頂上4
「ほらほらほら!!さっきまでの上から目線の偉そうな講釈はどこ行ったんだよ!」
油断していた博士に一発をくらわせて、麻痺が抜けた俺はそのまま博士に攻勢を仕掛けていた。
正直、博士のもつ手札は謎が多い。
オウルが元々協力していたこともあり、その手札は無数にあるだろうし、天使たちもやつの研究によって創られたのなら、もっと普通の能力だって持っているはずだ。
対して、今の俺はそんな大したことは出来ない。
せいぜいがちょっと肉体を強化して、暴れまわることしかできない。
それゆえに対処もしやすく、実際に先ほどまでは徹底した俺の行動に対する対処をした結果、地面に横たわることになってしまった。
何も考えずせめても先ほどの二の舞になる。
だからこそ、口を止められない。
「調子に乗るなよ!麻痺」
「はっ!何度見たと思ってんだ!!」
博士の放つ、行動を阻害する電気ショックのような能力。
目に見えず、気が付けば全身が痺れている。
一発一発の威力はそこまででもないが、何度もくらえば麻痺が蓄積して先ほどみたいに上手く体を動かせなくなる。
そんな、こと戦闘においては確実に有利を取れるような能力だが、そこはただの能力。
天使たちの”権能”や、九重みたいな特殊な能力じゃない。
つまりは、完璧じゃない。
実際、来ると分かった瞬間に思いっきり回避行動すれば避けられたことも何回かある。
精度も何度もくらったおかげで、徐々に良くなってきている。
なにか付け入る隙があるはず。
そう考えてからじっとそれを観察して気が付いた違和感。
博士は能力の名前を口に出して使用しているが、それが謎だ。
俺たちが使う能力は、基本的に最初の軌道さえさせてしまえば、ON/OFFも含めて心の中で願うだけで実行できる。
それでも名前を言うのはイメージを固めるためであったり、強く意思を込めるためであったりだ。
実際、俺が能力を使う時は最初の軌道時に名前を唱えて、後は心の中でどの力を増幅するかを意識するだけで使えていた。
天使はよく能力の名前を唱えていたが、それはレーザーのイメージを強く持つためであって、それを言わないとレーザーを放てないわけではなかったはず。
特に、博士の今使っている技は目に見ることが出来ない電気ショックの技だ。
それは発動のタイミングを悟らせなければ完全な必中となるし、そもそも俺がアレをくらってもある程度動けるのは、それが来ると分かっているから身構えているだけなのだ。
つまりは何かメリットがあるにしてもデメリットの方が大きいように見える行動ということ。
博士が思ったより挑発に弱い事が分かって、先ほどから冷静にならない様に煽っているがそれにしたって不意打ちのメリットを捨てるほどに判断できないぐらい揺さぶれているとは思えない。
そうして、気が付くもう一つの違和感。
能力は人間が元々持つようなものではない。
ティリス・アナザーという外付けの装置によって、後天的に得る新しい人間の形だ。
俺たちは例外なくアナザーを輝かせて、能力を使う。
しかし、博士はいまアナザーを何も取り出していない。
何処かに隠しているのか、俺の知らない技術によってアナザーを輝かせなくても能力を使えるのか、それは分からない。
分からない事を考える余裕はない。
だから、ちょっとだけ思い出したことを考える。
ここに来る前の作戦会議、あそこでオウルが言っていたこの塔の防衛システム。
機械に組み込まれたアナザーがそれぞれプログラムされた通りに自動的に発動する。って話。
もし、この電気ショックの能力がこの防衛システムの一環だとしたら?
博士が毎回、名前を呼ぶのはつまりは発射のキーワードとしてこのシステムに組み込まれているからでは?
なら、この電気ショックは博士から放たれているわけじゃないハズ。
直接ショックを与えるにはタイムラグがあるし、そもそも避けられないはずだ。
だから、この電気ショックは何かの発射装置かなにかで、発射しているはず。
この部屋は広いが、壁際には沢山の水槽が並べられているから、物を隠すには事欠かないだろう。
このまま博士をねらっても何かで邪魔されるなら、まずはその邪魔なものを排除したい。
俺はそんな考えをした瞬間に、全速力で壁際に向かう。
「!!?チッ!麻痺」
一瞬俺が向かっていた壁の、一部からチカッと光が放たれる。
俺はとっさに横跳びをする。
万が一に備えて体に力をいれて供えるが、何も起こらない。
どうやら上手く避けれたらしい。
そして、一瞬光った場所へと向かう。
「待て!!」
「誰が待つか!」
そうして、見えたのは入り組んだ配線の中で隠れるように顔を覗かせる、監視カメラのような見た目の銃座。
「麻痺!!」
後ろで博士が唱えるのが聞こえる、銃口が輝く。
咄嗟に体を捻って躱す。
俺はその銃座を無理やり破壊して、そのまま銃のように構えて、博士に向ける。
「試すぞ、麻痺!」
しかし、それは博士の時のように輝かない。
「馬鹿が!発動に声帯登録してあるに決まっているだろう?」
流石にそんな簡単じゃないか......
「カラクリを見破ったのは褒めてやる。お前は私が思っていたより賢いな。だが、そうされても問題ないように構築するのが策というものだ」
博士は指を鳴らす。
その音と共に現れるのは無数の機械兵。
一体どこから現れたのか、その数はこの広い部屋を埋め尽くさんばかりであった。
「あまり部屋を荒らしたくなくてね、こうして物量に訴えるのは嫌だったんだが、粘る君のせいでこうして頼らざるを得なくなった」
博士の表情は、先ほどまでの俺の挑発によって焦っていた顔ではなく、冷静さを取り戻し絶対的な優位を確信した顔だった。
恐らく、いい感じに博士の予想を上回ってしまったからだ。
きっと、それによって逆に冷静にさせてしまった。
博士を怒らせて、隙を作る作戦はこれで振り出しだ。
しかも、雑魚に守られる博士をどうにかしなくちゃいけなくなった。
ハードモードだ。
「.........やってやるよ、この部屋を埋め尽くすガラクタの山を築いてやるから、ちょっと待ってろ」
「ほう、では肉の染みが出来る前にやってみてくれたまへ」




