抱えた秘密3
落ちた先は思ったよりも深くなく、
ただ、そこそこの広さがありつつも、様々な機械が乱雑に置かれた部屋に出た。
「無力!!」
そこまで深くないとは言え、それは思っていたよりという話であって、
怪我をするに十分すぎる落下をしているので、とりあえず能力で衝撃を0にして着地する。
暗く、目を凝らせばものが沢山あることが分かる程度の光源が設置されている以外は本当に何も見えない。
これでは下手に動けば何か変なトラップに引っかかるかもしれない。
少なくとも、ここに俺を落としたあの天使はここのどこかにいるだろう。
そう思っていたら、
「生命ノ天使」
そう言葉が聞こえた。
瞬間、どこからともなく機械的な見た目の刀剣が飛んで来る。
「ッあ、ぶないな!!」
ギリギリで躱す。
アレが何か不思議な力で浮き上がっているとかじゃなくて助かった。
あの刀剣は何やら推進装置が取り付けられていて、それにおよって空を飛んでいる。
おかげ、その推進装置の光で飛んで来るのが見えたから躱せた。
「これは......ガチで取りに来てんなぁ」
とりあえず、こんな機械が乱雑に置かれた状況では、どこからどんなものが飛んで来るか分かったものじゃない。
咄嗟に発動できるほど、器用でもないからな。
「無力」
物理的なエネルギーを0にする力を全身に適応する。
これで、少なくともあの飛んで来る剣はもう怖くない。
あとは、油断しすぎないようにしつつ、あの本体を見つけないと。
そうして、あたりを見渡せば、妖しく光る一つのカメラ。
余りにも貧弱そうで、大した機能も持たされていないかのような地味な見た目の機械。
「これか!!」
「生命ノ天使」
それを見て、反射的に手を伸ばす。
それがどんな権能を持った天使だろうが、その肉体...肉?まあいい、体が機械で出来ている以上は、俺の能力とは相性が悪いはず。
その身体を動かすエネルギーさえ0にしてしまえば、こんな無駄な戦いは一瞬で決着がつく。
そうして、伸ばした手に何かが発射される。
天使があの機械を操る能力を使用したのだったら、俺の行動を妨害するために銃でも撃ったのだろうが、今の俺は全身を物理無効状態にしてある。
それが着弾しても、俺にそよ風ほども影響はない。
はずだった。
飛んできた何か衝撃によって腕を大きく弾かれてしまう。
「は?」
おかしいだろう?
今の俺にどんな物理的な現象も影響を与えられない。
なんなら、少しでも制御を誤れば、俺自身の運動すら無にしてしまうような状態だぞ?
なのに腕が弾かれる?
つまりは、今飛んで来たのは物理的な攻撃じゃないという事だ。
それが意味するのは...
「『疑似生命ー波動の射手』」
どこからか狙われている。
リアルに感じる、視線。殺気。
体中の肌が泡立つような緊張感が場を支配する。
それでも、さっきの弾かれたときの角度からなんとなくの方向は分かる。
それに、目の前の天使を無力化してしまえば、今もなお俺を狙う狙撃手だって止まるんだから、無視だ。
「生命ノ天使、『疑似生命ーもう一人の私』」
そして、俺はそのカメラしか機能がなさそうな天使の機体を掴み。
電気エネルギーを0にして、この機体をまともに動けない様にする。
いくら天使とはいえ、0からエネルギーを生むなんてことは出来ないだろう。
これで全て終わる。
そう油断した。
「ッガ!!?」
背中を撃たれた。
衝撃が背中から肺を経由して胸に届く。
一瞬とは言え確かに衝撃を受けた肺が驚いて、空気を吐き出してしまう。
「ゲホゲホッ!!」
どういうことだ?
あの狙撃手を創ったのは天使の権能じゃないのか?
天使は確かにいま、俺の手で動けないように...
いや、待て。
よく思い出せ。
オウルはなんて言っていた?
天使の事を言う時は、独特な…恐らくは能力に根差した名前で呼んでいたはずだ。
「熱」に「慈悲」に...「生命」だったか。
そして、「生命」が機械を操る能力とも。
なら、今俺が戦っている相手は「生命」の天使なのだろう。
機械をあやつる能力で生命とは皮肉の利いた名前だとは思うが、そうだろうか?
