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第2話 謝罪文はキラキラ☆大炎上

「#炎上令嬢エマリア爆誕」


 その不名誉すぎるハッシュタグが、あたしのマギフォンのトレンド画面で、まるで玉座みたいに鎮座している。

 ……いや、笑えない。全然笑えないんですけど!?


 ドドドドドドドドッ!!!!


 もはや悲鳴に近い振動を繰り返し、あたしの愛機マギフォンは、その薄いボディから煙でも噴き出しそうな勢いだ。通知、通知、コメント、リプライ、ダイレクトメッセージ! 王都中の、いや、下手したら国中のマギフォンユーザーが、あたしのやらかしに食いついているのが手に取るように分かる。


「お、お姉様……これ……」


 隣で一緒に画面を覗き込んでいたリリアン王女殿下が、さすがにちょっと顔を引きつらせている。うん、可愛いリリの顔も青ざめさせるあたしの炎上パワー、恐るべし(って感心してる場合じゃない!)。


 サロンの空気は、もう完全に凍り付いてる。さっきまでお上品にお茶をすすっていた令嬢たちは、扇で口元を隠しながらも、好奇心と侮蔑が入り混じった視線をあたしに集中砲火。ヒソヒソ声が、まるで呪いの呪文みたいに聞こえてくる。


「エマリア様ったら、なんてことを……」

「王太子殿下にご迷惑を……」

「侯爵家も終わりですわね……クスクス」


 う、うるさーい!聞ーこーえーるーしー!

 心の中で叫んだけど、もちろん口に出せるわけもなく。あたしはとりあえず、この地獄絵図の元凶となった投稿を削除しようと、震える指でマギフォンを操作した。


「う……お、重い……!」


 アクセスが集中しすぎてるのか、マギフォンの反応がカクカクしてる!まるで泥沼に足を取られたみたいに、画面がなかなかスクロールしない。

 お願いだから早く消えてー!この黒歴史製造マシンめ!


 数秒が永遠のように感じられた後、ようやく投稿削除のボタンをタップできた。

「はぁ……はぁ……け、消せた……わよね?」


 息も絶え絶えに確認すると、確かにあたしの投稿は公式アカウントから消えていた。

 でも、安心したのも束の間。


 ピコンッ。

 裏アカのフォロワーから、こっそりメッセージが届いた。

『マリィ様、公式の投稿消したみたいだけど、スクショ祭り絶賛開催中っすよwww』

 添付されてたのは、あたしが投稿した写真とコメントがバッチリ保存されたスクリーンショット。それが、ものすごい勢いで拡散されてるらしい。


 がーーーーーん!!!!


 デジタルタトゥーってやつ!?あたしのやらかし、永遠にネットの海を漂うの!?

 もうダメだ、お先真っ暗……。


「お姉様、しっかり! と、とりあえず謝罪文を……!」

 リリが、あたしの肩を揺さぶる。そうだ、謝罪だ!王室と、王太子殿下と、全国民に対して謝罪しなきゃ!


 あたしはマギフォンのメモ機能を開き、必死で言葉を紡ぎ始めた。

『この度は、わたくしの不手際により、王室ならびにハインリヒ王太子殿下、そして国民の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけし、誠に申し訳ございませ……』


(うーん、固い!固すぎる!でも公式アカウントだし、これくらい丁寧にしないと……)

(いや待て、もっとこう……感情に訴えかける感じで?『軽率な行動でした、深く反省しております(涙)』みたいな?いやいや、それ裏アカのノリじゃん!)


 頭の中では、おしとやか令嬢エマリアと、毒舌裏アカ女子マリィが、激しい主導権争いを繰り広げている。

 パニックで思考回路はショート寸前。指は震えるし、冷や汗でマギフォンが滑りそう。


「よし……できた……はず!」


 なんとか当たり障りのない、しかし最大限の謝罪の気持ちを込めた(つもりの)文章を書き上げ、投稿ボタンを押そうとした、その瞬間!


 ツルッ!


