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第9話 青春イベント発生?その戦場はカフェ

「ねえ……シン、ちょっと——」


 放課後、帰宅しようとしていた俺の耳に、小さな声が飛び込んできた。


 声の主は露崎ユリ。


(……おっと、また俺に説教でもしにきたか?)


 正直、こいつとまともに会話するたびに何かしら怒られている印象しかない。

 課題を出し忘れたとか、授業態度がどうとか、まあ主に妄想を声に出すなだけどな……。


 だから、俺は“またか”くらいの気持ちで振り返ったんだけど——


「……ん?」


 目の前のユリは、いつもの“クールな美女”とは明らかに違っていた。


 腕を組んで偉そうに俺を睨みつけてくるわけでもなく、

「いい加減、妄想はやめなさい」と命令口調で言ってくるわけでもない。


 むしろ——話しかけてきたくせに目を合わせようとすらしない。


 顔はほんのり紅潮し、妙に落ち着きがないようにも見える。

 なんだか靴の先で床をトンと叩きながら、何かを言いたそうにしている。


(……なんだ、この違和感は)


 俺は戸惑いながらも、一応戦闘態勢を整えた。

 普段の調子なら「また俺……余計なことをしたか?」と身構えるところなのだが……今日は違う。


「……な、なんか用か?」


 恐る恐る尋ねる俺。


 すると、ユリは一度ふぅと息を吐いてから——


「今日……このあと、予定あるの?」


 ——言った。


(……は?)


 思わず俺の脳内でエラーメッセージが点滅する。

 いやいやいやいやいや、待て待て。


 (神崎シン)、だぞ?


 クラスでは“妄想ぼっち”なんて呼ばれ、“あいつには関わるな”と陰で囁かれるような俺だぞ?


 そんな俺に、あの露崎ユリが、放課後の予定を聞いてくる?


 ——バグか? 俺の放課後の予定……?


 しかも、なんか微妙に声のトーンが違うし。


(まさか……これは……青春イベント——か?)


 俺は一つの可能性に思い至る。


 そういう展開なら……この後、「じゃあ一緒に帰る?」とか、「ちょっと付き合いなさいよ!」とか、言ってくるパターンなのでは?


 いやいや、ないだろ。

 しかも俺、こういう日に限って予定があるんだが。


「え? ああ……ちょっと白石と予定があってな」


 そう答えた瞬間——


「——なっ!?」


 ユリの中から見えない何かが弾け飛んだような感情、意識の揺れみたいなものを感じた。


「え? あ、あの白石生徒会長が……あ、あんたなんかと一緒に!?」


 突然、ユリの目が大きく見開かれる。

 さっきまでの妙に落ち着きのない雰囲気はどこへやら。


「……え、えっと……まあ、放課後にちょっと話すだけだし……」


 俺がそう言うと、ユリはなぜか怒ったように顔を真っ赤にする。


「あたしと話すのが嫌なら……嘘つくなら、もっとマシな言い訳にしてよ!」


「……いやいやいや!! なんで俺が嘘ついてるみたいなことになってんの!? 本当だって!」


「ど、どうせまた妄想の世界にでも浸ってるんでしょ!? そ、そんなバカみたいなこと……っ」


 ユリは、ふるふると肩を震わせながら、何かを必死に抑えているようだった。


(……いや、これどういう状況? なんで俺、めちゃくちゃ疑われてるんだ?)


「……そっ、そっか……だったら、もう別に……いいわよ!!」


 結局、ユリは強がるように言い捨てると、そのままくるりと背を向けた。


「じゃ、じゃあ……また……」


 そそくさと早足で帰っていくユリ。


 俺はその後ろ姿を見送るしかなかった。


(……なんだったんだ、今の)


 普段はどこまでも真面目で、俺のことを“問題児”として厳しく注意してくるユリが——


 顔を赤くして、妙に落ち着きがなかった。

 俺と何を話したかったんだ? 恋愛相談……なんてことあるわけないよな。


(……まさか、俺と一緒に帰りたかったとか……?)


 俺は頭を振る。


(いやいや、さすがに都合よく考えすぎだろ……)


 それよりも、今は白石との約束だ。俺の能力について、話したいことがあるって言ってたからな。


(あの白石アキラなら……何か答えを出せるかもしれない)


 そう自分に言い聞かせながら、俺はカフェへと向かって歩き出した——


 ——だが、この小さな違和感が、後の大きな転機へと繋がることを、この時の俺はまだ知らなかった。


 白石と待ち合わせるカフェに向かう途中、俺はやたらと落ち着かない。


(同級生とカフェで待ち合わせなんて人生初だぞ……って、これはもしや友達イベント?)


 ふと、脳裏をよぎるのは、アニメやラノベで見てきた"友達系イベント"の数々。

 友人と放課後のカフェでまったり、時には熱く語らう——そう、それはリア充が歩む世界線。


(いやいや、白石は友達ってわけじゃねえし、ただのミーティング! 落ち着け俺!)


 深呼吸をしながら、カフェの扉を押し開ける。

 すると、すぐに白石アキラの姿が目に入った。


 彼は俺に気がつくと片手を軽く上げ、「おーこっちだ」と言わんばかりの微笑を浮かべて俺を見た。

 その表情には、普段のクールな知的さとは違う、どこかラフな雰囲気があった。


 ——その瞬間。


 俺の脳内で、あらゆるエラーが発生した。


(あっ……やばい……この状況……こういう場合はどんな顔すればいいんだっけ?)


