの!?
そして、完璧令嬢ソフィア様との“いいね!”を巡る戦いの行方は!?
エマリア・フォン・ヴィルト、炎上軍師(見習い)として、いよいよ本領発揮……できるのかしら!?