1−12 ありがとう
目を開けるとそこは森林だった。
ピチチチと小鳥が鳴く声が聞こえる。
とても安心できる場所だった。
一本道が歩道されているその道に、二人はいた。
ブレンとナハトだ。ブレンは服装は今よりもラフな黒い半袖のシャツにボロボロのズボンだが、数十年前でも二人の容姿はあまり変わらない。
ゆっくりと2人は歩き、エマの前を通る。
どうやら此方の事は見えないらしい。
「んで。何のようだよ。」
「お主に初仕事をさせようと思ってな」
ブレンはムスッとした。
「まだ魔女になるとも言ってないのに」
(え?)
エマは耳を疑った。
だが確かにブレンは魔女にならないと言っていた。
まさかそんな過去があるとは思いもよらなかった。
「で?そんな粗暴の悪い俺になんのようだよ」
「フッ自分で分かってるならまだ頭の悪さはそこまでではないようじゃ」
そんな二人の話をききながらエマは二人の後ろを歩く。
そして、大きな木の前で止まった。
「なんだこの木。随分年老いてるな」
「ワシが作った木じゃ」
「はぁ?何のために」
「隠す為じゃよ」
そういいナハトは木に手を触れる。
木は突然さわさわと動き出し、一人出に枝がそう分かれする。
ビリビリ、と木の真ん中が割れる。
そして1人の身体が木の中から姿を表してきた。
「なっ…」
(え!?)
中から出てきたのはエマ、自分の身体だった。
エマらしきその身体はツタに両手が絡まり、白いボロボロの洋服を身にまとい、赤い髪はツタに巻きつき目を閉じていた。
(なんで私が!?あんなところに…?)
「なんで人があんなとこにいんだよ!?」
「コイツは村の生贄にされたんじゃよ」
村に天災が訪れた。それを鎮めるために、エマは生贄として森に1人置き去りにされたという。
「ワシが来た頃にはコイツは死ぬ寸前でな。そして森と同化も始まっていた。だから無闇に治すことも出来なかった。だから」
「封印させたってことか」
「そうじゃ。ブレン。こいつの封印を解いてみろ」
「はぁぁ!?」
「なんでだよ!自分で解けよ!」
「出来たらとうにやっておる。封印はしたが解くのは無理なのじゃ」
その後、二人の声が聞こえなくなった。
エマは突然身体が後ろに一人出に引きずられる。
「え??なんで?」
もう少し見たい。知りたい。
気づくと場面が変わっていた。
雨の降る日だった。
今度はブレン一人で来ていた。ブレンは木で寝ているエマを見て何か考えている。
ぶつり
また別の日になった。
エマをお姫様抱っこしているブレンがいた。
封印を解いたようだった。
「んん…」
ゆっくりとエマは目を開け、ブレンを見た。
エマはブレンの頬を触れると「あはは…!」と笑った。
ぶつり。
今度はエマが森で走る日になった。
元気に走る中ブレンが追いかける。
「待てエマ!!あんま走ると転ぶぞ!」
「あはははは!」
和やかで楽しそうな雰囲気だった。
ぶつり。
次の場面のエマは元気じゃなかった。
草の中で横たわり、ブレンは毛布をかけて看病している。
ぶつり。
次の場面も、エマは寝込んでいる。
「もう…いいよブレン…私いっぱい走れた」
「喋るな」
ブレンは必死にエマの右手を握り熱冷ましの魔法をしている。
だがエマの顔は一向に赤いままだ。
「ブレン…わかってるでしょ。私がもう駄目な事…」
「うるさい!駄目かどうか諦めるな」
「ブレン…」
ぶつり。
ブレンはエマを抱えていた。
大きな毛布を巻いてあげていた。
「ブレン…今度生まれ変わったら…色んなところにいきたいな…」
「…そうだな」
「旅がいいな…魔法使いに…私も…なって……」
「…あぁ、いいな、それは…」
ブレンの声は掠れていた。
場面を見ていたエマは、途中から視界がグジャグジャで見えない。ほろりと瞳から雫が落ちる。
「ブレン…封印を…解いてくれて本当にありがとう…」
その後、エマは喋らなくなった。
ぶつり。
突然世界は真っ暗になった。
ここはフィンノ村の時に見えた世界と似ていた。
近くには小さな光が見える。
ブレンはその中でチカチカと元気に光る青い光を手に取った。
「ようエマ…久し振りだな」
そういい。ブレンはエマを大きな光の中に入れてくれた。
「行って来い。」
そういい、エマの光は光の中にはいった。
「エマ!」
突然エマは目が覚めた。
夢から覚めたエマには目の前にブレンがいた。
エマはボロボロと涙を流した。
「…ブレン…さま…」
「エマっ!?なんでそんな呼び方っうわっ」
「ブレン様ぁぁあ」
エマはブレンに飛びついた。
