1−11 過去へ
ブレンとエマ、そしてナハトは野宿を繰り返し、街へと着いた。
街へと着いた3人は宿に着くと、ナハトは男は一人で部屋にいろと何故か部屋を2つといった。
まぁ宿だしナハトもいるから別にいいかとブレンは自分が1人の部屋であることをOKにした。
夜。夕飯を食べてナハトとエマが同じ部屋に入り、部屋を分かれてナハトとエマはベッドに着く。
「エマ」
布団を被せ横になり目を閉じると、ナハトに呼びかけられる。
「少し良いか」
エマは閉じた目を開けた。
目の前に先程までベッドにいたナハトがエマの目の前に立っていた。
「ナハト様?どうしたの?」
エマは身体を起こした。
「…」
エマが聞き返しても、ナハトは中々喋らなかった。
「お主はどうしてブレンがあそこまで怒ったかわかるか?」
怒るという言葉から、エマはフィンノ村での出来事を思い出した。
悪魔と喋っていた事をブレンに伝えておらず、目の前に悪魔が再びやってきたという話は、とても恐ろしい事だったという。
悪魔の恐ろしさを知らなかったエマは、ブレンには山で悪魔と出会った事を言わなかったが故にそんな恐ろしい事態を招いてしまった。
「悪魔は簡単に人を殺せるからでしょう?」
悪魔は簡単に人を殺すんだ。ブレンが言った事をエマはそのまま伝える。
「それだけではない。特にお前にとってはな」
「え?」
ナハトは重い口でそういうと、エマの前に座り込む。
ナハトの言ってる意味がよくわからなかったエマは余計混乱した。
「??」
「なぁエマ。ブレンの事を知りたいとは思わぬか」
ナハトの言葉にもドキリ。と心臓が高鳴りだした。
実はエマはブレンの過去をよく知らない。
旅をしてからブレンの親兄弟の話もしたことなければ合ったこともない。結局全部終わったら話すと切り出してくれた件も怒られてから白紙になってしまった。
エマは知ってはいけない気がしたので、何となく口に出せなかった。
「知りたいけど…先生困りそうな気がするの」
そう。旅をともにして、エマはブレンの嫌なこと、好きなこと、そして困りそうな事を何となくわかっていた。
昔の話しを敢えてしないブレンに、エマも無理に聞くつもりはなかった。だが不安はある。
これから先ブレンの知り合いがナハト以外にもいるのだとしたら、自分とまだ旅は続けられるのか。
エマはブレンとの旅が好きだった。
叶うならこのままずっとずっと続いて欲しい。
それでも、昔の話を知ると、この旅の終わりが見えてしまう気がしたのだ。
「なんか…先生の事知ったら少し嫌な気もして…」
「エマ」
エマがモゴモゴと喋るとそれを制止するように名前を呼ばれる。
「?。なに…ナハト様」
ドキドキ、心臓が高鳴った。
「エマ。旅というのはいつか終わる」
ドキリ。心臓が、また高鳴った。それはエマも何処か分かっていて、心の奥底にしまっていた気持ちだ。
「ブレンにも親がいて、家があって、そしてやるべきことがある」
分かってる。ブレンの家の事情を知れば、この旅の終わりが見えてしまう。そもそも旅というのは終わりがあるから旅なのだ。
「それは魔女よりも大事なこと?」
エマは俯きながら聞いた。
「魔女と同じくらい大事なことじゃ」
ポタリとエマの瞳から雫が落ちた。悲しい現実に耐えられなかった。
「もう一度聞くぞエマ。ブレンの事を知りたいか?」
そう言いナハトはエマの両手を握る。エマとと同じくらいの子供サイズの手だが、どこか強く信頼の持てる杖だった。
(温かい…)
どうして部屋を2つに分けたのか。ここでエマはようやく理解した。この話を切り出すためだ。
その手は暖かく。優しい。
旅を同行するのは冷やかしに来たのではなく、大事な事をブレンなしで伝えるためだ。
ナハトの真意に、エマは応えることにした。
いや、応えたかったし、これは自分に取って、必要なことだと思った。
「わたし知りたいです。」
エマは知りたいと思った。例えその行為が旅の終わりが見えてしまう事だとしても、エマはブレンが大好きだ。
ナハトは優しく微笑んだ。
「わかった」
そう言い、エマはベッドに寝るよう促される。
額にナハトの右手が覆いかぶさる。
「過去に行かせる。そのまま目を閉じて、次見えたそこはすべてワシが見た、ワシの過去じゃ。」
「ナハト様の過去…」
「ブレンがまだ見習いの魔女で、今のお主とブレンのようにワシとブレンが修行の旅を続けていたころの話じゃ」
「…わかりました」
エマは目を閉じた。不思議な感覚で急な睡魔がくる。恐らくナハトの魔力が頭に入ったのだろう。
エマは急激にくる睡魔に勝てず、そのまま過去の夢の世界へ誘われた。