「きゃあっ!」


 本当にマギフォンが手から滑り落ちそうになった!あたしは慌てて掴もうとして、画面のどこかを思いっきりタップしちゃったみたい。


 ピロリン♪


 軽快な効果音と共に、あたしの謝罪文は王室公式アカウントから全世界に向けて発信された。

 ……何か、変なフレームが付いて。


 画面に表示されたのは、こうだ。


 ✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨

【公式謝罪】

 この度は、わたくしの不手際により、王室ならびにハインリヒ王太子殿下、そして国民の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。深く反省しております。

           エマリア・フォン・ヴィルト

 ✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨✨

              ♡キラキラ反省してない♡フレーム適用中


「…………へ?」


 あたしとリリは、顔を見合わせた。

 そして、次の瞬間。


「「ぶーーーーーっっっ!!!!」」


 リリアン王女殿下が、お腹を抱えて吹き出した。いや、笑い転げてる。

「お、お姉様!な、ななな、何これーーーっ!?キラキラ反省してないって!アハハハハハ!」


 笑い事じゃない!笑い事じゃ、ないんだってばぁぁぁぁ!!!

 あたしは血の気が引くのを感じながら、恐る恐るコメント欄を開いた。


『反省の色ゼロwwww』

『これは新しい煽り芸www』

『キラキラ反省www腹筋崩壊www』

『ふざけてんのかwwwヴィルト侯爵家、終わったなwww』

『いや、むしろ一周回って潔いwww』

『#キラキラ謝罪』

『#反省とは』

『#炎上商法かよ』


 トレンドワードは、さらにカオスなことになっていた。

「#キラキラ謝罪」が、「#王太子熱愛発覚」を猛追している。何このデッドヒート!?


「も、もう……あたし……お嫁に行けない……」

 膝から崩れ落ちそうになるあたし。すると、サロンの入り口が急に騒がしくなった。


「エマリア様!エマリア様はいらっしゃいますか!」


 血相を変えた侍従長が、息を切らして駆け込んでくる。その手には、彼自身のマギフォンが握られていて、画面にはあたしの「キラキラ謝罪文」がバッチリ表示されているのが見えた。アーメン。


「と、父が……何か?」

 おそるおそる尋ねると、侍従長はあたしのマギフォンを一瞥し、深いため息をついた。

「……ヴィルト侯爵閣下が、至急お屋敷にお戻りになるよう、厳命でございます。……馬車の手配は、既に」


 その声には、諦観と、ほんの少しの同情が滲んでいる気がした。


 プルルルル……プルルルル……


 タイミングを見計らったように、あたしのマギフォンが着信を告げる。

 画面に表示された名前は。


『お父様(鬼モード)』


 ひぃっ!いつの間にこんな登録名に!?(多分、以前お小遣い減らされた腹いせに、あたしがやったんだ……)


 あたしはもう、笑うしかなかった。

 いや、むしろ、ここまで来たら、何だかスッキリしてきたかもしれない。

 だって、これ以上悪くなりようがないでしょ?多分!


 こっそり裏アカをチェックすると、『マリィ様、伝説更新おめwww』『今日のマリィ様、キレッキレすぎ!』『その調子で貴族社会ぶっ壊して!』なんて、意外とポジティブ(?)なコメントがチラホラ。


(ふふっ……面白いじゃない、この状況)


 あたしは、侍従長に向かって、できる限り優雅な(しかし内心はヤケクソな)微笑みを浮かべて言った。


「分かりましたわ。お父様がお待ちかねですものね」


 さぁ、炎上令嬢エマリアの、明日はどっちだ!?

 とりあえず、お父様との直接対決(という名の説教タイム)が、最初のボス戦ってところかしらね!

 こうなったら、とことん楽しんでやるんだから!


 ――なんて強がりを言ってみたものの、やっぱり足はガクガク震えていた。

 ああ、神様、仏様、SNSの神様!

 どうかあたしに、明日の朝日を拝むチャンスをください……!

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