訳が分からないブレンは取り敢えずエマの頭を撫でた。
その後、ナハトはブレンに全てを話した。
夢を見せたナハトもそれを了承して夢をみたエマのことも、ブレンは怒らなかった。
その日の深夜は、2人は寝ないで宿の屋上にいった。
2人は毛布にくるまり、エマはブレンの胸の中で温まってくるまっていた。
「どうして忘れちゃってたんだろう…」
「そういうもんなんだよ」
ブレンは煙草を吸っていた。久しぶりだという。
「あの頃の俺は魔女になるよりやりたいことがあった。」
「やりたい事?」
「内緒だ」
「また内緒ですか?フィンノ村で全部話すっていってくれたのに」
前よりも距離がうんと近くなった気がして、エマは以前よりも話が砕けるようになる。
「まぁ落ち着け」
「わぁ…!」
ブレンはエマを後ろから抱きしめられた。
男らしい腕は細くともがっしりとしていた。
ブレンのレディッシュブラウンの髪がエマの前髪にサラリと触れる。
「は…恥ずかしい」
エマは抱きしめられる事が恥ずかしくて腕をどけるようにする。
「駄目」
ブレンはさらにエマをきつく抱きしめる。
「んん!!」
「もう駄目だ。俺の苦労をわかってくれエマ…お前の魂を見つけて…いい場所に魂を流して…エマを見つけて…」
ブレンは長い話をした。ブレンの気持ちを考えると、うう〜確かにとエマは暴れる身体が動かなくなった。
「お前にまたあいたくて…だから俺は魔女になった」
真っすぐで、どこか甘い声。
でもとても懐かしい声だ。
「お前がまた旅をしたいと言った時は本当に嬉しかった」
「ブレン様…」
「前世の記憶を見せた時、お前が悲しむかと思ってた。でも、お前は記憶がなくてもあっても俺を選んでくれた。それが嬉しいよ」
「…」
「だからもうブレーキはかけないからな。今度からの旅は覚悟しとけよ」
「?」
エマはその意味がわからなかった。
「どういう事ですか…」
「もっと溺愛してやる。それも毎日だ。」
「そ…それは…」
「こういう事だ」
そう言ってブレンはエマをお姫様抱っこした。
「わぁ!」
「え?私歩けないの?」
「いや、歩かせる。修行だからな平地なとこは歩かせないとな。」
「いゃ山道はどうするんですか!?」
「山道は駄目だ。また悪魔と話されてはかなわん。それに毒に触れててでもすれば…」
「嫌です!!歩かせてください!」
「駄目だ」
その後も二人の喧嘩は続くも、ナハトはその後自分の領地へと戻っていった。
ナハトはその後自分の領地へと戻ったという。
━━━2年後
「この試合に勝ったら見習い魔女も卒業でしてよ」
そういうのはちまたで有名な見習い魔女ソフィアという少女だ。
ソフィアは四大魔女として充分な力を持っていた。
だがソフィアと同等の魔女もまた1人いた。
無名の見習い魔女エマ。
そして素性を出さないブレンの一番弟子だ。
何故こんな奴も四大魔女の候補者なのかソフィアは訳が分からなかった。
「ソフィア様…負けません!」
エマはソフィアに宣戦布告を言い渡すと離れた場所にいる、大勢には見えない場所までいく。
そこにはブレンがいた。
「ブレン様!」
エマはブレンに抱きついた。
ブレンも背中に手を回してくれた。
そうやって久しぶりの再会に2人は暫く抱き合う。
「ブレン様…私勝つかな…」
エマは弱気になってきた。だがブレンは頭を撫でた。
「大丈夫だ。お前なら」
真っすぐにそういうブレン。
エマは少し自身を持つことができた。
「行け」
エマはその言葉を最後にブレンから走り去る。
「ブレン様明日はデートしてくださいね!!」
ブレンははいはい、といって、コロシアムにいくエマを見送る。
大勢の中エマとソフィアは向かい合う。
2人とも歳はそうそう変わらない。
皆注目していた。
「そういえばさ、この国の前に有名な騎士がいたじゃん、」
突然客の一人が別の話題を友人に話しだした
「あぁ、なんでも凄く腕のたつ騎士がいたな。確かすぐ退団しちゃったんだろ?それがなんだよ」
「いや、そいつも随分若くして騎士団に入団したなぁと思ってな…。名前なんだっけ」
「ほら、あれだよ」
「あれだ!!騎士ブレンだ」
バシ!!大きな音を出してソフィアとエマは互いの杖から魔法を出した。
二人の会話はそこで途切れた。
観衆が聞こえるコロシアムの遠く、ブレンはニコリと笑い「頑張れエマ」と呟いた。
右手には小さな指輪を持っていた。
エマへと上げる指輪だ。
色々と思い通りに描けずとても難しかったですが、とても楽しかったです。
もしここまで読んでくださったなら感謝感激です。