第13話 庭園ライブは大混乱!?暴け、SNS詐欺の黒い影!
王宮の春の庭園は、まさに百花繚乱!色とりどりの花々が咲き誇り、甘い香りが風に乗って運ばれてくる。着飾った貴族や招待された市民たちが、優雅に散策を楽しんでいるわ。
そんな華やかな雰囲気の中、あたしとソフィア様は、特設された小さなステージの上で、コラボ配信の最終準備に追われていた。
「エマリア様、くれぐれも…くれぐれも!突飛な言動はお慎みあそばしてよ!これは公式なイベントなのですからね!」
純白のドレスに身を包んだソフィア様が、ハープの弦を調整しながら、念を押してくる。相変わらずお堅いわね!
「分かってますって!今日は『麗しの庭園ハーモニー♪春風ライブセッション ~あなたのマギフォン、狙われていませんか?SNS安全利用ミニ講座付き~』ですもの!わたくしだって、公式SNSアドバイザー(見習い)のはしくれですのよ!」
最新型マギフォンを胸に抱き、あたしはニッと笑った。そのマギフォンのイヤホンからは、会場の隅の木陰に潜んでいる(であろう)ミロからの通信が入っている。
『マリィ様、準備OKだぜ。被害者A子さん(仮名)からのタレコミ情報、いつでもブチ込めるぜ!』
(ミロ、頼りにしてるわよ!)
そして、隣のブースでは、リヒト様が涼しい顔で全体の指揮を執っている。彼の鋭い視線が、会場の隅々まで行き届いているのが分かる。
いよいよ配信スタートの時間!
あたしは深呼吸して、マギフォンのライブ配信ボタンをタップした。
「皆さーん!本日は『麗しの庭園ハーモニー♪春風ライブセッション』へようこそ!わたくし、王都公式SNSアドバイザー(見習い)のエマリア・フォン・ヴィルトと!」
「ソフィア・ヴァレンティアが、春爛漫の王宮庭園より、美しい調べと、ちょっぴりためになるSNSの安全利用についてお届けいたしますわ」
ソフィア様が優雅にお辞儀をすると、コメント欄には早くも「ソフィア様美しい!」「待ってました!」の声が溢れる。もちろん、あたしへの「炎上令嬢、今日は何やらかすの?w」みたいなコメントもチラホラあるけど、もう慣れっこよ!
最初は、ソフィア様の素晴らしいハープ演奏から。その清らかで美しい音色は、庭園の雰囲気にぴったりで、視聴者もうっとり。あたしも、思わず聞き惚れちゃった。
そして、あたしのトークパート。
「見てください、この見事な『プリンセス・エマリア』という名の薔薇!とっても綺麗ですけど、もしこれが『幸運を呼ぶ魔法の薔薇の苗、今なら特別価格!限定100個!』なんてSNS広告で売られてたら……ちょっと怪しいって思いませんか?」
と、庭園の美しい花々に巧妙に絡めて、例の偽魔法アイテム詐欺の手口を暗喩的に解説していく。ソフィア様も、「宝石も同じですわ。甘い言葉で宣伝される“奇跡のパワーストーン”には、偽物の輝きが隠されていることもございます。確かな情報源と、ご自身の判断力を大切に」と、見事なアシスト!
私たちのやり取りに、コメント欄も「確かに!」「ためになる!」「二人とも息ぴったり!」と好意的。
その時だった。
ミロからのイヤホンに、緊迫した声が飛び込んできた!
『マリィ様、ヤバい!被害者A子さんの情報と、ソフィア様の宝石商の情報を照合したら、黒幕の正体がほぼ特定できた!ヴァレンティア家とも取引のある宝石商ギルドの元幹部、マルヴォーリオって男だ!今、ヤツ、会場に来てる!しかも、配信を見て顔色変えてるぜ!』
なんですって!?黒幕がこんな近くに!?
あたしがソフィア様に目配せしようとした瞬間、配信用のメイン魔法水晶の映像が、突然砂嵐のように乱れた!会場のスピーカーからも、不快なノイズが!
