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第5話 ポンコツマギフォンはバズらない!?(涙)

「炎上クイーンの名にかけて、ですって……?」

 ミロの軽口を反芻しながら、あたしは自室のベッドの上で、うーんと唸っていた。

 バズるネタ、バズるネタ……。今のあたしに必要なのは、お父様のSNS規制法案を吹っ飛ばすくらいの、超ド級のバズ!


(こうなったら、おしとやか令嬢のイメージなんてかなぐり捨てて……衝撃の暴露系!?『ヴィルト侯爵家・執事の秘密の趣味をバラします!』とか?いやいや、それはただの営業妨害だし、執事のセバスチャンに泣かれちゃうわ)


 とりあえず、手始めに「没収されたメインマギフォンへの想い」をポエムにして投稿してみようかしら。

『ああ、我が愛しのマギフォンよ。君の滑らかなタッチ、鮮やかな液晶、そしてサクサク動く魔法回路……今、君はどこで何をしているの?』

 うん、なかなか詩的じゃない?これに、物悲しいBGMと、セピア色のフィルターをかければ……。


 って、無理だから!このポンコツ旧型マギフォンじゃ!

 カメラを起動すれば、画質はザラザラで、まるで印象派の絵画みたい。文字入力は一文字ずつカチカチしなきゃいけないし、魔法エフェクトなんて、申し訳程度の「星キラキラ(小)」しかないんだから!


「キーーーッ!なんであたしがこんな骨董品で戦わなきゃいけないのよぉ!」

 思わず枕に顔をうずめて叫ぶ。


 ピコンッ。

 ミロからだ。マギフォンが古すぎて、通知音もなんだか間の抜けた音なのよね……。

『ソフィア嬢、また新作投稿したぜ。チェックしといた方がいいかもな』


 げっ。またあの完璧令嬢……。

 おそるおそるソフィア・ヴァレンティアのアカウントを開くと、そこには最新の魔法技術を駆使したであろう、息をのむほど美しい動画がアップされていた。


『今日は、我が家の薔薇園でハープを奏でてみましたの。小鳥たちも素敵な歌声で参加してくれましたわ♪ #ソフィアの調べ #薔薇とハープと小鳥と私 #心に安らぎを』


 ふんわりとしたパステルカラーのドレスをまとったソフィア様(あえて様付けよ!)が、優雅にハープを演奏している。その周りには、CGじゃなくて本物!?ってくらい可愛い小鳥たちが集まってきて、まるでディズニー映画のワンシーン。コメント欄は「女神降臨!」「心が浄化されました」「エマリア様も見習ってほしい」……って、最後の一言余計よっ!


 あたしは自分のマギフォンのしょぼい画面と、ソフィア様のキラキラ動画を見比べて、深ーいため息をついた。

(無理ゲーじゃない、これ……?)


 でも、ここで諦めるあたしじゃないわ!

「こうなったら、ギャップよ、ギャップ!おしとやか令嬢だって、やるときはやるんですのよ!」

 あたし、実は昔、護身術の一環で剣術をちょっとだけ習ってたのよね。埃をかぶってた練習用の木剣を引っ張り出して、庭の隅で一人、剣の型を披露!これを動画に撮って……。


『令嬢だって戦う!ヴィルト流剣術奥義(の触りだけ)! #ギャップ萌え狙い #舞踏会だけが戦場じゃないのよ #ただし画質は魔法で補ってご覧ください』


 投稿完了!……って、自分で見返しても、カクカクした動きと、荒い画像で、何やってるか全然わかんなーい!これじゃただの「庭で棒振り回してる変な令嬢」よ!


 なのに、裏アカのフォロワーたちは意外と優しい。

『マリィ様www何やってんすかwww面白すぎwww』

『そのブレブレ動画、一周回ってアートの域では?』

『画質悪いけど、気合は伝わったぜ!』

 中には『ソフィア嬢のキラキラより、こっちの方が人間味あって好き』なんて言ってくれる神様みたいな人も!


 ……でも、やっぱりバズるには程遠い。お父様の法案を止めるには、こんな小さな花火じゃダメなのよ!


 そんな中、ミロからの連絡は、ますますあたしの心を重くした。

『侯爵閣下のSNS規制法案、いよいよ明日、貴族院の予備審議会に提出されるらしいぜ。保守派のジジイども、大張り切りみたいだ。このままだと、王都のSNS、マジで終わるかもな……』


 ガーン……。

 ついに来た。運命の日。


 王都のSNS上でも、この法案に対する不安の声が、じわじわと広がり始めていた。

『#SNSの自由を奪わないで』

『#ヴィルト侯爵の暴走を止めろ』

『#私たちの呟く権利』

 小さな声だけど、確実に、何かが動き出そうとしている。でも、それが大きなうねりになる前に、法案が通っちゃったら……。


「あたしのせいで……みんなのマギフォンから、SNSが消えちゃうんだ……」

 責任の重さに、押しつぶされそうになる。メインのマギフォンがない無力感。ソフィア様への嫉妬。お父様への怒り。いろんな感情がごちゃ混ぜになって、涙がこぼれそうになった。


 その時だった。


 ピロリン♪(やっぱり間の抜けた通知音)

 リリアン王女殿下から、こっそりメッセージが届いた。王女様なのに、こういう時だけは、ちゃんと裏ルートで連絡してくるんだから、油断ならないわ。


『エマリアお姉様、元気ないって聞いたわ。大丈夫?……実はね、近々、王宮で「若手貴族親睦パーティー」っていう、ちょっとした催しがあるの。表向きは堅苦しいけど、裏では結構みんなハジけるらしいわよ?そこで……何か面白いこと、企んでみない?お兄様も、最近ちょっと元気ないみたいだし……お姉様の“アレ”なら、きっと笑顔になると思うのよね!』


 “アレ”って何よ、アレって!

 でも、リリのメッセージは、まるで暗闇に差し込む一筋の……いや、これは本物の希望の光かもしれない!

 王宮のパーティー?そこで何かできるかも……?


 あたしは、ポンコツマギフォンをギュッと握りしめた。

「まだよ……まだ、終わってないんだから!」


 一方、ヴァレンティア公爵家の薔薇園では、ソフィアが優雅にティーカップを傾けていた。

「ふふ……エマリア様も、そろそろ限界かしら?お父様の法案が通れば、SNSは健全化され、わたくしのような“真のインフルエンサー”だけが、民を導くことになるのよ」

 その美しい微笑みの裏に隠された、冷たい野心に気づく者は、まだ誰もいなかった――。


 さあ、エマリア!リリアン王女の誘いは、起死回生のチャンスとなるのか?

 それとも、さらなる炎上への招待状なのか!?

 ポンコツマギフォン片手に、あたしの戦いは、まだ始まったばかりよ!

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