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第4話 ライバル出現!?ポンコツマギフォンで宣戦布告(のつもり)

『マリィ様、ご愁傷様ですぜ。でも、侯爵閣下がSNS規制法案ねぇ……そいつはちょっと面白くなりそうだ。何かお困りなら、このミロが一肌脱ぎますぜ?裏道なら、いくらでも知ってますから』


 ミロからのDM。それは、まるで暗闇に差し込んだ一筋の……いや、ちょっと胡散臭い光?

 でも、今のあたしには、藁にもすがりたい気分なの!


 あたしは旧型マギフォンの小さなキーパッドを必死にタップした。

『ミ、ミロ様……!(様付けで呼ぶべきよね!?)ぜひ、お力をお借りしたいですわ!でも、どうすれば……わたくし、マギフォンもメイン機は没収されてしまいましたの……しくしく』

 絵文字もスタンプもほとんど使えないこのポンコツマギフォンじゃ、あたしの悲壮感がイマイチ伝わらないじゃないの!キーッ!


 すぐにミロから返信が来た。仕事早すぎじゃない?

『おっと、そりゃ大変だ。じゃあ、手っ取り早く会って話します?明日の昼休み、王宮裏の古井戸広場なんてどうです?サボり魔の衛兵くらいしか寄り付かない、ナイスな穴場なんで、人払いは任せてください』


 王宮裏の古井戸広場……。なんだか、ドラマの密会シーンみたいで、ちょっとドキドキする。

 でも、今のあたしに選択肢はない!


『承知いたしましたわ!必ず伺います!』

 送信ボタンを、祈るような気持ちでポチッ。ああ、メイン機なら一瞬なのに、この子ったら「送信中…」の表示が長いんだから!


 翌朝の食卓は、昨日よりもさらに空気が重かった。お父様は、あたしの顔も見ずに「SNS規制法案の骨子は固まった。明日には法務院に提出し、王家にも上奏する」と、まるで死刑宣告みたいに言い放った。ひぃぃ、本気だ、この人本気だよ!


(ど、どうしよう……ミロ様との作戦会議、成功させなきゃ!)


 気合いを入れ直し、昼過ぎ。あたしはクローゼットから一番地味なドレス(それでも刺繍とかついちゃってるけど)を選び、つば広の帽子を目深にかぶり、怪しさ満点の大きなサングラスを装着。完璧な変装よ!……たぶん。


 王宮裏の古井戸広場は、噂通り、本当に誰もいなかった。古びた井戸と、苔むした石畳。ちょっと薄暗くて、秘密の話をするにはもってこい……って、本当に良かったのかしら、こんな場所で。

 キョロキョロしていると、井戸の縁に腰かけていた影が、ひらりとこちらに手を振った。


「よぉ、マリィ様。時間ぴったりじゃん」


 軽いノリで現れたのは、茶色い髪を無造作にハネさせた、作業着っぽいのを着崩した青年。年の頃は、あたしより少し上くらい?口元には、いたずらっ子みたいな笑みが浮かんでいる。彼が、ミロ。


「あなたがミロ様……ですの?」

「様なんていらないって。ミロでいいよ。それより、その変装、逆に目立ってるぜ?」

 うっ……やっぱり?


 ミロはニヤニヤしながら、あたしの裏アカのアイコンと、あたしの顔を交互に見て、「うん、確かに面影あるわ。まさかヴィルト侯爵家のお嬢様が、あんな毒舌裏アカの主だったとはねぇ。世の中面白いよな」なんて失礼なことを言う。


「それで、お父様の法案のことなんだけど……」

「ああ、それね。調べといたよ」ミロは自分のマギフォンをスワイプして、いくつかの資料をあたしに見せた。「侯爵閣下、かなり本気だね。保守派の重鎮議員たちも数人、もう抱き込んでる。法案が提出されたら、結構ヤバいかも」


「そ、そんな……」

「ま、でも、まだ手はあるぜ」ミロは自信ありげに言った。「まずは、世論をこっちに引き込むこと。SNS規制がいかに時代遅れで、貴族も平民も、若者の自由な表現を奪う悪法かってイメージを植え付けるんだよ。……それと、ちょっと気になるアカウントがあってさ」


 ミロが画面を切り替えると、そこに表示されたのは、目も覚めるような美しい令嬢のプロフィール写真だった。プラチナブロンドの髪、涼しげな紫色の瞳。背景には、おそらく彼女の家のものと思われる、見事な薔薇園が広がっている。


 ソフィア・ヴァレンティア


『今日の午後は、孤児院への慰問演奏会。小さな天使たちの笑顔に、心が洗われましたわ。#淑女の嗜み #ヴァレンティア家の輝き #愛と奉仕』


 投稿されているのは、ハープを奏でる優雅な姿、慈善活動の報告、美しい詩の一節、手作りのハーブクッキーの写真……。どれもこれも、完璧に「清く、正しく、美しい」。

 そして、ハッシュタグにはご丁寧に『#エマリア様とは違う路線の魅力』なんてものまで紛れ込んでいる。喧嘩売ってんの!?


「な、な、なんですの、この……この、絵に描いたような優等生ぶりは!わざとらしいにも程がありますわ!」

 あたしは思わず叫んでいた。


 ミロは肩をすくめる。「エマリア様――いや、マリィ様が炎上してる間に、このソフィア嬢、うまいことフォロワー稼いでるんだよ。一部じゃ『炎上令嬢の後釜』とか、『クリーンなSNSの女神』なんて呼ばれて、人気急上昇中。父親のヴァレンティア公爵も、侯爵閣下のSNS規制法案には、表向き賛同してるみたいだけど……娘のこの活躍ぶりを見ると、内心どう思ってるかねぇ?」


 ソフィア・ヴァレンティア……!

 あたしの中で、何かがメラメラと燃え上がった。それは、屈辱?焦り?それとも、単純な対抗心?


「ミロ、わたくし、決めましたわ」

「お?」

「お父様の法案も、あのいかにもな優等生令嬢も、まとめてぎゃふんと言わせてやりますの!」

 あたしは、古びたポンコツマギフォンをギュッと握りしめた。通信速度は遅いけど、あたしの情熱は最新型よ!


 ミロは面白そうに口笛を吹いた。

「いいねぇ、その意気だぜ、マリィ様!ま、とりあえず、侯爵閣下の法案阻止に向けて、こっちはこっちで情報操作と、若手貴族たちへの“お願い”でもしとくよ。マリィ様は、何かドカンと“バズる”ネタ、考えといてくれよな。炎上クイーンの名にかけて、さ!」

 ニヤリと笑うミロ。なんだか、頼りになるのか、ただ面白がってるだけなのか……。


 でも、やるしかない。

 あたしは深呼吸して、決意を新たにした。

 メインのマギフォンがないのは痛いけど、このポンコツちゃんだって、まだ戦えるはず!


 その頃、ヴァレンティア家の壮麗な屋敷では。

 ソフィア・ヴァレンティアが、窓辺で優雅にハープを爪弾いていた。その指先から紡ぎ出されるのは、うっとりするほど美しい旋律。彼女の傍らには最新型のマギフォンが置かれ、画面にはフォロワーからの賞賛のコメントが絶え間なく流れていた。


「ふふ……エマリア様も、お可哀想に。SNSは、もっと計画的に、そして“美しく”使わなくてはなりませんのにね」


 その紫色の瞳の奥に、どんな野望が隠されているのか。

 エマリアの知らないところで、新たな戦いの火蓋は、静かに切って落とされようとしていた――。

 波乱しかない!この先、どうなっちゃうのよ、あたし!?

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