姉妹喧嘩5
慈悲と熱の子の連携はおおよそ完璧だった。
私の行動に対して、最適解とも言える選択を常にたたき出す。
下手な攻撃や、小細工は慈悲の子が正面から受けて叩き壊す。
向こうの動きを阻害するように動けば、それをさらに妨害するように熱の子が私の動きを止める。
そんな、足りない部分を補う様に動く彼女たちに、私は千日手のような気分を味わっていた。
このままでは、いつまでたっても倒せない。
私もこのままなら倒されるつもりはさらさらないが、私よりも心配な仲間たちがいるのだからあんまりのんびりすることも出来ない。
だからこそ、見つけた隙を突いて勝負を決めたいのだが、なかなかうまくいかない。
何せ本当にわずかな隙の上に、私の一度見せた技には即座に対応してくるため初見でしか通用しない事が多いのだ。
苦し紛れのぶっ放しだと、まずかからない。
工夫が必要だった。
「光+『権能剥奪――私はあらゆるものを打ち消す』」
今まではあくまで私に付与していた原初ノ天使の力を光に込めて、即興で新しく技を創る。
イメージするのはゼロへと帰す力。その本質。
アレはマイナスを当てて、能力というプラスをゼロにしているわけじゃない。
もしそうならあの能力は発動中は何かを打ち消し続けないと彼自身が消されかねない危険なものとなる。
そうではないのなら、その本質は触れた情報を0に上書きしているのだと推測できる。
私の原初ノ天使は上書きの権能。
そのほとんどの能力再現については後付けによって、無理やり似た現象を起こしているだけで本当に同じ能力を使用しているわけじゃない。
試してはいないが、恐らく希空の能力を再現したら、私はただ作ったコピーの分オリジナルの性能も下がるような下位互換になるだろう。
晴の能力もそう。私がどれだけ自分を強化しようとしてもその上限はあるだろう。
それだけ、あの二人の能力は特異である証明だ。そして私の能力が決して万能ではないという事だ。
しかし、九重の能力は別。その本質がかなり私の能力近い。
あの能力もまた、すこし毛色が違うことも合わせて考えれば、思いつくのはアレもこの塔の研究によって生まれ、私の力を解析して完成した存在ではないのだろうか。
だからこそ、その本質が似ている。
まぁ、理由はどうでもいいか。
似ているという事実が大事だ。
つまりは、私の能力による他者の能力再現には限界があるが、最初から似ているゼロの能力だけはほとんどその性能を落とさずに真似ができるという事。
そして、彼に出来なくて私にできる事。それはその力を私以外にも付与できるという事。
その制御を人ならざる天使としての権能がアシストし、彼には不可能なレベルで行使できるという事。
「『消失の光』!!」
そうして放たれるのは、触れるものを消失させる光。
そこに普通ではない何か、つまり能力による干渉が働いているのならば即座にそれを浄化し、普通の状態へと帰す能力者殺しの光だった。
「慈悲ノ天使『私は弱い』」
それを迎え撃つのは慈悲の子だ。
今までも、ほとんどの攻撃を正面から打ち砕いてきた。
脳筋系の能力者。
私の能力は今でこそとれる選択肢は豊富にあるが、そもそもが私にとっては相性が悪い相手でもある。
固く、強く、早く。それだけで私は苦戦を強いられてきた。
しかし、明確に彼女に攻撃を通せたことを私は忘れない。
私が自己強化を発動した時だ。
あの時は恐らく直前にその付与をした結果、慈悲の子の予想や想定を超えて私が強くなっていた。
その結果、慈悲の子の対処が遅れて私の攻撃が上手く入ったのだ。
彼女の権能の想定を超えれば、ダメージは入れられる。
だからこそのこの一撃だった。
私の放った消失のレーザーはまっすぐ慈悲の子へ到達し、慈悲の子がそれを受け止めた。
今まではその拳の一振りで掻き消えていたレーザーは、今回はダメージを与えるほどの収束をしてない。
見た目だけの本当にただの光だった。ただし、それに触れればおしまいだけど。
「ッ!!!」
光に包まれた慈悲の子は、その身を包んでいた権能がはがれていくことに驚いたのだろう。
体を硬直させていた。
頭上に輝いていた紅いヘイローも、紅いラインの入った翼も肌も、元の少女のものへと戻っていた。
ここだ、今この瞬間しかない。
彼女たちが無防備に私の光を受け入れてくれるタイミングなんてここしかない。
だから、ここで何が何でも決めないといけない。
「『もえさかるこおり』!!」
次の瞬間、慈悲の子の周りに灼熱を纏う氷がせり出して、まるで守るかのように壁を造ってしまう。
いや、事実守るつもりで出したのだろう。
だが、それも何度も見てきてその性質をおおよそだけど把握していた。
恐らく熱の子の能力は私の権能をモデルに作成されたもっと使いやすく、しかしもっとエネルギーに特化した能力なのだろう。
炎は熱を高い。しかし、それを熱の移動という観点で考えれば、炎はどんどんと熱のエネルギーを放出しているとも考えられる。
それは逆に言えば、炎の発生点からは熱が、エネルギーがどんどんと失われて冷えて言っていると考えられないだろうか?
