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第27話 黒蝶の夜会と、仮面の下の真実

「『選ばれし者よ、今宵、真なる“月光”の元へ――黒蝶の夜会にご招待します』……ですって。どう考えても、罠ですわよね、これ」

「ああ。だが、行くしかない。彼らが何を企んでいるのか、その目で確かめなくては」


 作戦司令室(という名の私の執務室)は、かつてないほどの緊張感に包まれていた。

 目の前には、上質な紙に、銀色の蝶の紋様が刻まれた、不気味なほど美しい招待状。


 リヒト様が、厳しい表情で作戦の最終確認を行う。

「夜会の会場は、かつてアルバート公爵が所有していた郊外の別邸だ。現在は所有者不明となっているが、闇ギルドがアジトとして利用している可能性が高い。君たち二人だけで乗り込ませるのは、私の本意ではないが……」

「大丈夫ですわ、リヒト様」私は、王太子殿下と顔を見合わせて、力強く頷いた。「私たちなら、きっと」

「そうだ。それに、私たちには、最強の仲間がついているからね」

 王太子殿下の言葉に、マギフォンからミロの陽気な声が響く。

『任せとけって!会場の監視カメラは全部俺様のアイズになるし、あんたらのピンチには、空から天使エンジェルでも降らせてやるぜ!』

 ソフィア様も、オンライン通話の画面の向こうで、毅然と言い放った。

「わたくしも、貴族社会の情報網を駆使し、夜会の参加者リストと、その背後関係を徹底的に洗い出します。くれぐれも無茶はなさらないで。あなたのそのお調子者なところが、長所でもあり、最大の欠点なのですからね、エマリア様」

 ……それ、褒めてるのかしら?でも、親友の心遣いが、胸に温かく沁みた。


 リヒト様は、小さなブローチとカフスボタンを、私たちに手渡した。

「護身用の小型防御結界装置と、緊急脱出用の転移魔法が一度だけ使える。……いいか、これは命令だ。必ず、生きて帰ってこい」

 その言葉は、上官としての命令以上に、個人的な祈りのように聞こえて、私の心臓が、またきゅっと音を立てた。


 その夜。

 私と王太子殿下は、顔を隠すための精巧な仮面をつけ、夜会の会場である古城のような別邸に潜入した。私は漆黒のドレス、殿下は深紅のベスト。まるで、悲劇の恋人同士みたいじゃない?

 会場は、仮面をつけた若い貴族や富裕層の子弟たちで溢れかえっていた。豪華絢爛な装飾、流れるような美しい音楽。でも、そのすべてが、どこか虚ろで、カルト的な熱気を帯びている。彼らは皆、孤独や不安を埋めるために、この場所に集まっているのかもしれない。


 しばらく招待客に紛れて情報収集していると、やがて会場の照明が落ち、スポットライトがステージを照らし出した。

 そして、現れたのは、ひときわ豪華な黒蝶の仮面をつけた、カリスマ的なオーラを放つ一人の男。サークルの主宰者だ。


「ようこそ、選ばれし“黒蝶の騎士団”の諸君!」

 主宰者の声が、ホールに響き渡る。

「この国は、偽りの平和と、古い伝統に縛られている!我々は、SNSという新たな力で、真実の革命を起こすのだ!我々が開発した『ウィッシュフル・ドロップ』は、そのための第一歩に過ぎない!」

 やっぱり、あのアプリもこいつらの仕業だったんだわ!

「我々は、SNSを通じて若者たちの意識を解放し、この国を内側から変える!もはや、血筋や家柄が支配する時代は終わりだ!」


 その演説を、私はブローチに仕込んだ超小型カメラで、全世界に向けてライブ配信していた。『#王都おしゃれ仮面舞踏会(サプライズゲスト登場!?)』という、カモフラージュタイトルで!

 コメント欄は「何これ?」「革命?」「やばい配信が始まった!」と騒然となっている。


 そして、演説が最高潮に達した時、主宰者が仮面を外した。

 その顔を見て、私は息をのんだ。

「まさか……!」

 そこにいたのは、先の臨時議会でダリウス卿と共に失脚したはずの、彼の腹心だった若手貴族、セドリック子爵!


「そして、我々の革命の象徴として、素晴らしいゲストをお呼びした!」

 セドリックが手を挙げると、屈強な男たちが、私と王太子殿下を取り囲んだ!まずい、正体がバレてる!

「ここにいるのは、旧体制の象徴、偽りの王子ハインリヒ!そして、SNSを悪用し、我々の同志アルバート公爵を陥れた、元凶の炎上令嬢エマリア・フォン・ヴィルトだ!」


 会場の出口は固く閉ざされ、私たちは完全に包囲されてしまった。

 セドリックは、狂信的な笑みを浮かべて宣言する。

「今宵、この場で、お前たちを公開処刑し、その様子をSNSで全世界に発信する!それこそが、我々の革命の、輝かしき幕開けとなるのだ!」


 最大のピンチ!絶体絶命の状況!

 でも、隣に立つ王太子殿下の瞳には、恐怖の色はなかった。彼は、私の手を強く握りしめてくれた。

「君を危険な目に遭わせてすまない。だが、君と一緒なら、どんな闇も怖くない」

「ええ、殿下!二人なら、きっと!」


 私は、リヒト様から渡されたブローチに、そっと指をかけた。

 王太子殿下も、お忍びの若者の仮面を脱ぎ捨て、王族だけが放つことのできる、圧倒的な威厳とオーラをその身にまとった。

「愚かな者たちよ。君たちの言う革命ごっこは、もう終わりだ」


 外では、リヒト様率いる情報局の突入部隊が、静かにその時を待っている。

 ソフィア様は、SNSで王都中の人々に、この異常なライブ配信の真実を訴えかけているはず。

 そして、ミロの指が、この古城の全てのシステムを掌握しようと、目にもとまらぬ速さで動いているに違いない。


 さあ、反撃の狼煙を上げるわよ!

 次回、ついに黒幕との直接対決!

 チーム・エマリアの総力戦で、この歪んだ夜会を、最高のバズと共に終わらせてあげるんだから!

 刮目して待ちなさい!

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