「キャー!」「何事ですの!?」
会場が騒然となる。コメント欄も「どうしたの!?」「放送事故!?」とパニック状態。
「あらあら、皆様、お騒がせして申し訳ございません!どうやら、春の陽気に誘われて、ちょっぴりイタズラ好きな風の精霊さんが、私たちの配信にちょっかいを出しにきたようですわね!」
あたしは咄嗟にマイクを握りしめ、アドリブで場を繋いだ。ソフィア様も、動揺を見せずに冷静に微笑んでいる。
「どのような状況でも、わたくしたちは皆様に最高のひとときをお約束いたしますわ。少々お待ちくださいませ」
さすがソフィア様、肝が据わってる!
ミロから再び通信!『マルヴォーリオだ!あいつが小型の魔力妨害装置を使ったに違いねぇ!今、会場の出口に向かって逃げようとしてるぜ!』
もう、迷っている暇はない!
「ソフィア様!ここからは、アドリブで参りますわよ!」
「え……ちょ、エマリア様!?」
あたしは、まだ少し映像が乱れている魔法水晶カメラに向かって、満面の笑みで宣言した。
「さて皆様!本日の『麗しの庭園ハーモニー』には、実はスペシャルなゲストがいらっしゃるとの噂が……!最近、SNSで話題沸騰の『幸運を呼ぶ魔法アイテム』の、知る人ぞ知る仕掛け人との呼び声も高い……マルヴォーリオ様ではございませんこと!?」
あたしの声に、会場中の視線と、まだ生きているサブの魔法カメラが一斉に、出口へ向かおうとしていた小太りの男に向けられた。マルヴォーリオは、顔面蒼白で立ち尽くしている。
「マルヴォーリオ様!あなたのその素晴らしい『魔法アイテム』について、ぜひこの場で、わたくしたちにお話しいただけませんこと?例えば、その“奇跡の魔力”は、一体どこから……?」
あたしが畳みかけるように質問を浴びせると、ソフィア様もすかさず助け舟を出した。
「マルヴォーリオ氏と言えば、かつては宝石ギルドでその確かな鑑定眼を謳われた方。まさか、ご専門外の“魔法アイテム”で、そのお力を発揮なさっているとは……興味深いですわね?」
宝石の専門知識で、マルヴォーリオの言葉の矛盾を、ソフィア様が冷静に突いていく。
追い詰められたマルヴォーリオが、「う、うるさい!私は何も知らん!」と逆上し、何かを取り出そうとした、その瞬間!
「そこまでです、マルヴォーリオ氏」
凛とした声と共に、リヒト様が数名の衛兵を伴って現れた。
「あなたには、詐欺、及び不正競争防止法違反、並びに魔力妨害装置を使用した公務執行妨害の容疑で、詳しく事情を伺います。ご同行願えますかな?」
リヒト様の手には、ミロがリアルタイムで収集し、転送したであろう、マルヴォーリオの不正な取引記録や、被害者たちの証言をまとめたデータが表示されたマギフォンが握られていた。
こうして、SNSを悪用した偽魔法アイテム詐欺事件の黒幕逮捕の瞬間は、あたしとソフィア様のコラボ配信を通じて、王都中に生中継されるという、なんとも皮肉な結末を迎えたのだった。
まさに「美と炎上のマリアージュ」……じゃなくて!SNSの健全化に貢献できたってことよね!?
配信終了後、あたしとソフィア様は、なぜか二人で顔を見合わせて、同時にふふっと笑ってしまった。
「……エマリア様。あなたのその、予測不能な無鉄砲さ……時には、わたくしの計算をはるかに超える結果を生み出すこともあるのですね」
「ソフィア様の冷静な分析と、的確なアシストがなければ、あの黒幕を追い詰めることはできませんでしたわ!私たち、もしかしたら……最強のコンビかもしれませんわね!」
あたしたちは、どちらからともなく、そっと手を差し出し……ハイタッチ!とはいかなかったけど、貴族令嬢らしく、優雅に握手を交わしたのだった。
庭園イベントは、いろんな意味で伝説として語り継がれること間違いなし!
そして、あたしの王都公式SNSアドバイザー(見習い)としての評価は……うなぎ登り……のはずよね!?
でも、マルヴォーリオは本当に一人でやったのかしら?なんだか、まだ裏に何かありそうな予感も……。
あたしの「本当の仕事」は、まだまだ始まったばかりなのかもしれないわ!