その結果が凍り付く炎という現象なのだとしたら?
あの灼熱の氷はその逆なのだろう。
だとしたら、アレに触れるのはダメだ。攻撃も無駄。
ならば、それを避けなければいけないが、完全に覆われた氷の中にどうやって入るのか。
簡単だ。
あの氷は透明度が高い。向こう側が透けて見える。
それはそうしなければ中にいる慈悲の子が外の様子を確認できないくて、対処できなくなるのを防ぐためだろう。
しかし、中を見ることができるという事は光は透過しているということ。
光なら中に入ることが出来るという事。
しかし、攻撃力を確保するために収束した光ではだめ。
攻撃ではない光を送り込まなきゃいけないが、それでは慈悲の子に何もできない。
だからこうする。
「光『光と翔けろ』」
この能力を持っていた子が切り札として、奥の手として使っていたこの光の奥義。
私にはリスクが高すぎて上手く使えていなかった、しかし原初ノ天使が可能にしてくれた緊急脱出。
それを緊急侵入に使う。
光の粒子に変換された私はあらゆる干渉を阻むように囲う鳥籠のような氷の檻の中へと体を映していく。
密度を高くして、あの灼熱に囚われたらただの自爆になってしまうから、慎重に。
「今の私を止めたかったら光の一筋すら入らない暗黒空間を創るんだね」
氷の中で光の体を集めて構成しなおす。
構築し直した私の体が、慈悲の子を捉える。
「慈悲ノ天使『私は―』」
「させないよ」
急な戦場の変化について行けずに硬直していた慈悲の子が、目の前の脅威に対処しようと能力を発動仕掛けるが、それを許す私じゃない。
まだ、半ば光のままな体を利用し、光速に近い速度で肉薄して口を抑えつつ慈悲の子を組み敷く。
「悪いが、このまま動けなくさせてもらう『権能剥奪――私は動きを封じる者』」
先ほどは能力に対してゼロにする光として使った力を、今度は肉体が動かないように使う。
天使は四肢の運動エネルギーを強制的にゼロにされることで、藻掻くことも出来ない。
「よし、これであとは熱の子だけ―」
「慈悲ノ天使!!!!!」
「な!?」
完全に肉体の運動エネルギーを消滅させたはずだ。
なんなら、内臓なんかの無意識で動いているものの運動エネルギーも対象に入れたから心臓なんかも止まっているはず。
ましてや声を出すなんてできるハズがない。
どうして?
もしや、何か天使を動かすプログラムに危機に瀕した時に発動する何かがあったのだろうか?
いや、だとしても肉体の動きが封じられているのだ。
例えそうだとしても能力をどうやって起動するというのだ。
いや、違う。
能力はそもそも声に出さなくたって使える。
使うと言う意思さえあれば。
それを明確に自分に自覚させるために名前を呼んでいるんだ。
しかし、それは意思がないといけない。
あんなシステム的に能力を使っている彼女たちに、そんな私の能力をはねのけるほどの意思があるとは思えない。
「私、私は!!『私はこのままでは死ぬ』私は!私は『私は不自由だ』!!!」
それは、今まで聞いていた声とは違ってあまりにも根源的な声。
まるで意思があるかのような、本当の叫び声に聞こえた。