 俺は咄嗟に考えをめぐらせる。

「おっす! 待たせたな」ってラフに応える? いや無理だ、そもそも友達でもない。

 っていうか今日が初めての待ち合わせだし、やっぱビジネスライクに会釈だけする?

 いや待て待て、同級生に会釈は変だろ! あーもうどうしよう。


 まずは、さりげない視線、距離感、手を上げて軽く挨拶……


(あうぁうああぁ、普通のやりとりができない……! コミュニケーションスキルが……ッ!)


 結果——


 俺はパニックになり、そのままトイレに駆け込む。



 トイレの鏡の前で、俺は両手を洗いながら、呼吸を整える。


(おい、落ち着け……どってことない、俺は妄想英雄イマジナリー・ヒーローで黒翼の使徒だろ……)


 そう、俺は漆黒の炎を操る孤高の闇の使徒。

 普通にカフェで待ち合わせしたくらいで、動揺するわけがない——


 ……のに、俺の顔はどう見てもただの挙動不審なコミュ障男子。


「くそっ……なんだこの情けない感じ……」


 手をギュッと握りしめ、再び鏡を睨む。


(俺は妄想英雄イマジナリー・ヒーロー! 黒翼の使徒! 支配者(オーバーマインド)に抗う者!……高校生の社交スキルごときにビビるな!!)


 そう呟いて"自己暗示モード"に入ろうとした、その時——


(……ん? そういやアマデル、いつの間にか姿を消してないか?)


 最後の授業までは普通にいたのに。

 現れてから付かず離れず俺を見守っていたのに……急に存在を感じられない。


(まあ……どうせまた出てくるだろう)


 少し落ち着いた俺は、気を取り直し、トイレを出る。

 直後、カフェのざわめきが耳に戻ってきた。


 俺はできるだけ自然な動作を心がけながら、白石の待つテーブルへ向かった。



 席に着くと、白石が俺の顔を見てニヤリと笑う。


「トイレ……長かったね?」


「う……べ、べつに……!」


 俺は思わず顔を赤らめ、ややムッとした顔で返す。

 しかし、その時点ですでに俺の動揺がバレていることは、間違いなかった。


 咳払いをして、俺は強引に話題を変える。


「ま、まあ……その、話ってなにかな?」


「うん、君の力について、私なりの解釈と論理を整理したいと思ったんだよ」


 白石はナプキンをたたみながら、興味深そうに俺を見つめた。


 そして俺は妄想英雄イマジナリー・ヒーローとして"力を使えるようになった理由"を、たどたどしくも一通り説明した。


 白石は、俺の話を興味深く聞き入り、時折頷きながら顎に手を添えて考え込んでいる。


 話を聞き終えると、しばらくの沈黙の後に白石は、静かに言った。


「なるほど……とても興味深い。妄想を現実にする支配者(オーバーマインド)の科学か……」


「ま、まあ妄想って点で、俺に都合がよか……ったってことかな」


「……シン、君の力、おそらく支配者オーバーマインドが使う”超思考科学”だと思う」


 俺は一瞬息を呑む。


支配者オーバーマインドの超思考科学?……そういえば白石、お前、支配者オーバーマインドは"意識でそこに居る"とか言ってた……よな」


 白石は頷き、テーブルの上に手を置いた。


「シン、君は"量子力学"って知ってるかい?」


「……? なんか……電子とか陽子とか、やたら小さい世界の話だろ?」


 白石はナプキンにペンを走らせ、シンプルな図を描く。


「シュレーディンガーの猫——箱の中の猫が、生きているのか死んでいるのか、観測するまで決まらないという有名な思考実験だ」


「そりゃ……そうだろうな」


「量子力学では、物事の状態は"観測"されるまで確定しない。つまり"妄想"と"現実"の境界すら曖昧なものなんだよ」


 俺は眉をひそめる。


「それが……俺の力と何の関係があるんだ?」


 白石はニヤリと笑い、指を軽く弾く。


「シン、君の能力は——"量子的に存在を決定する力"なんじゃないか?」


「……?」


「君の『妄想』は、単なる幻想じゃない。"観測者の意識"によって、現実のルールを書き換えている」


 俺の脳内に警報が鳴り響く。


(……待てよ。それって……俺が『こうなる』と信じれば、それが実現する……?)


「つまり、"俺の想像が現実になる"ってことか?……でも妄想を重ねたこと以外の想像は現実にならないんだけど」


 白石は微笑む。


「それは、"君が信じた世界を、量子的に固定している"からだよ」


 ——それが俺の力の本質?


 これまで「妄想が現実になる」という認識だったが、それが科学や物理法則の根幹に関わるものだとは思ってもいなかった。


「……それが本当なら……俺の力は、支配者オーバーマインドの科学技術と『同類』……てこと?」


 白石はじっと俺を見つめながら、静かに言う。


「そうだね。でも、それだけじゃない——」


「君は、支配者オーバーマインドの科学すら……超えた存在かもしれない」


 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


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― 新着の感想 ―
おぉ……!選ばれし勇者に、世界を救うメッセージが、神の力で届いたぞ!これで世界の歪みが正される……!ありがとう!妄想神様!(違う)
更新ありがとうございます。  普段はどこまでも真面目で、 ★★★ おれのことを "問題児" として厳しく注意してくるユリが――  さて、作者様に『編集長』と認定呼称されている、私(花丸インコ)は、…
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