第11話 アドバイザー(見習い)始動!最新マギフォンと新たな火種
「こちらが、エマリア・フォン・ヴィルト嬢の新しい執務室だ。私の隣だから、何かあればすぐに叫びたまえ。もっとも、君の叫び声は王宮の端まで届きそうだがね」
リヒト様の相変わらずな皮肉に、あたしは「失礼な!」と頬を膨らませつつも、目の前に用意された小さな執務室に胸を躍らせた。「王都公式SNSアドバイザー(見習い)」なんて、なんだかすごそうな肩書!お父様も、渋々ながら認めてくれたみたいだし、あたし、頑張っちゃうんだから!
そして何より……!
ジャジャーン!王太子殿下から賜った、ピッカピカの最新型マギフォン!
薄くて軽くて、魔法陣みたいなカメラレンズが3つもついてる!起動すれば、画面には見たこともないような美しい魔法エフェクトがキラキラと……!
「うっひょー!このサクサク感!この高画質!これなら炎上した時の言い訳動画も、映画みたいに撮れちゃうんじゃないかしら!?」
思わず裏アカで『#最新マギフォンやばたん #これで炎上も三倍速!? #王太子殿下マジ神』と投稿しかけて、隣の部屋から飛んできたリヒト様の冷たーい視線に、慌ててマギフォンを隠した。あぶないあぶない。
アドバイザーとして最初の大仕事は、「王宮主催・春の庭園開放イベント」のSNS広報。
でも、これまでの広報資料を見たら……『厳粛なる伝統と格式を誇る王宮庭園にて、春の息吹を感じるひとときを。貴族諸賢のご来園を心よりお待ち申し上げております』……って、お堅すぎ!これじゃ、若い子は見向きもしないわよ!
「リヒト様!このイベント、もっとこう……若者にも刺さるような、キラキラでエモい感じにしませんこと!?」
「……君の言う“キラキラでエモい”の定義が若干不安だが、新しい層へのアプローチが必要なのは確かだ。何か具体的なアイデアはあるのかね?」
そこで思い出したのが、ソフィア様とのあの約束!
あたしは早速、ヴァレンティア公爵家のお屋敷へと向かった。
「エマリア様、お待ちしておりましたわ」
相変わらず完璧なおもてなしで迎えてくれたソフィア様。でも、どこかまだギクシャクした空気が漂っているのは否めない。
「ソフィア様!例のコラボ配信の件ですけれど!春の庭園開放イベントで、わたくしとソフィア様の『#美と炎上のマリアージュ』ライブ配信なんて、いかがかしら!?」
あたしの提案に、ソフィア様は柳眉をピクリと動かした。
「……“炎上”は、断固としてお断りいたしますわ。ですが、庭園の美しさを多くの方にお伝えするという趣旨には賛同いたします。わたくしのハープ演奏と、エマリア様の……その、勢いのあるトークで、庭園の魅力を紹介する『麗しの庭園ハーモニー♪春風ライブセッション』という形でしたら、検討して差し上げてもよろしくてよ」
ツン、ときて、ほんの少しだけデレた!?ソフィア様、可愛いところあるじゃないの!
企画会議は、それはもう大変だった。
あたし:「もっとこう、視聴者からのムチャぶりにリアルタイムで応えるとか!」
ソフィア様:「品位を損なう企画は認められませんわ。あくまでも、庭園の芸術性と歴史的価値を伝えることを主眼とすべきです」
あたし:「でも、それじゃ面白みに欠けますって!ソフィア様も、たまには殻を破って、変顔とか……」
ソフィア様:「却下ですわっ!!」
二人の意見は平行線。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。お互いのSNSに対する考え方や、得意なこと、苦手なことが、少しずつ見えてきた気がする。ソフィア様も、完璧主義者ゆえの悩みとか、本当はもっと自由に表現したい気持ちがあるのかも……なんて、ちょっぴり思った。
なんとかまとまりかけた企画案をリヒト様に提出すると、彼は細い指で眼鏡のブリッジを押し上げながら、ため息を一つついた。
「……悪くはないが、まだ君の“炎上クイーン”時代の発想が色濃く残っているな。ただ話題になればいい、バズればいい、というものではない。公式アドバイザーとして、君が発信する情報には“信頼”が伴わなくては。そして、その信頼をどう“影響力”に繋げていくか……それが君の本当の課題だ」
うっ、耳が痛い……。
「ソフィア嬢とのコラボも、単なる客寄せパンダで終わらせるな。彼女の持つ“品位”と、君の武器である“共感力”をどう融合させ、双方のフォロワーにとって有益で、かつ新しい価値を生み出すものにするか。そこまで考えて、もう一度案を練り直したまえ。宿題だ」
新たな宿題に頭を抱えていると、ミロから緊急のメッセージが入った。いつもの古井戸広場に呼び出されると、彼は深刻な顔でマギフォンの画面を見せてきた。
「マリィ様、ちょっとヤバい情報だ。最近、王都の若い商人たちの間で、偽物の『開運魔法アイテム』がSNSで出回ってるらしい。しかも、巧妙なインフルエンサーのステマ投稿で、信じ込んだ人たちが次々高額で購入して、被害が広がってるって噂だぜ」
画面には、いかにも怪しげなキラキラしたブレスレットと、「これをつけたら恋が叶った!」「金運爆上がり!」みたいな、胡散臭い体験談が並んでいた。
「な、なんですって!?それって、SNSの信頼性を根底から揺るがす、とんでもない詐欺じゃないの!」
あたしの声に、隣の執務室からリヒト様がひょっこり顔を出した。
「……いいところに目を付けたな、エマリア嬢。その偽魔法アイテム事件、実は情報局でも内々に捜査を進めているところだ。だが、犯人は巧妙で、なかなか尻尾を掴めない」
リヒト様は、あたしの目を見て、ふっと口元を緩めた。
「君のその“炎上すれすれ”の嗅覚と、裏社会にも通じていそうな仲間たちの情報網……そして、公式アドバイザーとしての立場。もしかしたら、君なら、この事件解決の糸口を見つけられるかもしれんな。それこそが、君の最初の“本当の仕事”になるかもしれんぞ」
庭園イベントの広報と、ソフィア様とのコラボ配信の準備。
そして、SNSを悪用した、許せない詐欺事件の影。
アドバイザー(見習い)エマリア・フォン・ヴィルトの毎日は、炎上していた頃とはまた違う意味で、嵐のように過ぎていきそうだ。
あたしの“本当の武器”……それは、ただバズるためじゃなく、誰かを守るために、そしてSNSの未来を明るく照らすために使うものなのかもしれない。
さあ、どうする、あたし!?炎上令嬢の新たな挑戦が、今、始まる!