分かりやすいのは「熱」の天使。
あの派手な銀色の炎を思えば、「炎」の天使でもよかっただろうにあえての熱。
そして、あの天使は炎で凍結し、氷で高温を使用していた。
ならば、生命とは?
また、どこからか声が聞こえる。
機械音声のような声が、
「生命ノ天使、『疑似生命ー空駆ける剣士』」
そうして、どこからか飛んで来るのはさっきも見た、推進装置が取り付けられた剣。
それが俺に狙いを定めて飛んで来る。
「うお!」
それをビックリして飛び上がることで奇跡的に回避する。
いや、まだ全身を物理無効にしているから当たっても問題ないけど、避けられるなら避けといたほうがいい。
あの天使は機械...ティリス・アナザーを含むあらゆる機械を操るなら、いつ物理じゃない攻撃が飛んで来るか分かったもんじゃない。
そして、もう一つ分かったのはどうやって先ほどから俺にも通用する狙撃が出来ているのか…
そもそも、機械だからといってアナザーを自由に操れるなら俺のも扱えるはず。
つまり、アナザーを能力を使うには制限がある。
そして、アナザーが人間に能力を与える機械であるという事を思えば...あの天使が能力を引き出している方法は、
「つまりは、あの天使の権能は機械を操るとかじゃなくて、機械に命を吹き込む権能っちゅうことやな」
機械に命を吹き込み、生命にする。
そしてそれを人と定義、仮定して無理やりアナザーを使用させる。
実際の所がどうなってるかは分からんが、それに似た理屈でもってアナザーの特性を無視しているんちゃうかな?
そして、その能力をもってもし俺の無力化から逃げ出したのなら...
例えば、命を与えるときに、天使自身の命を与えられるとしたら?
与えた命に人と定義をすることが出来るのなら、与えた命に天使であると定義したら?
それはつまり、このカメラの機械は天使の本体でもなんでもなくて、
仮に乗り移っていただけなのだとしたら?
というか、そろそろ次の狙撃が...
最初と2射目のスパン的にそろそろ、
「ッグゥ!!」
予想通りに飛んできた衝撃。
それを腹に受け、思わず悶絶する。
来ると分かっていたから、吹き飛んだり嫌な場所にヒットする事は無かったものの、それでも腹に喰らえばこみ上げてくるものはある。
クソが、完全にこの狙撃は今の俺をメタってきている。
物理を解くわけにはいかない。
それをしてしまえば機械の重さで圧殺するだけで、俺は負けてしまう。
それに俺の肉体は普通の人間程度の強度だと言うのに、ちょっと強めに殴られた程度の威力しか出ていない狙撃よりも、飛び回る剣の方がはるかに怖い。
だから、このままの方が今はまだ安全だ。
「くそ、どうしろってんだ」
しかし、状況は悪い。
天使の本体は恐らくボディを捨てて逃亡。
俺を着け狙うのは一撃必殺の飛び回る物理ソードと弱いが確実な能力狙撃のペア。
この状況で、いつでも体を移り変われるであろう天使を逃がさない様に探し出して撃破?
死にゲーだってもうちょっと優しいぞ。
「ターゲット確認補足、照準」
そして、さらにダメ押しとばかりにそんな機械音が響く。
その声の方を向けば、明らかに様々な機械を組み合わせて作りましたと、言わんばかりの見た目をした翼を持った人形。
「あ~、戦闘用スペアボディ...............的な?」
そして、明らかに今チャージ中ですという音と光を発しながら手のひらをこちらに向けてくる人形。
手のひらがガシャンとまさにロボットのギミックのように拡張展開し、エネルギーを貯めた砲が見える。
あれって、物理か?それとも能力か?
俺にはそれを避けるほどの速さがない。
俺にはそれを耐えるほどの耐久性がない。
だから、状況に合わせて無効化しなきゃいけない。
だけど、それが分からない。
どっちだ、物理?能力?
そうやって判断を迷っている間に、天使の人形から放たれたビームが俺の全身を包んだ。




